娘の結婚式騒ぎで約1ヶ月近く奔走している内に、
すっかり本業がおろそかになっていた。
気持ちは焦るが、一大イベントに伴って、ダンナは帰ってくるわ、
写真の整理はあるわで、ようやく先週の金曜日からいつもの生活が戻ってきた。
木版の摺りはお天気とも密接に関係があり、
和紙を湿して、その状態を保ちつつ作業するには、出来れば雨の日に
本摺りをした方がトラブルが少なくて済む。
天気予報によると昨日の夜から今日の明け方にかけ、関東地方は雨になるので、
スーパームーンが見られないとか・・・。
それは残念なお知らせに違いないけど、
木版画家としては、この機を逃すわけにはいかない。
そこで、先週金曜日に試し摺りをとり、土日で版の修正を加え、
月曜日の午前中に和紙を湿し、絵の具の調合をした。
そして、空模様を見ながら、昨日の夕方には本摺り開始。
予想より雨は早く降り出したので、それに合わせて、夜中摺るという作戦だ。
順調に8枚の本摺り用の和紙のパートごとに摺りを進め、
約7割ほど摺り終えたところで、夜11時になったので、一度寝ることに。
以前は一気呵成に体力任せで、8時間とか10時間とか摺り続けていたが、
今は小分けにして、休み休み時間をかけて摺ることにしている。
布団に入り、寝たいだけ寝ようと決め、お休みモードに・・・。
ところが、夜中の3時、いきなり手元のスマホの電話着信音が鳴った。
何ごとかと飛び起きる。
こういう時間の電話は、何か嫌な知らせかもしれないとドキドキする。
「非通知設定」だったから、一瞬ためらわれたが、
頭が寝起きでよく回っていないので、出てしまった。
「もしもし、今、ちょっとお話しできますか」と低くてささやくような男の声だ。
えっと一瞬たじろいて、黙っていると
「お休みでしたか。申し訳ありません。ホームページを拝見して、
相談にのって欲しくて、失礼な時間におかけしてしまいました・・・」
心理カウンセリングのホームページを見てかけてきたいたずら電話である。
個室で対面する性質上、女性限定にしているにも関わらず、
HPに顔写真も載せているし、女性カウンセラーだということを明かしているので、
時々、こうした電話がかかってくる。
それにしても、真夜中にかけてくるなんて・・・。
もちろん丁重にお断りし、なんだか興奮状態になってしまったので、
ここで起きて、作業を続けることにした。
真夜中のアトリエに戻り、ひとり黙々と摺っていると
さきほどのささやくような男の声が耳元によみがえってくる。
手は木版を摺る作業を進めているけど、
頭が男の声に翻弄されかかる。
真夜中だけど、大好きなJAZZのCDをかけ、摺りに集中しようと努めた。
真夜中にネット検索して、興味の湧いた女性心理カウンセラーに連絡してしまう。
そんな男の心理を計ると、背中がゾクゾクする。
一旦、電話では相談に応じていないからと切っても、また、かけ直し、
今度はHPの顔写真についてコメントしてくる。
もはや、間違いなくいたずら電話だと思って、叩ききり、電源をOFFにした。
きっと眠れないと思って、起きてアトリエに来たが、声が執拗に追いかけてくる。
それでも、ひとり、作業がおろそかにならないよう注意しながら、
摺り続けること4時間、夜が明け、雨も上がった頃、
すべての作業が終わり、8枚の本摺り作品が無事に仕上がった。
二足のわらじを履いて、生活していると、時にはこんなこともある。
しかし、心理カウンセラーという職業は見も知らぬ人の悩みに寄りそう職業なので、
見知らぬ男性の心の闇に突然触れることで、
人の心理や生理に想いを馳せることができる。
それが、人の理解や問題提起に繋がって、
ひょいと作品として具現化することもある。
人の心というやっかいなものに寄りそう心理カウンセラーと、
その喜怒哀楽を作品に落とし込もうという木版画家と。
何が私に作品の啓示をもたらすかわからないと前向きに捉え、
滞りなく8枚の作品が完成したことを、まずは素直に喜ぼうと思う。
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