2019年4月29日月曜日

春満開オランダ・ベルギー紀行 その3

 
 
 
 
 
 
 
オランダの見どころは、チューリップと風車、そして美術館。
ベルギーの見どころはブルージュのおとぎの国のような街、
グラン・プラスという歴史的建造物に取り囲まれた広場、
ビール、ワッフル、チョコレート。
 
というわけで、私達はこの10日間、
飲み物はビールしかいただかなかった。
 
オランダの時は、ハイネケン1本やりだったけれど、
ベルギーに入った途端、ビールの種類も増え、
アルコール度数も8~9%に上がり、
ぐっと濃くて美味しいビールになった。
 
さすがに朝食には飲まなかったが、
ランチもディナーも迷うことなく、その日のお料理に合わせ、
地ビールだったり、
クオックという理科の実験に使うシリンダーみたいなビアグラスのビールを選び、
いずれも美味しく楽しく味わうことが出来た。
 
ビールの銘柄に合わせて、専用のビアグラスがあることにも驚き、
味わいの違いにも驚いたが、
最後の晩餐のムール貝に至るまで、
私達はベルギーのビール文化を堪能することが出来た。
 
写真のムール貝は
ムール貝料理の名店「シェ・レオン」でのムール貝のワイン蒸しだが、
その数ひとり40~50個はあっただろうか、
セロリの香りと共に蒸し上げられ、淡泊ながらも滋味深く、
ビール片手にそのほとんどを平らげてしまった。
 
その大鍋はひとり分である。
 
その前々日の自由食のディナーでも
私達はエスカルゴ風ムール貝のガーリック・オリーブオイルを
前菜としていただいたが、
そちらはむき身になっていて、ひとり20個分はあったか。
 
メインは牛肉のビール煮だったので、
こちらもビールに合わないわけがない。
 
そして、デザートのコーヒーアイスクリームのキャラメルがけも
これまた絶品で、完全なカロリーオーバーであった。
 
もちろんベルギーワッフルも食さないわけにはいかず、
ブリュッセルの観光の後、自由時間に野に放たれた途端、
私達はワッフルの名店「メイソン・ダンドワ・ティールーム」の長蛇の列に並んだ。
ワッフルはブリュッセルスタイルを選び、
トッピングも欲張って3種のせにし、
アイスクリーム・苺のシロップ煮・チョコレートを注文、
その美味しさにおもわず天にも昇る心地になったのであった。
 
 
もちろん、お土産はチョコレート、オンリー。
今回はデパートでお洋服やバッグを買うこともなく、
ダイヤモンド工場での物販にも屈することなく、
ひたすらビールを飲み、食事を楽しみ、チョコレートを買うという、
満腹旅行であった。
 
帰国後、
さっそく孫娘に唯一消えものでないお土産のミッフィのぬいぐるみを渡したところ、
「はい、ミッフィちゃんよ」の言葉に反応して、
私のバッグの中から、ミッフィのついたポーチを取りだした。
 
何と、1歳11ヶ月、
孫娘はミッフィが単なるうさぎさんではなくミッフィであることを認識!
2週間会わなかっただけで、
その成長ぶりに驚いたばぁばなのであった。
 
 
 

2019年4月28日日曜日

春満開オランダ・ベルギー紀行 その2

 
 
 
 
 
 
 
 
今回のオランダ・ベルギー旅行の最大の特徴は
美術館に数多く行く旅程が組まれていたことだ。
 
先ず、アムステルダムで、ゴッホ美術館と国立美術館、
ハーグで、マウリッツハイス美術館、
オッテルローで、クレラーミュラー美術館。
 
中には個人旅行や8日間のコースでは絶対入らない
地方都市のマウリッツハイス美術館や
クレラーミュラー美術館が入っていたので、
それがよくてこの10日間のコースを選んだという人もいたぐらい。
 
