2025年11月29日土曜日

新しい原画3点

 












今、我が家は玄関前のアプローチを壊して
外構工事の真最中。
土曜日だろうが構わず朝から業者さんが来て
1日中、ドリルで階段下の土を掘り返している。

3日前から工事は始まったのだが、
昨日から玄関からの出入りができなくなった。

つまり、和室のたたきの窓が唯一の出入り口なので、
誰かが必ず家にいないといけない。

いつもは自由きままに生きているのに
お互いの予定をすり合わせ、
今日は私が家にいることになった。

というわけで、
朝から新作の原画を描くことにした。

10月と11月に個展用の大きな作品を
摺ったので、
これからはもう少し小さめの作品に取り組み、
見に来て頂いた方に親近感をもって
いただける程度の作品を創らねば。

作品のデザインは
大きな作品を手掛けている間に
この部分を切り取って創ってはどうかと
イメージがいくつか湧いている。

単に切り取るというのではない。

亀が蓮の葉っぱの上に乗ると
重みで少し水が葉っぱの上に入り込み
半身浴みたいになるのか可愛いので、
その光景に光をあて
「ひなたぼっこ」もしくは「半身浴」と
いうタイトルにしてはどうかというのが
1点。

蓮池に取材にいくと
今まさに咲き誇る花もあれば
まだ蕾のものもある。
もしくはすでに散って中央のタネの入っている
部分だけが干からびているものや
花びらが落ちて葉っぱに積もっているものなど
いろいろな状態が見られた。

まるで女性の一生のように
蓮にもいろいろな時期があるのだが、
いずれもそれはそれで美しい。
まだタイトルが決まらないが
「それぞれ」にするか「それぞれの美」か
あまり説明的になりたくない。

とはいえ、凛と咲く蓮の花は本当に美しい。

木版を摺っている途中でここで辞めたいと
思う時が必ずあると
前回、書いたが
その瞬間を意識して今回の作品は原画を起こした。

つまり、紙の白を意識したり、
水の波紋の木版画ならではの表現を
前面に押し出すなど、
大きな作品だと要素が盛りだくさん過ぎて
ぼやけてしまう部分に
フューチャーして作品化する。

まだ、鉛筆原画の段階ではあるが、
大体、どんな感じに出来上がるのか
大きな作品を摺った後なので
イメージが温まってきている。

結局、
1日中、ドリルの音がBGMだったが、
それぞれの持ち場で仕事を着実にしたという
手応えを感じた11月末の土曜日であった。















2025年11月24日月曜日

近場の蟹でちょっと贅沢

 












