2021年10月25日月曜日

摺り師降臨

 














8月のお盆前には彫りあがっていた新作だが、
9月になっても
10月になっても涼しくならないので、
ずっと摺りを始めることができずにいた。

丸2か月も間が開くと、
気力が湧いてこなくなり、
どうやって摺りをしていたのかさえ忘れそうになる。

10月のカレンダーには
空白に大きく
「新作の試摺りと本摺り」と書いて、
自分を追い込もうとはしているのだが…。

遂に最終週が近づいてきて、
ようやく重い腰を上げ、
先週の金曜日に試摺りをとった。

カレンダーには
土曜日にカウンセリングと陶芸が入っていたので、
次の日の日曜日と月曜日で
本摺りをすることになっていた。

これは試摺りが一発でいい感じに摺れ、
本摺りのイメージが固まることを
意味しているのだが、
実はさほどいいイメージが掴めなかった。

かといってもう一度試摺りをとる気もなく、
そのまま修正を試みながら
本摺りを決行することにした。

和紙をカットし、湿し、
絵具の調合をするなどの下準備は
土曜日の朝早くに済ませ、
その後、カウンセリングと陶芸に行き、
日曜日の朝には本摺りに着手できる態勢を整えた。

こうした作業の合間には
3度の飯作りはあるし、
画室に籠るためには大買い出しもある。

我ながら、時間をやりくりし、
頑張っているなと思うが、
3度の飯を平然と食べているダンナは
アンタッチャブルを決め込んで、
自分のことしかしないのはいつものこと。

もはや腹を立てて何か言ったりしないのは
悟りの境地。

さて、
試摺りの何が気に食わないかというと、
作品の下半分の背景の濃い青緑と、
上半分の太鼓橋の色だ。

どちらも中途半端な色で、
絵の中にうまく収まっていない。

この作品は試摺りをとりながら
なんだか浮世絵みたいだなという気がしたので、
オマージュのように浮世絵の技法を取り入れ、
イメージが固まってきた部分もあるが、
その2点に関しては
本番で何とかしようという作戦だ。

最近はこの手の中型サイズ6枚を本摺りする時も
2日間に分けて作業することにしている。

以前は早起きして、
一気呵成に連続12時間摺りなどと
体力に任せて無茶をしてきたが、
今、それをやると気力が続かず、
9割がたできたあたりでイージーミスをするという
泣くに泣けない事件が起こる。

頭が真白になりつつ、考えようとしても、
いいアイデアが浮かぶはずもないし、
いい加減な仕事になってしまうので、
最近は迷わず、途中で寝たり、
お風呂に入ることにしている。

そうやって今回も6枚の本摺りが
無事に摺りあがった。

比べていただけると分かるが
試摺りの背景と太鼓橋の色と、
本摺りの背景と太鼓橋の色は相当違う。

摺っている間にタイトルも決まった。
最初は「雨の鎌倉」にしようと思っていたが、
何となく演歌みたいだなと感じていた。

摺っている内に
鎌倉にこだわらなくてもいいのではと思い、
「古都の雨」
というタイトルが浮かんだ。

いかがだろうか。

字ずらも何となく浮世絵っぽいし、
文学的な匂いもする、
と、作者は思っている。

2日に分けたせいで、
冷静に考え、作業できたので、
失敗もなく摺り終えることが出来た。

ほとんど忘れかけていた摺り師としての勘も
取り戻すことが出来、
めでたしめでたしな本摺りであった。


























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