2021年8月22日日曜日

怒れる友人

 






第1と第3土曜日は陶芸の日。

その内、3か月に1回、
釉薬をかける日が巡ってくる。

8月の第3土曜日がその3か月に1回の日で、
しかも、9月中旬の展示会に向け、
最後の釉薬をかける日に当たっていた。

器に釉薬をかけるには
まず、下準備として、器全体を水とスポンジで洗い、
器の底に撥水剤を塗り、
釉薬がテーブルにつく部分につかないよう
カバーする作業がある。

更にテープを使ったりする場合は
釉薬をかける前にテープを貼って
デザインを施す作業がある。

それからようやく釉薬を出してきて攪拌し、
15分ほどかけ、十分に均一になったところで、
器に釉薬をかける。

1色しか使わないということはないので、
その時に一緒に作業する仲間と相談しながら、
2台しかないグラインダーを手分けして攪拌する。

かけ終わった釉薬が乾いたら、
底に着いた余分な釉薬を布やブラシでこそげ落とし、
釉がけ完了。

釉がけは私たちにとっては
最後の作業で、
これまでに作陶から始まって、削りを経て、
素焼きの終わった器を本焼きに出すための
一番大事な工程になる。

本焼き自体は先生に託してしまうので、
会員のできる作業として
最も集中して、丁寧に作業するため、
誰もがナーバスになる工程と言える。

同じタームで作業している友人Aさんは
今回は大量の釉がけがあるからと言って、
いつもの午後の作業に加え、
午前9時からの組にも参加して、
丸1日かけて釉薬をかけることにした。

午前組には午後と同じく4~5名の会員が登録し、
同じく展示会直前の最後の釉がけに
取り組んでいた。

私は今回は午後だけの作業でいけると判断し、
午前中にカウンセリングを1本こなし、
午後1時に工房に到着した。

すでに下準備を済ませたAさんの器が
テーブルにずらりと並び、
Aさん自身は昼食を買いに席を外していた。

私とAさんは大きなテーブルの斜め向かいに座り、
いつもは作業しているので、
早速、私も釉がけする器を台に並べ作業開始。

そこにAさんが何だか疲れた様子で帰ってきた。
「Aさん、作業は順調ですか」と声をかけると、
「ちょっと聞いてくださいよ~」と
Aさんは情けない声を出した。

聴けば
午前中の作業の途中で、
Aさんが3枚1組で創っていた角皿の1枚を
午前中のメンバーの一人が踏んづけて
割れてしまったという。

詳細は分からないが、
明らかにその踏んづけた人の不注意による事故で、
Aさんはしばらく言葉がでなかったという。

「試作品だから気にしないで」といったらしいが、
試作品どころか、その作品が今回の展示会の
彼女のメインの作品と知っている私は
Aさんの怒りと悲しみが手に取るようにわかった。

「私だったら、何すんのよって叫んでいるわ」と
慰めにもならない言葉をかけたが、
「きっと萩原さんがきたら愚痴っちゃうと思いました」と
ようやくその気持ちを吐き出せたと
Aさんは苦い笑顔をみせた。

踏んだ相手は申し訳なさそうにしていたとは言え、
せっかく思いを込めて創ったものを
最後の最後に他人に壊される、
そんな絶望的に悲しいことはない。

何がつらいって、
そういう気持ちが
ものつくりびとでないと理解できないことと、
同じものつくりびとなのに
そういう雑な人間がいるということだろう。

Aさんはもう1点、
縁をレースのように穴をあけた器の一部が
素焼きの時に欠けてしまったので、
弱り目に祟り目、
完全にノックアウトの状態だと嘆いた。

そのレースの縁が欠けたのも
もしかしたら人災?

ものを創るという作業自体は楽しくてやっているが
時にこうした事故が起こる。

陶芸も版画もそれは同じだが、
自損事故ならまだしも、
他人がからむとややこしい。

たまたま今回はAさんの身に降りかかったが、
自分だったら怒りの矛先をどこに向けたらいいのやら。

しかも、9月中旬の展示会を
ここまできて、コロナを理由に
取り止めにするかもしれないという。

何のために2年間、作り溜めてきたのか、
私もAさんも深く大きなため息をついた。




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