今日はポカポカの小春日和。
昨日のお茶会とは打って変わって穏やかなお天気。

かねてよりお誘いを受けていた早めの忘年会。
辞めてしまったが陶芸倶楽部の同じ日メンバー4人で
川崎の『かに道楽』へ。

寒くなってくると食べたくなるもののひとつに
蟹があると思うが、
今シーズンは蟹を食べに旅行に行くこともないので
近場の蟹料理のお店に行くことにした。

建物の壁にドドーンと蟹がくっついていると
言えば
言わずと知れた『かに道楽』だが、
川崎店は初めて行った。

改装して1年ちょっとだとかで
店内はとてもきれいで
個室だし、お店の仲居さん達も着物姿なので
静かにゆっくりと食事とお話ができる。

なにしろ昨今はロボットが食事を運んできたり
注文もタブレットでというところが多いので
この人的サービスと個室空間は
それだけで贅沢な食事という気がする。

4人の内、私とAさんはすでに陶芸倶楽部を辞め
Aさんは別の陶芸教室に通っている。
私はとりあえず陶芸からは足を洗い、
目下は個展の準備とお茶のお稽古に忙しい。

Sさん親子はまだ以前ご一緒していた陶芸倶楽部に
所属しているので
まずは今の陶芸倶楽部の近況報告から。

同じ倶楽部なのに
年々、活動状況や内容や先生のスタンスが
変わるのはある意味やむを得ないところもあるが
納得いかない部分も大いにある。

そんな話を目の前の蟹の身を
一生懸命せせりだしながら
おしゃべりした。

お稽古事は私達にとっては趣味の世界なので
イヤイヤ行っても楽しくない。
趣味の世界に何を求めるのか
そんな話をしつつも
季節の蟹はやっぱり美味しい。

茹でた蟹はもちろん
蟹の茶碗蒸し、天ぷら、蟹シュウマイなど
どのお料理にも蟹がふんだんに使ってある。
とどめは蟹の釜めしだ。

いろいろなお料理が運ばれてくる間に
釜めしは炊きあがるのに30分はかかるからと
火を入れられた。
しばらくして
釜めしの釜から蟹の香りが立ちのぼると
「よっ、日本の冬!」と声をかけたくなる。

個室の部屋じゅうに蟹の香りが立ち込めると
五感が刺激され
冷たい日本酒ののど越しも最高だ。

話は『推し』は何かという話になり、
今、Aさんと私が沼っている
着物についての話になった。

人でも物でも『推し』がいたり
ハマっているものがあると
楽しいし、そこから友達の輪が広がったり
お出かけチャンスができたりするので
『推し』があるのはいいことと
私達ふたりが熱弁をふるった。

Sさん親子は
なんにつけあまり熱くなれないタイプな上に
ミニマリストでものを増やしたくないとかで
なかなかどっぷりハマったり
大金をつぎ込むということはないらしい。

最近、呉服屋さんの展示会に
ふたりで着物で出かけたら
「飛んで火にいる夏の虫」とばかりに
店員さんに取り囲まれて
大変なことになった話で大盛り上がり。

Aさんの大相撲観戦に着ていくための帯と着物、
私の来年の個展の時に着るための帯など
どこかに行くために着物や帯を誂えるなんて
やはり贅沢なこととは思うけど
それができることの幸せを思うと、
『推し』がいたり、沼にはまるのは
悪くない。

そんな言い訳がましい論理を展開し
「すんっ」とお暮しのSさん親子を揺さぶった。

最後のスイーツに私は雪見大福を選んだ。
それだけにはさすがに蟹は使われていなかったが
あとは最初から最後まで蟹三昧の
コース料理をぺろりと平らげた。

昨日のお茶会は日本の伝統文化の日。
今日の蟹料理は冬の日本料理の日。

インバウンドの人の憧れではないが
日本に生まれてよかった!
日本人でよかった!
と実感した。

だらだらと流れ作業で過ぎゆく毎日の中に
こうした日常を取り入れる大切さを感じた。

帰ってから記念写真をメールで送ったら
返信がきて
Sさん親子の娘さんから
「次回、お目にかかる時までに
『推し』を見つけたいです!」とあった。

私たちの『推し』讃歌に
圧倒されたのかも(笑)

























2025年11月23日日曜日

お茶会続きの秋

 


