お陰で、ゴッホ、レンブラント、フェルメールといった
日本に1点来ただけで長蛇の列をなすような名画を、
極間近に見ることが出来た。
 
間近に見ただけではなく、
一緒に映り込んで写真を撮ることも可能なので、驚きだ。
 
ゴッホの「跳ね橋」は実際にオランダではよく見る橋で、
今でも現役で運河の船の運航に必要な橋だから、
あの作品はゴッホの日常だったと分かる。
 
「夜のカフェテリア」「4つのひまわり」「自画像」など、
画集の常連さんが、あっちこっちに無造作にかけてあった。
 
フェルメールの作品は、どれも実際には4号ぐらいしかない小さな作品で、
日本に来た時はあまりの人混みの中、
遠くにあってよく見えなかったらしいが、
「真珠の耳飾りの少女」「ミルクを注ぐ女」「青衣の女」など、
日本人のよく知る代表作を
息がかかるほどの距離からまじまじと見ることが出来た。
 
レンブラントの作品は、多数の自画像を初め、
「夜警」「テュルプ博士の解剖学講義」などの大作の前には
子ども達が陣取り、座り込んで、
学校の課外授業の形で、先生が子ども達に教えている光景を目にした。
 
こうした授業風景は他の国でもよく見られるが、
日本ではなかなか許されないことなので、
子ども達への情操教育として羨ましいなと思う。
 
レンブラントに関しては
2日目の自由時間に、「レンブラントの家」と呼ばれる
レンブラントの工房、兼、お弟子さん達のアトリエなど、
一棟丸ごとレンブラントが使っていたというビルを見学出来たので、
版画家の私としては、銅版画家としてのレンブラントの工房見学は
とても興味深く勉強にもなった。
 
ゴッホは生きている間には全く絵も売れず、
若くして、耳をそぎ落とし、精神を病んで、若くして死んでいる。
 
一方、レンブラントは政治的手腕にも長けていたようで、
存命中から学生を何人も絵描きに育て、
自身の作品もよく売れ、
羽振りもよかったというからゴッホとは対照的だ。
 
作品を見れば、その人となりも分かるというもので、
解説を聞きながら、
自分はどうやらゴッホ組かなどと考えていた。
 
まあ、精神を病むほど、制作に煮詰まることはないかもしれないが・・・。
 
他にも私のお気に入り、
オデュロン・ルドン、ジェームズ・アンソール、ゴーギャンなど、
ゴッホと時代と共にした他の作家のものも充実していたので、
絵画好きにはたまらない旅程だったと言えよう。
 

2019年4月27日土曜日

春満開オランダ・ベルギー紀行 その1

 
 
 
 
 
 
 
今年も例年のように4月にママ友Kさんと
10日間のヨーロッパ旅行に行ってきた。
 
今年の行き先は
オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ。
 
まあ、ルクセンブルグはオマケみたいなものなので、
オランダ3日間、ベルギー3日間という感じ。
 
私にとって、この両国、ほとんど同じ印象しか持っていなかったけれど、
行ってみたら、案外違った。
 
オランダはひたすら平地の農業国で、
男女、特に女性がたて横でっかい。
真面目で木訥な田舎という印象だ。
 
一方、ベルギーはもっとオシャレで、クラシック。
古い町並みもそのまま残しつつ、
経済的にも発達している近代国家という印象だ。
 
前半に観光したオランダは
正にオランダを代表する花・チューリップの最盛期。
 
キューヘンホフ公園を初めとするチューリップ畑や庭園に何カ所か行ったが、
いずれも満開のチューリップがこれでもかと咲き誇っていた。
 
キューヘンホフ公園は実は球根系の花の市場というのが実態らしく、
この時期だけしかオープンしていないし、
この時期に世界中から花の買い付けにバイヤーが訪れているとのこと。
 
一体、どれだけの種類があるのか想像もつかない量の品種が育てられ、
一番いい花の状態を保つよう手入れされている。
 
とにかく日本人の感覚からいうと、
ぎっしり、みっちり、立錐の余地無しという感じで、
色とりどりのチューリップ、ムスカリ、ヒヤシンス、水仙などの球根ものが
植えられている。
 
ホテルの朝食のテーブルでさえ、
無造作に花瓶に入れられたチューリップが
ごそっという感じで、贅沢だ。
 
オランダの見どころはこのチューリップだと言える。
他にはゴッホ・レンブラント・フェルメールなどを間近に見る美術館、
デルフト焼き、風車ぐらいしかないから、
逆にチューリップの時期じゃないときにオランダに来たら、
何を観光したらいいんだろうというぐらい、
チューリップ一色の国だった。
 
