私がここ数年読んだ本の中で、
最も感動した本は恩田陸の『蜜蜂と遠雷』である。
2年前、直木賞と本屋大賞をダブル受賞し話題になったが、
本当に文学の力というか、
言葉でここまで音楽を感じることが出来るなんてと、
驚いた小説だった。
絶対、映像化は不可能といわれていたこの小説が
今回、映像化され、
しかも、恩田陸本人が絶讃しているので、
これは何としても観に行かねばと思っていた。
映画はあの分厚い小説をほぼ2時間にまとめ上げ、
まるで1曲の協奏曲を聴くがごとく、
疾走感溢れるダイナミズムで、
観る者を圧倒した。
内容は若手の登竜門といわれるピアノコンクールに挑戦する
4人の若者を中心に、
それぞれの人生や人としての背景が、
どんな風にピアノ演奏に投影されるのかという物語。
特にカデンツァと呼ばれるピアニストが自由に弾く部分に、
それぞれの個性や人生に背負っているものが
色濃く反映されている。
本ではそれを抽象的なそれでいて映像的な表現で、
それぞれの想いを表現していて素晴らしいのだが、
映画では
4人の役者には
その役者のピアノ演奏を担当する4人のプロのピアニストがおり、
それぞれの個性に合った曲と演奏がつくので、
視覚と聴覚の両面が見事に融合して、
まるで本当にその役者が、4人の登場人物になって
ピアノを演奏しているようだった。
同じ曲を弾いてさえ、それぞれの個性が出る上に、
カデンツァでは、
曲そのものがその人となりを表している。
課題曲の「春と修羅」(宮沢賢治 原作)の作曲と、
その曲の途中から始まる
それぞれのカデンツァの部分を作曲した藤倉大氏は
本当に凄い。
また、石川慶監督の
映像で音楽そのものを表現しようという狙いも
十分、成功していると思った。
印象的な亜夜と塵の連弾のシーン、
砂丘に残した足跡で何の曲か当てるシーンなど、
「若いっていいなぁ」
「天賦の才能って輝いているなぁ」
「生きているって素晴らしいな」
と、思わせてくれた。
2時間見終わった時、
まるでため息をつくように、
会場全体の肩の力が抜けるのを感じた。
たぶん、みんな同じ思いで
音楽を感じ、音楽に酔い、
音楽を堪能したんだと思う。
原作の小説もぜひ読んで欲しいが、
この映画も必見だ。
ぜひ映画館に足を運んで、
音楽が疾走する臨場感を味わって欲しい名作だと思った。
0 件のコメント:
コメントを投稿