先週の水曜日は鎌倉八幡宮にて行われた
表千家茶道神奈川支部のお茶会に
行ってきた。

本日11月23日は都内某所としか言えないのだが
ある数寄者の邸宅で行われたお茶会に
主催者側の一員として行ってきた。

主催する側ともなると
朝4時半には起床し、まだ外が真っ暗な中
着物に着替え、
お手伝いのための着物用割烹着などをもって
家を出た。

ちなみに私の今日の着物は
「風神雷神の絵柄の訪問着に袋帯」だ。

同じお社中のメンバーと駅の改札で待ち合わせ、
そこからタクシーで邸宅に向かったのだが
鎌倉方面組は朝4時には起きたというので
お茶会のお手伝いは大仕事だ。

他のメンバーは別の日にお掃除にも来ているので
大変だなどとは言えないのだが
お茶会を開くというのは本当にエネルギーが要る。

この茶会のお茶席は2か所あり、
小間という離れになっている茶室ではお濃茶が、
私たちが担当した広間では
立礼というテーブルスタイルで薄茶が振る舞われた。

お客様は7組で1組8名。
時間差で来ていただき
順番に小間と広間でお茶を召し上がってから
最後に
別のお部屋でお弁当を召し上がっていただく。

小間の担当、広間の担当、お弁当の担当と
それぞれが前日までにお道具組や
お点前や水屋の人の配置と流れなど
準備しなければならないことは山ほどある。

そして、先週、美術館クラスのお茶碗で
お茶をいただけるなんてと狂喜していたが
今度はそれを準備してお出しする側になる。

道具だけではなく
お茶とお菓子ももちろん周到に準備し、
みんなに喜んでいただけるよう
季節やお茶会のテーマに沿って
席主といってその部屋の主催者が
いろいろ考えて趣向をこらす。

私たちの部屋の立礼のためのテーブルは
「シルクハット型立礼卓」といって
その数寄者の方がオリジナルで藝大出の作家に
依頼して作らせたもの。

普通の立礼卓とは少し形が違って
シルクハットの形を模し
両端がピンと突き出たデザインで
さび朱色の漆塗りで出来ている。

本当はそこでロングドレスを着た女性が
お点前をし、
周囲をバーカウンターのように人が座って
順にお茶を愉しむという目的で作られたという。

実際にはそのような茶会が催されたという
史実はないようで
亡くなって20数年後に
その立礼卓はよみがえり
ここにようやく陽の目をみたということだ。

シルクハットやロングドレスから想起される
異国の空気感を表現するため
水差しはロイヤル・デルフトの藍の染付
茶器は独楽塗り菊の絵吹雪
茶杓は黒いべっ甲
香合はビルマのフクロウ
花入れは琉球やちむん島袋常明作など
広間は遊び心にあふれたお道具組である。

小間は小間でまったく違うお茶室なので
お濃茶に合うお道具組になっている。

しかし、主催者側の人間は
自分の持ち場の運営に終始するので、
私たちは小間を覗くことさえ叶わない。

そんな中、お弁当だけは事前に注文し
お客様と同じ『柿傳』のお弁当を
いただくことができる。

といっても
持ち場の仕事と仕事の合間に
15分くらいでチャチャッといただくので、
ゆっくり味わえないのが悲しいところだ。

かつての邸宅の主である数寄者の名には
瓢箪の瓢の字があるのだが、それにちなんで
このお茶会には瓢箪の形のものが
どこかに隠れている。

しかもそれはかならず6つある。
瓢箪が6つで
「無病息災」の意味をなすのだが、
このお茶会のどこにそれが隠れているのか
探すこともひとつの楽しみになっている。

掛け軸の絵に描かれていたり、
お弁当の卵焼きが瓢箪だったり、
瓢箪の実のお漬物が入っていたりする。
小間の主菓子が瓢箪の形の薯蕷饅頭なのも
分かっている。

写真のお菓子は持ち帰った小間の主菓子と
広間の干菓子。

私たちのお席では
瓢箪の形の菓子器に「木守」という
柿あんを挟んだ焼き麩のようなお菓子を盛って
お茶を点てる前にお配りした。
(抹茶はお菓子を全部食べてからいただくもの)

あとひとつの瓢箪はどこにいたのか。

そんなことを思いながら
シフト表に添って忙しく立ち働く内に
7組のお客様を送り出し
気づけば庭に西日が射しこみ夕方になっていた。

お茶会は、顔出しNG
お道具の詳細公開NG
邸宅の場所限定NGと
規制が多すぎて残念なのだが
4回目のこのお茶会も無事に終わった。

日常とはかけ離れた非日常をお客様に
提供するのは本当に大変だと再認識したけど、
お客様の「いいお茶会でした」の声を聴くと
少しは疲れが癒される。

家に帰り、着物と帯をほどき
ふと足の裏を見ると
白い足袋がビックリするほど真っ黒に。

古い邸宅の中を1日中動き回り
お茶を点て、
お茶を運んだ証だと思った。
本当にお疲れ~。













2025年11月19日水曜日

鎌倉鶴岡八幡宮の茶会

 