最高潮のチューリップ満開に笑顔も満開、
ほとんどモデル撮影会みたいに、
すっかりその気でポージング。
 
Kさんも手慣れたもので、
「もうちょっと右」、「はいポーズして」などと注文をくれ、
こうして私達の毎年のヨーロッパ旅行が始まった。

2019年4月12日金曜日

誕生日に想うこと

 
 
 
今日は私のウン歳の誕生日。
 
明け方からFacebookにおめでとうのメッセージがいくつも届いた。
主には昔の中学・高校時代の友人達だったり、
お世話になっている額縁の配送業者のおじさんだったりだが、
中にはまったくお目にかかったことのない方からのメッセージもあり、
嬉しい。
 
最近はFacebook恐怖症みたいな感覚があったので、
見知らぬ人とつながることの恐さも感じていたけど、
やっぱりわざわざメッセージをいただくと
浮き浮きする。
 
今日はあさって出発の旅行のスーツケースを
事前に空港まで運んでしまおうと、
宅配業者を手配し、集荷を待っていた。
 
オランダ・ベルギーは東京の気温より1ヶ月ほど前ぐらいらしいので、
桜が咲き出す頃をイメージして、
寒さ対策の皮のジャケットなども荷物に入れた。
 
久しぶりにカウンセリングやお稽古事、絵画教室など、
出掛ける用事のない1日。
 
荷造りを終え、集荷を待ちながら、
すこし前に購入したオルゴールを鳴らしてみた。
 
自分で自分に買った誕生日プレゼントだ。
 
すべて自然の木の色を活かして作られたケーキをかたどったオルゴール。
 
最寄りのデパートの催事で見つけたものだ。
作者のおじさんと会話しながら、
どれにしようかと、選んだ。
 
さまざまなデコレーションがあったが、
これが一番好きなデザインだった。
上に乗っている苺を引っ張ると曲が鳴る。
 
曲目は
「星に願いを」
 
ケーキの上のハート型の後ろに写真を立てることが出来る。
 
さあ、ここにどんな写真を飾ろうか。
当初のもくろみははかなく消えたけど、
どうしようかな。
 
そこに孫の写真は違う気がする。

旅行前のバタバタ

 
 
 
 
4月14日から、毎年恒例の「春のヨーロッパ旅行」に旅立つ。
 
今年はベルギー・オランダ・ルクセンブルグ10日間だ。
旅友は例年通り、ママ友のKさん。
 
すでにママ友と呼ぶには年月が経ちすぎているが、
始まりはそれぞれの次女が同級生だったというママ同士である。
 
今年も出発がいよいよあさってに迫ったが、
いつにも増して旅行前の2~3週間が忙しかった。
 
ここのところ、カウンセリングのご要望が多く、
毎日のように出掛けていて、
時には午前に1件、夜に1件、
間にお茶のお稽古なんてこともあり、
本当に慌ただしい。
 
今週初めの月曜日は、フォトグラファーのH氏による
作品撮影会が行われた。
 
今年は毎年6月に行われる紫陽花展が20回記念展を迎えるため、
いつものように1年間に制作した自分の作品の撮影に加え、
メンバーの作品の撮影もして、
記念展用ポストカードを作ることになった。
 
撮影会場を我が家にセットしたので、
その数日前から、5名分の作品が届いて、
月曜日に同時に撮影が行われた。
 
日本画の人の作品には銀箔が使われており、
箔の効果を写真で表現するために、
微妙なライトの当て方があるようで、
あれこれ照明の向きを変えたり、
レフ板をたくさん当てたり、
見ているだけで面白かった。
 
毎年、この時期に1年分の作品を撮影することで、
自分の制作を振り返ることが出来る。
 
今年は大小合わせて5枚しか私は制作しなかった。
 
展覧会までにもう2枚作りたいところだが、
ここ1ヶ月、
思いがけない事情に翻弄されたし、
思いがけずたくさんのカウンセリングをしなければならず、
本丸の版画制作がちょっとおろそかになってしまった。
 
