昨年の夏、
7月11日に撮影されたという樹木希林・最後の作品を観に行ってきた。
死の2ヶ月前ということになろうか。
「命短し 恋せよ乙女」
というのが、邦題だが、
ドイツ人女性の監督によるドイツ映画だ。
ある日、ドイツ人男性に、
父親が日本で知り合いになったという「ユウ」と名乗る女性が訪ねてくる。
ドイツ人男性カールは本来の自分を見失って、酒に溺れ、
仕事も家庭も失い、
すっかり自信をなくしてしまっていた。
そんなカールにどこからともなくやってきて、寄りそうユウ。
この世のものともあの世のものともつかない不思議な女性だが、
導かれるようにカールは実家に向かい、
長く閉ざされていたドアの鍵を開けた。
そこから次第に昔の家族にあった出来事がひもとかれる。
毎夜、幻影にさいなまれるカール。
しかし、
心の闇や幻影は、なぜかユウに心を開いていく。
そして、カールにとってユウが意味のある存在になった頃、
忽然と、ユウは姿を消した。
ユウを捜して、日本の茅ヶ崎にやってきたカールは、
茅ヶ崎舘という旅館の女将・樹木希林と出逢う。
そこには女将とユウに隠された悲しくも美しい物語があり、
死を間近にした樹木希林の命の言葉があった。
ドイツ人監督ドーリス・デリエは
すでに死を身近に感じていた樹木希林を説き伏せ、
この役を承諾させたといわれている。
この時、樹木希林は
「歩くのは出来るけど、階段は無理よ」と言ったという。
映像での、本当に絞り出すような声、
劇中で歌う、もの悲しい「命短し 恋せよ乙女」の唄。
女将のセリフでありながら、樹木希林の遺言のような言葉の数々。
樹木希林という影響力の強いひとりの女性が
最後に選んだ作品で、何を残したかったのか。
それを確かめたくて、私はひとり映画館に足を運んだ。
みなとみらいの横浜美術館を通り過ぎた先にある
Kino Cinema
木下工務店が手がけた映画館らしい。
席数が少なく、ゆったりとしていて、シートがリクライニングにもなる。
すごくオシャレなトイレも必ず押さえたいポイントだ。
モノトーンに赤を効かせた内装、
商業主義に走らない大人の映画館として、
また、来ようと思った。
映画の最後にほの見えた光。
日独合作というのではなく、
ドイツ人の創った映画なので、
解釈に時間が必要な部分もある。
しかし、
監督が日本をリスペクトし、
日本人や日本文化をリスペクトし、
そして、樹木希林をリスペクトしていることがよく分かる。
最後のシーン、
女物のゆかたをまとったカールに、
「そうよ、生きるのよ」と、
私はそっと声をかけた。
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