今日から始まったシネマ歌舞伎『四谷怪談』を
桜木町のブルグ13に観に行った。
久しぶりに入るブルグ13の椅子はふっかふかで傾斜がきつく、
全く前の人が邪魔にならない。
まるでひとりで試写会に来ているような感じで、とてもリラックスできた。
肝心の『四谷怪談』は串田和美が監督・脚本・演出を手がける
いわゆる現代版の歌舞伎で、
亡き中村勘三郎とタッグを組んで、何本か創作してきたものと同じテイストのものだ。
しかし、そこには勘三郎はおらず、
勘九郎・七之助・獅童・扇雀という中村屋ファミリーが主要な役を引き受け、
歌舞伎界に留まらない笹野高史を初めとする俳優陣が脇を固めている。
舞台としては2~3年前にオーチャードホールかどこかで上演されたものだと思うが、
映画になると当然のことながら、役者の顔のアップがスクリーンいっぱいに
観られるし、舞台上ではあり得ない演出で映像加工されたシーンが多用され、
独特の世界観が楽しめる。
串田和美演出によく観られる時代劇と現代の融合として、
この四谷怪談にもスーツを着てアタッシュケースを持った大量のビジネスマンが、
実に効果的に舞台を横切るシーンが何度かあって、
(ビジネスマンの映像ではなく、本当に10人ぐらいのスーツ姿の男が舞台に登場する)
とてもシュールで面白かった。
勘三郎が出ていた他のシネマ歌舞伎の時は、彼の圧倒的な演技に見惚れたけど、
今は長男の勘九郎が、すっかり勘三郎が乗り移ったかのように、
その演技といい、声質・言い回しなどを踏襲している。
『四谷怪談』は鶴屋南北による江戸時代の古典の名作だけれど、
シネマ歌舞伎は歌舞伎座を飛び出して、映像の世界で全く別の魅力を放って、
現代の視聴者を魅了している。
会場は60代70代の歌舞伎ファンのおば様とおぼしき人ばっかりで、
しかも、まったく満席とは言えない状況だった。
個人的には優雅な試写会みたいな気分に浸れたけど、
20代30代にも面白みは分かるのではと思うので、残念な気持ちだ。
古典的な題材、表現に現代的な解釈や手法を融合させて、新しいものを創る。
それって、何も歌舞伎だけに留まらない。
自分が手がけている木版画も、
現代美術と言われる手法や構成などを採り入れて融合させることで、
今の自分の作品にも、新しい展開が生まれるかも知れない。
(現代に生きているのだから別に古典ではないのだが・・・)
そんなことを、ふっかふかの椅子に身を埋め、
画面アップのお岩の髪が、櫛けずるとぞろぞろ抜け落ちるシーンの後ろで、
スーツ姿の男がザクザク横切るのを観ながら考えていた。
やっちゃいけないことは何もない!
予定調和でまとまるな!
そんな檄が串田和美から飛んできている気がした。
ふと版画家萩原季満野がビクッとするようなシネマ歌舞伎『四谷怪談』だった。
うらめしや~。
じゃなくて、うらやましや~。