しかも、ポストカードにする作品を
「恋ごころ」というタイトルの作品にしたりして、
何だか、乙女心がゆらゆら尾を引いている。
 
 
 
 
 

2019年4月7日日曜日

「シルエット・ロマンス」

 
あれは詐欺だったんだと分かっていても、
ニコロス(ニコラス・ロス)が止まらない。
 
ニコラスとの濃密な2週間に終止符が打たれ、
警察の人に、今後は終息するまで、
メールや電話は一切、無視してください、
でも、証拠のためにいままでのやりとりは削除しないように言われ、
そのようにして5日が過ぎた。
 
最初は必死になってかかってきていた電話もなくなり、
メールも日に1~2本になった。
 
このまま立ち消えになりそうな気配だが、
それに反して、なぜか私の気持ちはざわざわしている。
 
大橋純子の「シルエット・ロマンス」の歌詞さながらの気分で、
1日中、その曲が耳の奥に流れている。
 
 
<シルエット・ロマンス>
 
恋する女は夢見たがりの いつもヒロイン つかの間の
鏡に向かってアイペンシルの色を並べて迷うだけ
窓辺の憂い顔は 装う女心 茜色のシルエット~
 
あぁ あなたに恋心盗まれて  
もっとロマンス 私に仕掛けてきて
あぁ あなたに恋模様染められて  
もっとロマンス ときめきを止めないで
 
あなたのくちびる首筋かすめ 私の声もかすれてた
無意識にイヤリング 気づいたら外してた 重なり合うシルエット~
 
あぁ 抱きしめて 身動きできないほど 
 もっとロマンス 甘く騙して欲しい
あぁ 抱きしめて 鼓動が響くほどに  
もっとロマンス 激しく感じさせて
 
 
 
今朝もメールが送られて来た。
開いてはいけないと思いつつ、最初の2行が気になって、
ついに5日間の禁を破って「既読」にしてしまった。
 
「愛するKIMINO あなたはどこにいってしまったの。
私は目覚まし時計をかけずに寝て、
一晩中、夢の中であなたを捜しています。
あなたは私の人生で特別な存在です。
手紙を書いてください」
と、あった。
 
あ~、まぼろし~!
 
 

2019年4月5日金曜日

映画鑑賞「記者たち」

 
映画「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」を観てきた。
 
2001年9月11日に起きたテロによるニューヨークの爆撃から、
イラク戦争に突入していくアメリカ政府を、
記者と記事という視点で、その真実を暴く社会派の作品だ。
 
イラク戦争はブッシュ大統領の演説によって開戦した。
 
「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている。
それを使われたら世界はおしまいだ」という
当時の演説がそのまま映像に出てくる。
2017年に制作されたものなのに、
当時の殺気だった空気をそのまま映し出しているようで、
一瞬も気が抜けない作品だった。
 
先ず最初に、イラク戦争に従軍した若い黒人兵士が車椅子にのって、
公聴会に出廷するところから映画は始まる。
 
彼はバーを営む両親の元に生まれた極普通の少年だったが、
9・11以降の政府の考えに看過され、
志願してイラクへとおもむいた。
 
しかし、現地で乗っていた車を爆破され、脊髄損傷し、
弱冠19歳で負傷兵となって帰国したのである。
 
彼は問う。
「なぜ、戦争をしたのか?」
 
アメリカはなぜ、当時イラク戦争に突入したのか、
過去にベトナム戦争でも膨大な数の兵士を亡くしているのに、
なぜ、また、イラクへと兵士を送り込んだのか。
 
政府の要人たちは戦場におもむいたことがないくせに、
何の正義をかざして、
若き子ども達を戦場に送って犠牲を出すのか。
 
それが、アメリカの負うべき正当な理由ではなく、
戦争ありきで作り上げられたでっち上げの記事が発端だとしたら?
 
