一昨日の日曜日から、月曜、火曜の午前と2日半も時間をかけ、
久々の本摺りを敢行した。
今の自分の体力を考え、以前ならこのサイズを6枚、
夜明けと共に起きて、夕方まで、計12時間の突貫工事を厭わなかったものだが、
ちょっと今回はその方式は無理だと判断。
大事を取って、二日半の日程で、ゆっくりしっかり丁寧に事を進めることにした。
終わってみれば、それはとても正解だったと思う。
計7枚の作品をノーミスで仕上げることが出来た。
「戦い済んで日は暮れて」という言葉があるが、
「戦いは日が暮れ、朝が来て、また日が暮れ、朝になった」が、
「我が軍の勝利である」という結果に、
今、私の胸の内に進軍ラッパならぬ、勝利の雄叫びが聞こえている。
ことほど左様に、木版画の摺りの作業は想像以上に体力勝負。
技と忍耐と集中力の持続を要求される。
テレビの『和風総本家』に出てくる職人さんと同じで、
ひとり黙々と刀を打つ刀鍛冶とか、
ひとり黙々と何度も何度も漆を塗る漆職人とかの気持ちはよくわかる。
私もひとり黙々と作業にいそしみ、
途中、何度かダンナのためにご飯を作るも、
ひと言も発せず、本摺りのことだけを考え、集中していた。
たぶん、人を寄せ付けないその空気に、
ダンナは「このご飯食べてていいのかな」と窮屈な思いをしていたと思う。
それが狙いなので、感じていただければ幸いなのであるが・・・。
さて、肝心の新作は、珍しく和風丸出しの作品になった。
先週、何回か試し摺りを取る内に自然に呼び込んだ配色なので、
きっと現在の自分の気持ちに添うものなんだと思う。
日曜日の朝、本摺り用の和紙をカットし、湿して、5時間おいた。
その間に絵の具を調合し、本摺りへのイメージを高めていく。
最後の版の微調整もこの間に行い、摺りの際に邪魔しそうなものは取り除いた。
そうして、午後2時、紙の湿りが均一になったのを確かめて、
背景の葉っぱから摺りスタート。
夕食の準備と食事やお風呂を挟んで、
夜12時までに背景色の大きなパートの1版目を摺り終わることで、
心理的にはだいぶ楽になった。
以前なら、ここで1人暮らしの安気さで、深夜に作業を持ち込んでいたが、
ダンナが帰国してからは、
朝には何食わぬ顔で朝食の準備をしなければならない。
そのあたりが実にかったるいが、まあ、仕方あるまい。
で、月曜の朝は、7時半に起き、朝食の準備をし、
「べっぴんさん」を観ながらダンナとご飯を食べて、いよいよ2日目の摺り作業開始。
一晩寝たことで、昨日の作業はなかったことに出来るこの幸せ。
また新たな気持ちで、続きの作業に取りかかれる。
いつもは6枚摺るサイズなのに、ちょっとした勘違いで7枚湿してしまったせいで、
作業はその分長引いたが、夕方5時過ぎには大方の摺りは終了。
後は繊細なパートの摺りとちょっとしたリタッチと水張りによる乾燥だけだ。
「だけだ」とはいえ、神経を使う部分なので、ここはひとつ慎重に。
勇気ある終了を自分に命じ、2日目の作業をやめにした。
こうして、火曜日に残りの作業を終え、無事7枚の作品が出来上がった。
かなり熱い戦いだったと自分では思っているのだが、
出来た作品はいつもの情熱的で派手な感じに比べ、落ちついた和風の作品。
タイトルがなかなか決まらずいたのだが、ふと、思いついた。
この作品は『ふたり静か』にしようと思う。
あらかじめ断っておくが、ダンナとふたりという意味ではない。
こんな暮らしに憧れているというだけか・・・。
とにかく『ふたり静か』。
なかなか気に入っているのだが、いかがだろう。