五月晴れの5月13日
鶴岡八幡宮の献茶式が行われた。
毎年、表千家の神奈川支部が
この日と定めて献茶式を行ってきている。
この日は京都の家元から
お家元ご本人もしくは準ずる方がお見えになり
献茶式が執り行われる。
今年は三木町宗匠がおいでになり
お献茶を奉納なさったのだが、
この三木町宗匠、有名な「雨男」
毎年毎年、
5月13日は大雨に祟られることが多く、
私たちは傘を差して雨コートを手に持ち
着物の裾を気にしながら
お茶室からお茶室へと移動した記憶しかない。
しかし、今年はべっぴんさんの五月晴れ。
爽やかな風が吹き渡り、
蒼い空は突き抜けるように高く、
朱赤のお社とのコントラストが美しかった。
朝8時半には八幡宮に到着し、
一番奥のお茶席から攻略することにして
先生を含めたお社中の4人は1席目の列に並んだ。
なんとなく例年よりお茶会に参加する人の数が
少し少ないようで
比較的スムーズに席入りでき、
それぞれ新緑の季節のコンセプトに添った
席主のお道具組を拝見・堪能させてもらった。
先代・先々代の表千家家元の箱書き付きお道具類は
こうした時でないと触ることも拝見することも
できないので、
しかと目に焼き付けた。
(正客さんや次客さんはこうしたお茶碗で点てた
お抹茶をいただけるが
3客以下は奥から出てくる数茶碗でいただく)
正にこれが「眼福」というものであろう。
2席とも「亀と鶴」や「鳳凰」でめでたさを表現し、
お花に「白い菖蒲」や「夏椿」を生け
お軸の文言に新緑の山々を謳うことで
この時期の爽やかさを表現しようとする点では
似ているコンセプトだと感じた。
とはいえ、
道具の作家名を聴けば、
その道に少し通じているなら
誰しもが唸るような名前ばかり。
そのようなお道具をゾロゾロ揃えられる方が
鎌倉や横須賀にもいらっしゃることに
今回も驚きを隠せない。
3服のお茶をいただき、外に出た時分には
本殿で献茶式が始まった様子だったので、
今年は珍しく階段を昇って
本殿のお参りもすることにした。
献茶式は本殿の中で執り行われており、
くじで当たったお社中のひとりが
中で三木町宗匠の点てるお献茶の様子を
見ていることだろう。
私達4人は本殿の隣の宝物殿で
八幡宮ゆかりの品々を拝見しながら
鳴り物を聴き、その雰囲気だけを味わった。
推しのLIVEのチケットは取れなかったけど
アリーナ会場の周りで
その雰囲気だけを味わうファンみたいなものだ。
帰り道に参道を歩けば
木漏れ日がこぼれ、
源平池の蓮はまだ繁茂していないので
まるでモネの睡蓮の絵のようだ。
桜の季節には人で押し合いへし合いだけど
段葛の桜並木は葉っぱだけになった。
なぜか新緑になった桜には人だかりもなく
どこまでも緑が続いて美しい。
朱赤の鳥居や欄干と新緑のまばゆい緑、
五月晴れの澄み切った蒼い空に
からりとした薫風が吹き抜ける。
同じお献茶式でも
お天気でこうも違うのかと驚くほど
爽やかで気持ちのいい1日だった。
今日は4月最後のお茶のお稽古日。
お茶道の世界では
1年の内、
大きくしつらえが2つに変わる。
11月が炉開きといって
お茶の世界のお正月にあたり、冬の始まり。
ここでお新茶(抹茶)の封が切られ
初めてその年のお茶を味わうことになる。
お茶室では炉が切られるので、
炉にお釜をかけたお点前になる。
4月いっぱいまで炉は切られていて
5月になると炉の部分は普通の畳になり
風炉の季節の到来だ。
5月から10月までが風炉になり
5月からお茶の世界の夏が始まる。
炉は畳の一部に埋め込む形なので
いかにも茶道らしい風情だと思うが、
5月に畳の上にお釜が変わるにあたって
実は3月から炉の中の景色が徐々に変わる。
3月、釜を乗せる五徳がなくなり、
炉段の縁に羽根がかかるような形の
裏甲釜という名のお釜になる。
4月はもうひとつお釜は畳に近づき
釣り釜になる。
釣り釜は文字通り、天井からたらした鎖で
釜を吊っている。
宙に吊られた釜が少し揺れ、
お釜の下にくべられた炭の景色が見える。
今日は4月最後のお稽古日だったので
いつもの濃茶点前と薄茶点前の他に
この釣り釜の炭点前の稽古もあった。
私は2023年の4月に釣り釜の炭点前を
やらせてもらったので、
今日は同行のNさんの番だ。
炭点前がある時はお点前を振られた人が