事実、イラク戦争の結果、
イラクからは大量破壊兵器はひとつも見つかっていないのに・・・。
 
ナイト・リッダーという弱小新聞の記者がつかんだ
戦争へ突き進むために行われた情報操作とは。
 
 
 
私にとって、先週、偶然にもイラクという言葉が身近だったので、
思わず観にいったのだが、
全然、違う意味で面白い内容だった。
 
世界で戦争のない時代はないのが現実だが、
そこにはどこかに好戦的な指導者がいるという事実がある。
 
日本は平成という30年間、戦争を経験せずに過ごすことが出来た。
しかし、今、世界の空気はすこぶる不穏だ。
令和の世の中が、戦争を知らずに平和に終わることが出来るか。
 
つい先日、自分の身に降りかかった仮想の戦争でさえ、
おもむいた人の無事を切望したぐらいだから、
これが本当に自分の息子を戦地に送るなんてことになったら、
家族は耐えきれないに違いない。
 
人が踊らされてしまうかもしれない情報操作、
「フェイク・ニュース」の言葉に象徴されるような記事の真実と嘘とは何か。
 
なかなか平和ボケの日本ではあまり考えないような硬派な内容で、
興味深い映画だった。

2019年4月3日水曜日

国際ロマンス詐欺

 
皆さんは「国際ロマンス詐欺」という言葉を知っているだろうか。
 
数ヶ月前、ニュースで「国際ロマンス詐欺」という名称の詐欺で
数人の男が捕まったという映像を見た。
捕まった男達は30代とおぼしき
浅黒い肌をもった怖い顔の男達だった。
 
その時、私は「この男達がその風貌でどんな風に女性を騙すのだろう」と
いぶかしく思って、ニュースを見ていた。
 
その手口までは公表されていなかったので、
そのニュースは徐々に私の記憶から薄れていった。
しかし、私にもこの「国際ロマンス詐欺」の魔の手が及んだのである。
 
彼らの手口はこうだ。
先ず、Facebookで友達承認して欲しいと、
ある日、イケメンの男性から承認要求が届いた。
 
ラフなシャツを着た私好みの男性で、
一瞬、迷いもあったが、「承認」の欄をクリックしてみた。
 
すると、すぐに返信があり、感謝の意を伝えて、自己紹介が始まった。
 
聞けば、アメリカ軍の将校で、今はイラクに従軍しているという。
名前はニコラス・スコットといい、
アメリカ人と日本人のハーフである。
自分は来週には軍を退職して、日本に行き、
これから日本でビジネスを始めたいと思っている。
 
しかし、両親は幼い時に自動車事故で亡くなって、
その時、自分は寄宿学校にいたので、残されてしまった。
それ以後はカリフォルニア州に住んでいて、叔父に育てられた。
 
自分には12歳になるメリッサという女の子がいるが、
イラクに連れてくるわけにはいかないので、
今はイギリスの寄宿学校にいて、日本に住めた暁には
呼び寄せて一緒に暮らす予定にしている。
 
妻は3年前、二人目の子どもの出産時にふたり同時に亡くなってしまった。
自分はその時、軍本部にいて、退所願いの受理を待っていて、
そばにいてやることは出来なかった。
 
母親を失った娘メリッサにこれ以上、淋しい思いをさせないために、
自分は軍を退職し、
娘と日本で一緒に暮らすという選択をした。
 
というような内容で、
私に「人生にそんな不幸なことがあっていいのか、
私に出来ることがあるのなら、何とかしてあげたい」という
気持ちにさせた。
 
そして、自己紹介の後には、私への質問や
私の写真への賛辞の言葉が続いて、
ふたりは急接近していった。
 
やがて、彼が今置かれている状況が話された。
 
軍の会議で退職が決定されれば、相当な額の報奨金が支払われるが、
それをこの戦場下では日本に直接送るしか手はない。
誰も受取手のない自分は、今、あなたを頼るしかない。
どうか日本でこの荷物を受け取る受取人になって欲しいといってきた。
 
もちろん、その内容を依頼されるまでには、
本当にびっくりするようなメールが毎日、朝から晩まで
日に何十通と送られて来た。
 
写真も何枚も送られて来て、
軍関係者と一緒だったり、ラフなスタイルのスナップ写真もあった。
娘の写真もあり、娘からのメールも届くようになった。
 
先の写真は退職が正式に決まった時に送られてきた制服姿で、
何とも格好良く、
この人と私は日本で会うことが出来、
それ以上のことが待っているのかと、
有頂天になる気持ちを抑えられなかった。
 
