2019年11月18日月曜日

引き籠もって 本摺り

 
 
 
 
 
 
昨日今日の丸二日間、
私は画室に閉じ籠もって、
木版新作の本摺りを決行していた。
 
版の彫りは夏の間に出来ていたのだが、
暑いと摺りの条件としては過酷なので、
ほどよい気候になるのを待っていた。
 
10月には紙風船の登場する小さめの新作を
2点、本摺りしている。
 
そこでつかんだ手応えを頼りに
81㎝×81㎝の大作に
満を持して取りかかったというわけだ。
 
もちろん先週1週間は試し摺りに費やし、
細切れに5日間ほどかけて
最終のイメージを作り上げてきた。
 
今回の作品は
紙風船と時計草の両方が画面にいくつも出てくる。
しかも帯締めをモチーフにした紐状のモチーフも
画面中に絡まっている。
 
大きな画面だからと
要素を増やしたせいで
何だか散漫なイメージになり、まとまりがないというのが、
試し摺りをしたときの感想で、
作者としては
「やばい!」と感じていた。
 
それをいかにまとめ、
言いたいことを表現出来るか、
そこに注力して、
少しナーバスな日々を過ごしていた。
 
表面上は孫娘のところにご飯を作りに行ったり、
友人と飲んだり踊ったりしているので、
お気楽に生きているように思われるだろうが、
版画家にとって試し摺りの最中が最も神経質になっている。
 
しかし、一旦、本摺りが始まってしまえば、
後は集中力と持続力と自分の感性を信じ、
丁寧かつ慎重に、作業を粛々と進めるしかない。
 
本当は湿度の問題で、
天気がよすぎるのは乾燥が進むので
あまり本摺りには適していない。
 
しかたなく雨戸(シャッター)を降ろして
晴れているんだか、曇っているんだか、
朝なんだか昼なんだか分からない状態にして、
ひたすら版木に向き合った。
 
大きな作品は一度に4枚摺ることにしている。
 
色数は約45色。
版数は約20版。
 
20版といっても版木にして
90センチ×90㎝の板、5面しかないので、
要は
1面にあちこちに取り回して複数版、彫ってある。
(カギ見当と引きつけ見当1セットで1版と数える)
 
私は術部を出すという言い方をしているが、
必要のないところは広告紙で覆い、
今、摺る部分だけが出るようにしている。
 
その作業が思いの外時間をくい、
また、ミスを誘発することにもなる作業なので、
神経を使い、疲れる。
 
結局、2日間で作業は17時間ぐらい。
その間、ほとんど正座して、
前のめりになって力仕事をしていたことになる。
 
今回の2日間は
作品タイトルが「愛しい記憶」なので、
1980年前後に流行したヒットメドレーを延々と流していた。
 
だから、
何度、甘いとき弾む心で
もんた よしのりと踊ったことだろう。
 
また、ベージュのコートの女なんてそこら中にいるんだから
いつまでも女々しく指にルビーのリングを
捜すなよと思ったことか。
 
郷ひろみとは何度も青い飛行船に乗り、
「生きてるだけじゃ淋しいよ」と言われれば、
そうだそうだと頷いた。
 
そして、
飾りじゃないのよ涙はHAHA
好きだと言ってるじゃないのHOHOと
明菜を気取り、
 
中村雅俊に何度となく
馬車道あたりで待ち伏せされて
「このまま指でいかせてくれ」と頼まれたことか。
 
ヤレヤレ。
 
どんなに摺っても摺っても終わらない。
なのに、三度三度のご飯は作らなければならない。
意外とこんな時なのに、
鶏もも肉を酒と醤油のつけ地つけ込み、
上に大量の刻んだ長ネギと豆鼓(中華材料)を乗せ、
オーブンで焼くなどという
新メニューを開発したりして、
手抜きはしていない。
 
版画の摺りはとにかく体力勝負なので、
肉と野菜をしっかり摂取し、
チョコレートやお団子なので、糖分を補給し、
乗り切る必要がある。
 
さあ、二日間引き籠もって制作した新作の評価はいかに。
 
4枚共、ミスなく摺りおおせたので、
後は皆様の評価を仰ぐだけである。

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