2019年8月7日水曜日

着物は魔物

 
 
 
 
 
人には手を出してはいけないと分かっていても、
つい自制心が利かなくなるものがある。
 
スイーツ、お酒、洋服、宝飾品、車、麻薬など、
可愛いものから決して手を出してはいけない怖いものまであるが、
私にとってそれは「着物」だ。
 
ほとんど麻薬といってもいいほどだ。
 
生活に必要なものでもあるが、なくても生きていける。
いい加減、枚数をすでに持っているから、
今後、一生、1枚も新しく買わなくても大丈夫、
な、はず。
 
なのに、おつきあいのある呉服屋さんの展示会のお誘いを受けると、
たまにふらふらと出掛けてしまう。
 
今回もファミリーセールと銘打たれた展示会の目玉の
お箸を1セット頂くだけと、自分に言い聞かせて、
この暑い最中に日本橋まで出掛けてしまった。
 
担当のSさんとは歌舞伎にご一緒する仲で、
8月下旬のチケットを取っていただいており、
そのチケットの引き取りとお支払いが主なる目的だったのだが・・・。
 
11時過ぎ、会場に到着し、
先ずは今回、初出店の皇室御用達の傘屋さんの傘を見て、
「いただくなら、これかしら」と心積もり。
 
その時点では着物の展示会場に立ち入る気配はなし。
 
次に混む前にと高島屋本店の地下のレストランにランチに。
歌舞伎の話や、孫の写真を見せびらかしたりして、
楽しくお食事。
 
2時に次のお客さんの予定があると聞いていたので、
予約をしていたお箸1080円なりをいただいて帰るつもりが、
そのお客様に突発の来客があって、少し遅れるというメールがあったとか。
 
そこで、中継ぎピッチャーとしては、
せっかくだから着物会場も見てみましょうということになる。
着物の展示会に来ておいて、
お箸だけ買って帰るわけにもいかず、
「見るだけはただよ」と心の中でつぶやきつつ、会場へ。
 
「夏の着物はいいものを買っても、汗で駄目にしてしまったり、
お手入れが大変なのよね」などと牽制球を投げながら、
最初のコーナーで早くも淡いグレーのちりめん地に
横段に唐草模様の総柄が入った訪問着に気持ちが動いた。
 
私の好きなブルー系の模様で、
夏の着物というわけではないが、
爽やかで清々しく、かつ上品だ。
 
呉服屋さんの展示会は、
各コーナーに生産者の方が品物を持ち込んで並べているので、
呉服屋さんの担当さんとは別に、
その着物の作者であったり、織り元さん、染め元さんの人が、
その着物や帯の詳しい説明をしてくださる。
 
「このちりめんはどっしり重くて、いい品物なんですよ」とか、
「古典柄を現代的に配置して、なかなか珍しい着物ですので、
ぜひ、それを分かる方に着ていただきたい」などと、
ちょいちょい女心をくすぐりつつ、
購買意欲を刺激してくる。
 
しかし、
最初に手を通した縮緬のブルーの着物はうまくかわすことが出来た。
 
だが、しかし、
最終コーナーに近づいたあたりの紬のブースで、
私の目に飛び込んできた100%好みの黒地の紬の着物。
 
それは畳の上に積み重ねられたものではなく、
私を見て!とばかりに、大きな衣桁に両手を広げ、
その全容をみせて、かけられていた。
 
黒地に白い細かい絣柄。
そして、何といっても目を引いたのは、体全体にオーロラのように
リボンのように流れる帯状の柄。
その帯状の部分は紫やブルーなど何色も使って動きを出しており、
黒地の紬部分と同時に折り込まれている。
 
技術的にとても難しい紬であることが分かる。
 
そして、その紬のすぐ側にあったやはり織物の帯。
色はベージュ、柄は射手座。
射手座を表す矢を射るケンタウロス?が、和紙を使って
ベージュの帯地に紺色系で描かれている。
 
満点の星空、たなびくオーロラ、
矢を射る射手座のケンタウロス。
 
いやはや私の大好きな着物に物語を感じるというひと揃えがここに完成。
 
着付けの方も、生産地新潟から見えているおじさんも、担当さんも、
大乗気で、ぴったり合う小物を捜してくれた。
 
「なんて素敵なお着物でしょう。
今まで見た紬の中で1番好きかも」と、私。
 
「着るだけはただよ」なんてうそぶいていた気分はどこかに吹っ飛び、
もはや魔の手が忍び寄る。
 
しかし、なんと総額200万円越えの品物だ。
いくら、ここに店長さんや部長さんやらが登場し、
「断腸の思いで」とか「ファミリーセールだから特別に」とか言って、
最後のお値段を示してくださっても、
即断できるような額ではない。
 
これで、3桁の資金繰りをしてしまうようでは、
もはや私の着物依存症も末期症状だ。
 
というか、単純にそこまで出せるお財布がないというだけのこと。
 
一旦は冷静になるために家に帰ったが、
どう考えても、来年の個展に相当お金がいることは明明白白。
ぐっと唇を噛みしめ、
お断りする勇気を振り絞った。
 
担当さんは「検討していただいて、ありがとうございます」と
明るくいってくださり、気持ちが少し軽くなった。
 
というわけで、今回は何とか踏みとどまった着物フリーク。
 
「着物は魔物」というお粗末でした。
 
 

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