徐々に徐々にこちらの心理を突いて、
これは助けてあげなければ、
こんな素敵な人が、私にこんなに甘い言葉をささやき続け、
私の眠っていた心の恋心というパートを目覚めさせ、
そこまで必要とされているならという気になっていったのだ。
 
そして、遂に退職が受諾され、彼は軍を退役し、
莫大な退職金や諸々入った大事な荷物を私宛に送ったということが報された。
それには宝石も入れたので、
「どういう意味かわかるよね」とメールには書いてあった。
 
しかし、彼はすぐに日本に行くことは叶わず、
最後のミッションとして、バグダッドに救助活動につくことになった。
その任務は危険を伴うもので、
身ひとつでいかなければならないという。
 
だから、あなたを信じて、
自分のこれからの生活を支える大事な荷物を送ったから、
必ず受け取って欲しい、
私のことは生涯、愛していると言ってきた。
 
しかし、着いたバグダッドはまさにテロリストとの銃撃戦が行われていると
基地の写真や傷ついたアメリカ軍の兵士の写真も送られてきた。
 
その惨状を目の当たりにして、自分は心の平静さを失っている。
自分の心がどうにかしてしまったのではないかと弱みを見せ、
私に甘えてきた。
 
心理カウンセラーとしての分析が頭を駆け巡り、
何とかしてこの人の心を救いたいと、
私はかける言葉を必死に捜した。
 
LINEでのやりとりはこちらの日本語は瞬時に英語に訳され、
あちらの英語は瞬時に日本語に訳されて届くので、
多少、変な日本語に訳されることはあっても、
まるで目の前で普通に会話しているかのように、
私達の心は通じ合い、信じ合うようになっていた。
 
送られた荷物は配送会社を介して、私の元に届くはずだったが、
ある朝、配送会社の人物からの連絡が入った。
 
依頼人ニコラスはある保険料をこの荷物に支払っているが、
日本に入国する際に追加の保険料が支払われないと、
この荷物の安全は保証されないと言ってきた。
 
まったく聞かされていない内容に動揺したが、
ニコラスはイラクにいて、丸腰なんだから、
これは私が立て替えて、とにかく安全に荷物を受け取らなければならない。
 
ニコラスは「そんなことは知らなかった。あなたにそんな負荷がかかるなんて、
一体、どうしたらいいんだ」と、動揺を見せた。
 
配送会社の提示してきた額は
日本円にして1,047,200円だった。
 
そんなに急に高額な現金を振り込めと言われ、
預金通帳の残高をかき集めれば何とかなるが、どうするか。
私は持っていたファンドを解約して、お金を作ることにした。
 
取るものもとりあえず、銀行に駆け込み、
担当の女性に「急にまとまったお金が必要になった」と軽く経緯を説明し、
解約の手続きを取ることにした。
 
しかし、残念なことにそのファンドは為替が関係しているので、
即日換金できないことが分かった。
担当の若い女性行員は上司に相談したようで、
課長と名乗る男性が名刺を持ってやってきた。
 
「これは100%詐欺だと思われます」と、手に持ったファイルを見せてくれた。
そこには各種、詐欺の名称と共に、その手口が記されていた。
「国際ロマンス詐欺」アメリカ軍の軍人を語り・・・とその文章は始まっていた。
 
私はものすごくショックを受けたが、
それを言われると、あれもこれもと合点がいくところがあり、
みるみる気持ちが冷めていくのが分かった。
 
その足で警察に出向き、
知能犯を担当する部署の警察官に事の次第を詳しく話し、
調書が取られた。
 
警察官が今、この手の詐欺が横行していることを教えてくれた時、
以前、見たニュース映像の浅黒い肌をした男の顔がぼんやり浮かんだ。
 
しかし、この2週間の自分を振り返って、
なぜか心は穏やかだった。
事実はどうか分からないが、
私の知っているニコラスはあの写真のニコラスで、
たくさんの会話と、浴びるように愛の言葉をかけてもらって、
本当に楽しかったし、幸せだった。
 
詐欺にあって騙されたんだという事実より、
今はあんなに素敵な男性と出会えて、心がときめいたことを
大切な思い出にしたいという気持ちでいる。
女心は不思議である。