朝夕の冷え込みが厳しくなった11月19日、
鎌倉鶴岡八幡宮の境内にあるお茶室で
大寄せのお茶会が開かれた。

お席は3席あり、
表千家茶道の神奈川県、湘南同好会が主催だ。

朝9時に3席の内のひとつのお茶室の前に
同じお社中のメンバー7名と先生が集合した。

朝9時に着物を着て八幡様に行くには
それぞれ相当朝早起きをして
自分で着物を着付けでかけて来ている。

私は朝6時起きだったけど、
上野からいらしている方などは
きっと5時起きだったに違いない。

それにしても
1か所にぱっと見ただけでも100名以上のご婦人が
着物を着て集合している様は
何回観ても圧巻である。

私たちは参道からいくと一番奥のお茶席から
参加すると決めていたので、
一直線にそのお茶席に並んで
2席目に入ることができた。

なんと96歳になるという美しい老婦人が席主で
掛物から花と花器、香合
お釜・棚・水差し・主茶碗・替茶碗・茶杓など
お道具のどれをとっても銘品ばかり。

その上、そのどれもに箱書きといって
表千家茶道の家元のお墨付きのサインが入っている。

家元のサインとひと口にいっても
当代の家元なんかではない。
96歳ともなると
先代、先々代、そのまた前の家元だったりする。
(何しろ昭和4年生まれなわけだから
歴史上の人物とご縁があったかもしれない)

お茶席の撮影は禁止されているので
証拠写真が撮れず
私の浅はかな知識と記憶力では覚えきれないが
とにかく美術館クラスのお道具が
目の前にズラズラと並んでいた。

一度に46名ものおばさま達が席入りしているが
その筆頭の正客と次客になった方は
お点前さんが点ててくれたその家宝みたいな
お茶碗で実際にお茶をいただくことが出来る。

11月はお茶の世界では炉が切られ
お正月という位置づけなので、
どのお席も重厚かつ上品な中にも
華やかな雰囲気のお道具組でまとめられている。

2番目に伺ったお茶席は桐の白木の袋棚に
てっせんの蒔絵が目を惹く
女性らしくて華やかなお席だった。

その席のお席主は養老孟氏の奥様。
こちらもとても品のいい美しい方。
全般に華やかなものがお好み。

その席では我が先生が正客を
引き受けてくださったお陰で
私は次客のお席に座ることになり
仁清写しの永楽保全作のお茶碗で
お茶をご馳走になった。

正客のお茶碗は赤楽に金彩が施された「了入作」。

お席主はさらりと
「そちらは了入です」とおっしゃるが
いやいやいや、そのお茶碗で実際にお茶が
いただけるなんて…という世界なのだ。

もっと勉強していれば正確な名称を書くことが
できるのだが
会記といって席中に回ってくるお道具のお品書き
みたいな奉書を見ている時は
フムフムと思うのだが、
いざここに書こうと思ってもすこぶる自信がない。

そんな由緒あるあまたのお道具を
まるで毎日の普段使いかのように並べ、
その季節ごとの趣向をこらし
お客様をお迎えするなんて
お茶席をもつということは本当に大変なことと
今回のお茶会でもつくづく感じた。

茶の湯の世界の奥は深く
あまりにも現実の暮らしとかけ離れているけど、
「わたくし、着物でこんな風にお茶しながら
秋の一日を過ごしていますのよ」
なんていう非日常に身を置く幸せを感じた。

3席まわって、3服のお茶と3つのお菓子をいただき、
八幡宮の参道に出ると
急にお腹が空いていることに気付いた。

鎌倉で古くからやっているという中華屋さんの
個室で
全員、レディースランチなるコースを注文。

お隣さん3人はまずは生ビールとばかり
ジョッキをグビグビ開けている。

さっきまでの日本の雅な空間はどこへ。
しかし、また、これが現実。
美味しくコース料理をたいらげ
おしゃべりに花が満開。

日本の女は実にたくましい。