川崎のミューザに『かわさきジャズ2016』のラストコンサートを聴きに行ってきた。
10日間におよぶジャズフェスティバルの最終日。
3部構成になっていて、
1部にバンドネオンの三浦一馬君率いる5人編成のバンド
(ヴァイオリンは大ファンの石田泰尚様)
2部は知らない外人のピアニスト
3部はジャズ界の大御所・山下洋輔という内容だったので、
面白そうということになり、友人と出かけることになった。
時間は17時から20時までの3時間だというので、
それぞれ45分の演奏に15分の休憩かなと思っていたら、
お目当ての1部の演奏が30分であっという間に終わってしまった。
久しぶりの一馬君と石田様だったのに、ちょっと物足りない。
友人も「これって、前座扱いよね」といっている。
その通り。
しかし、20分の休憩の後に出てきた背中を丸めた外人が引き出したピアノが
凄かった。
名前はファジル・サイ。男性。
トルコの人らしい。
独特の濃い風貌と熊さんのようなずんぐりした体。
1部とは入れ替えたこだわりのグランドピアノ。
強いタッチの早弾きと、
その大きな体からどうやって出しているのかと思うような優しい音色が入り交じり、
会場の空気が一挙に緊張する。
しわぶきひとつも許さない張り詰めた空気の中にありながら、
フォルテの強い音を弾いた後、
彼の白くふっくらした手が宙を舞う。
そのしなやかでふくよかな動きが何とも美しい。
彼はクラシックとジャズを融合させた曲を30分弾き続け、
1部とは全く違う世界へ観客を連れて行ってしまった。
3部はおじいちゃんになった山下洋輔と、ヴァイオリニストの大谷泰子。
ふたりで楽しく2曲セッションし、
後半、もうひとりのゲスト・大倉正之助が会場に大鼓をもって登場した。
大倉正之助は室町時代より代々続く能楽囃子大倉流宗家に生まれたとある。
上下サテンの黒いシャツとズボンという洋装だが、
椅子に腰掛けて、大鼓をを打つその姿は、背筋が真っ直ぐ伸びて微動だにせず、
まるで合気道の試合をしているかのようである。
そのすっくと伸びた体から、孤を描いて右手は真っ直ぐ前に付き出され、
お腹の底から発せられた「よーっ、いよーっ」の声の後に、
しなやかな瞬殺技で、鼓に向かって振り下ろされる。
その殺気迫る鼓の乾いた音と声とで、山下洋輔のピアノと
大谷泰子のヴァイオリンとジャズセッションする。
楽譜を見ているのはピアノとヴァイオリンのふたりだけなので、
鼓はふたりの弾く音楽にというか、ふたりの呼吸に合わせて、打ち鳴らされている。
その声と鼓の音の迫力と、座っている奏者の凛とした姿形。
もちろん、山下洋輔のピアノも素晴らしいし、
大谷泰子のヴァイオリンもサービス精神に富み、楽しいし、実力も本物だ。
会場中がこの異種格闘技みたいなセッションに圧倒されてしまって釘付けだ。
2部のトルコ人ピアニストの宙を舞う優雅な手と、
鼓に打ち下ろされたしなやかな大倉正之助の右手が、
目に焼き付いて離れない。
セッションの曲目の中に『ANOTHER STEP』というのがあった。
人は何歳になっても、挑戦することを恐れてはいけない。
そんな宿題を投げかけているような選曲だ。
大好きな面々が弾くピアソラが何だか予定調和過ぎて面白くなく感じられた。
何かを突き破る。
新しいことを面白がる。
それは自分にも求められている。
そう、勝手に思い込んで、密かにテンションが上がるのを感じた。
0 件のコメント:
コメントを投稿