2023年8月20日日曜日

芥川賞『ハンチバック』を読む

 






今年の上半期の芥川賞を受賞した
『ハンチバック』を読んでみた。

7月に受賞作が発表され、
受賞者の映像が映し出された時、
私はすごくドキッとした。

市川沙央さんという女性は
車いすに乗っていて
喉の切開の部分をスカーフで隠してはいるものの
重度の障害者であることが
すぐに見て取れる容姿だったからだ。

小説のタイトルの『ハンチバック』からだけでは
どんな内容かは想像できなかったが、
何やら不穏な印象は免れず、
どこか怖いもの見たさで書店に向かった。

書店には単行本になっている『ハンチバック』も
もちろんあったが、
私は書評や他の記事も読みたかったので
文藝春秋の方を手に取りレジに並んだ。

本の内容は
重度の障害者である本人がモデルの
いわば私小説だが、
それはいわゆる健常者が思い描く障害者の枠を
はるかに超える生々しさと厳しい現実を
突きつけつつ、
自虐的ユーモアに満ち、
更に文学としての秀逸さを示していた。

ハンチバックとはせむしという意味で
障害ゆえにひどく湾曲した自身の姿を
自虐的に表した言葉だった。

本書では書評を寄せている今回の審査員が
それぞれどんな考えの持ち主なのか、
障害に対してどれほどの見地を持ち合わせているか
まるで踏み絵のように
その書評の文章が物語っているので
文藝春秋の方を買ってよかったと思う。

私はほとんど出会うこともない障害者を
たまに街で見かけたりすると
目を逸らしそうになる自分に気づいているし、
深く関わろうという意識もなく、
出来れば関わらないで済むならば…と
思っている自分も知っている。

しかし、障害を持っている人や
LGBTQの方など、
いわゆる普通じゃない人が
(語弊があることを承知でいうと)
どんな性的欲望を持っていて
もちろん性的欲望があるのも当たり前だし
どのようにその欲望と対峙してきたか
情報として関心をもってきたつもりだ。

そんな興味本位の覗き見趣味を
完全に打ち砕く形で
この小説は鋭い刃を突き付けてきた。

個人的にはこの小説のエンディングに
多少の不満はあるが、
筆者の語彙力はまさに圧巻だし
その毒を含んだユーモアも魅力的なので
市川沙央さんが今後、どんなものを書くのか
とても楽しみにしている。

今回の文藝春秋には
「父・小澤征爾の希望」というタイトルで
娘の征良さんが寄せた寄稿文も載っている。

重篤な病をおして、尚、
音楽に命をかけ、
情熱を傾けるさまを間近で観てきた人が
小澤征爾がいかに真摯に音楽と向き合っているか
報告している。

人間、何かを通して
自分を表現できるものを持っているということは
素晴らしいことだと
あらためて思った。

暑い暑いと文句ばかりの今年の夏。
じゃあ、お前は何を残したんだと
そろそろ自分に喝を入れ、
重い腰を上げる時が近づいている。

皆さんも文藝春秋を手に取り、
『ハンチバック』で
痛いところを突いてもらってください。

おススメします!











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