炭斗(すみとり)という籠に
炭を所定の形に組んだり、
香合に香を入れたりして下準備を行う。
炭点前は月の最後に1回あるかないかなので
とても勉強になるし、楽しい。
最近は茶道用の炭も
すっかり高価になり
なかなか手に入らないとかで
以前のような頻度でお稽古がないのが
残念だけど、
いつものお稽古ばかりでは飽きるので
炭点前やお免状物などがあるのは嬉しい。
今日はお天気や気温もちょうどよく
爽やかだったので、
私は春らしい色の墨流しの紬に
白地の木目柄の塩瀬の帯をしていった。
棚は「旅だんす」といって
この時期、本当なら屋外で
桜の木の下に毛氈でも敷いて使うような
お棚である。
屋外ではないけど、
釜が釣り釜で、棚が旅だんすとなれば
もうすぐ風炉の時期を迎える直前の春の
お道具組みである。
こんな風にお茶の世界ではお軸や花、
棚やお釜、お茶碗、お菓子にいたるまで
随所に亭主が季節やお客様のことを考えて
お道具組みを整える。
今日の茶杓は
大徳寺のお坊さん常閑さんの作で
銘は「花の宴」だった。
4月も20日を過ぎて「花の宴」は
地球温暖化の折に、ちと遅いけど
気持ちは赤い毛氈を敷いて
「花の宴」でお茶を点てているという物語。
こんな風に炉の季節を惜しみつつ
月日は流れ、
5月には風炉の季節に突入する。
日常の中ではどんどん季節感が薄れ、
気温は毎年、
例年より上昇しているという
ニュースばかり。
そんな中でも
節目節目に季節を愛で
行く春を惜しむ気持ちを大切にしたい。
なんてったって
日本は四季の国じゃなく二季の国になり
この夏、40℃を超えたら「酷暑」と呼ぶと
決まったばかりだ。
この先、毎日、暑い暑いと言いながら
過ごす毎日が目に見えるようだ。
せめて、爽やかな今日のような1日、
がんばって着物に袖を通し、
春を味わいたいと思う。
「日々是好日」
茶道の世界では、
利休さんの命日にほど近い3月下旬
”利休忌”という催しが行われる。
今年は27日の今日、
参加者6名とちょっと寂しい人数だったが
無事に開催された。
まずは利休さんに茶とうといって
献茶が奉納される。
その後は毎年少しずつメニューが変わるが
七事式の中からいくつか
いつものお稽古ではできない
お茶のゲームのようなお遊びをする。
今年は「廻り花」「廻り炭」「茶カブキ」の
3種が行われた。
「廻り花」は床の間にかけられた竹の花器に
参加者が順番に花を生ける。
竹の花器は3か所切り口があるので
3段に花が入る。
正客から順番に3人が生け終わると
4人目以降の人は全体のバランスを考え、
どこか1か所の花を抜いて
別の花を生ける。
そうやって6人の参加者が2巡するまで
生けることで
雰囲気が変わることを愉しむ。
茶花を生けるお稽古をゲーム化したお遊びだ。
「廻り炭」は
七事式の中でも難しいお稽古で、
炭点前のお炭のくべ方を学ぶために
考案されたもの。
亭主役が一番大変で
大きな素焼きの器を持って出て、
まずは炉の中の残った炭を上げ
灰を整える。
もちろん、すべてお作法に則っている。
その後、亭主とお客役の5人が
順番に前の人とは違う炭のくべ方で
炭をくべ、その景色を愉しむ。
次の順番の人は
前の人のくべた炭を逆の順に上げ、
自分は全く違うくべ方で
くべなければならない。
これも2巡することろまでくべるので
次第に
前の人がやっていないくべ方といわれても
打つ手がなくなるので工夫が必要になる。
着物を着た女性陣がぐるりを炉の周りに
座り込み、
炭を上げたりくべたりしながら
ああだこうだとおしゃべりしている様は
なかなか日常にはない光景だ。
「茶カブキ」はいわゆる「聴き茶」のことで
最初に2種類のお茶をいただき
次に本茶と呼ばれる3種類のお茶をいただく。
最初の2種類のお茶の味を覚えておいて
本茶の1番目2番目3番目がどれか
当てるというゲーム。
飲み比べるのではなく
本茶の1服目を飲んだところで
お茶名を書いた短冊を執筆に送る。
つまり、お濃茶を5杯立て続けにいただくので
なかなかカフェイン過多になるゲームだ。
今回はこの「茶カブキ」で
滅多にない珍現象が起きた。
6名の内ひとりは「亭主」なので
お茶を点てる人。
ひとりは「執筆」といって
結果を墨で記録する人なので、
「聴き茶」に参加しているのは4名。
