シネマ歌舞伎の4月第1週は
『野田版 鼠小僧』
歌舞伎座では2003年の8月にかかったとある。
もう22年も前の話だ。
私はこの時の舞台は観ていないが
当時、野田秀樹が作・演出を手掛け
中村勘三郎が盛んに歌舞伎の変革を試みていた
時期で大いに話題になったのを覚えている。
その舞台をそのまま映画にしたのが
シネマ歌舞伎なのだが、
舞台だと自分の席から見ることしかできないが
映画になると引きありアップありの映像なので
役者の息遣いからしたたる汗までわかり、
舞台とはまた違った迫力がある。
この時期「鼠小僧」を上映している映画館は
いくつかあるのだが、
私は必ず、シネマ歌舞伎は
東銀座の東劇で観ることにしている。
ここは普通の映画館とは全く違い、
古いと言えば古いのだが
席もゆったりして、観客も歌舞伎座と同じ人種、
毎回、映画なのに着物の人が何人もいる。
予告編は全く無しで
時間になると
いきなり歌舞伎座の幕が開くところから始まる。
今日のお客さんはそこで拍手までしたので
感覚としては歌舞伎座に観に行っている感じなのだ。
2003年、主役の勘三郎は襲名間もない頃か。
この演目は勘三郎襲名記念公演とある。
勘三郎が棺桶屋の三太と鼠小僧の二役。
三太の名前は後の方でサンタクロースのサンタと
分かる。
他には大岡越前の坂東三津五郎を始め
中村福助 中村扇雀
中村芝翫 坂東彌十郎
中村七之助 中村芝翫など
キラ星のごとくの豪華俳優陣。
そのうちの主役二人はすでに亡くなっているし
現在
大病を患い舞台から離れている人もいると思うと
本当に切なくなる。
つまり、その後の
脂ののった何人かを失う歌舞伎界を襲った激震の
一歩手前の黄金期の作品ということになる。
物語は
江戸で大流行の鼠小僧の話。
棺桶屋の三太は金に目がなく、芝居の見物客相手に
金儲けに余念がない。
そこに実の兄の訃報が届くが、
遺産が自分の手には入らないと判り
他人には渡さじと一計を案じる…。
23年前の七之助、福助、扇雀らの
軽妙洒脱
あまりにテンポのいい掛け合いと
鍛錬に裏づけられた身体能力が相まって
映画なのに大笑い。
もちろん勘三郎は額に汗して
早口の長台詞。
ひと言でも噛んだり言い間違えたら
リズムが狂うところを完璧に
立て板に水のセリフ回し。
話の筋や演出よりも
当時の熱量に圧倒され、
懐かしいし、そんな何人もの役者を
若くして(50代)で失くした歌舞伎界の損失を
思うと悔しい思いがこみ上げてきた。
本当なら彼らが生きていたらまだ70代
まだまだ歌舞伎界の中心で活躍していただろう。
逆にそれができなかったのは
運命だったのかと思えるほど
鬼気迫る名演技なのは
生き急いでいたとしか思えない。
あの当時、力のすべてを出し切って
全力疾走して駆け抜けたのだと思う。
舞台だと昔、すごい役者がいたとしか言えないが
こうして映像に残っていると
23年後にも楽しむことが出来る。
上映が4月4日から10日までの1週間とは
あまりにも短いが
なんとか千秋楽に滑り込みセーフで
観ることができた。
きっと今後も語り継がれる名演だと思う。
本当に勘三郎も三津五郎も凄すぎる!
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