その4名が3種類のお茶名を期した短冊を
集計したところ
なんと全く同じ答えになった。
そんなことになったのは前代未聞なので
これは全員が当たったと思って、
すっかりいい気になっていた。
ところが答え合わせをしたら
なんと全員がハズレだったというお粗末。
とんだ伝説の回になってしまった。
「執筆」の人が記録した奉書紙は
本来なら3種類とも当てた人が
記念にもらえるのだが
ひとりも当たらなかったので
先生のところに留め置かれることになる。
「なんてバカ舌な4人衆だこと」と
また来年の利休忌にも笑いの種を
蒔いてしまったことになる。
ちなみに
私はそのバカ舌4人衆のひとりである(笑)
雅でかつ愉しんでいる内に
お茶のお稽古ができるのが
七事式だ。
そんな風にいつもはお稽古の曜日が違う
お社中の仲間と会って、
談笑しながらお稽古をして
穏やかな桜咲く春の1日が暮れていった。
2月16日(月)から
銀座1丁目の「柴田悦子画廊」にて開催中の
企画展「越畑喜代美展」
『春迎えのお茶会風味~蒼月草篇』
その中のお茶会風味の部分の
お茶の先生として
23日にお点前をすることになった。
この展覧会は柴田悦子画廊の企画展なので
友人の越畑喜代美さんからの依頼と
いうわけではなく
直接、画廊主から連絡を受けた。
「葬送のフリーレン」というアニメを
テーマにしたお茶会を22日に行い、
私が担当した23日は
「春まだ浅き頃」というテーマで
お茶碗やお菓子などを準備した。
「葬送のフリーレン」に関しては
まったく無知だったので、
22日に関することはお任せし、
私は友人が作ったお軸の色合いを見て
小豆色の地のホタル絞りの着物に
「荒城の月」を思わせる袋帯を着た。
お道具類のほとんどは画廊側が準備し
私は自宅使いの抹茶椀の中から
紅白の梅の柄の茶碗と赤絵付けと
青磁の茶碗を持っていくことにした。
薄茶の前に食べていただくお菓子だけは
自分好みにしようと
お正月にも次女に取り寄せてもらった
「一善や」のミルフィーユを用意した。
なにしろ、このお菓子
ちょっと引くほどお値段がいいので
軽々には取り寄せられない。
しかし、
今回は画廊側が持ってくれるので
ここぞとばかり
2種類のミルフィーユを注文してみた。
「干し柿と無花果と胡桃のミルフィーユ」
「獅子柚子と胡桃のミルフィーユ」
の2種である。
それに両口屋是清の「二人静」
当日は1時半からお茶会を始めると
展覧会のDMには告知し
このブログ最多出場の友人Aさんが
着物姿で最初のお客様に駆け付けてくれた。
展覧会の中のお茶会ということで
お客様のほとんどは
茶道をたしなんでいるわけではない。
みんな、画廊や作家の知り合いだ。
日本画に精通してる人
日本画が好きな人
作家に日本画を習っていた人など。
それでも
お茶会を愉しもうと着物で来てくれるのは
とても嬉しいことだ。
私の関係者は件のAさんだけだけど
すぐに他のお客様とも馴染んで
まずは1席目に入ってくれた。
お出ししたミルフィーユはどちらも
大好評で鼻が高い。
お客様はその後もいい感じに途切れず
6時の閉店ガラガラの時間いっぱい続き
計7クール
お抹茶を点て、レクチャーしながら
表千家茶道のお作法に則って
お茶を楽しんでもらった。
ふだんのお稽古やお茶事・お茶会では
茶道歴が何年もある方しかいない。
しかし、こうした茶道初心者の方と
お作法の話やお道具のこと、
お菓子とお茶の関係などの話をすると
とても興味深く聴いてくださるので
新鮮だ。
後で聴けば、
どの方もその道では有名だというので
画廊や友人の交友関係を通じて
少し世界が広がったような気分だ。
一服のお茶を介して
見知らぬ誰かとひとときを共にする。
それこそ茶道の提唱する
「一期一会」の醍醐味だ。
さりげなく画廊のオーナーが
「今日はお茶の先生をお願いしたけど
木版画の作家さんなのよ」といって
紹介してくださるので
「9月の個展にはぜひ」などという話
にもなる。
こうして案外限られた世界で
限られた人とだけ関わって
日々が過ぎていくけど、
新たな出会いがあったりする。
昨日は折しも
春一番が吹き、気温も急上昇。
花粉が一気に飛散して
目は真っ赤、鼻水が…。
遂にこの季節が来たとおののくけど
悪いことばかりじゃない。
そんな出会いが交錯する1日だった。