陶芸工房で造った新作の向付が
本焼きを終えて出来上がってきた。
思い描いた通りの焼き上がりで、
大きさも色合いも
ちょうどいい具合に仕上がった。
制作中はひとつに400gの土を使ったので、
ちょっと大きすぎたかなと思っていたが、
素焼きで1度本焼きで1度、
器は2度焼しめられて縮むので、
結果、思ったほど大きくはならなかった。
向付という器は
茶懐石においては最初のお膳の
飯椀と汁椀の向こう柄に位置して、
白身のお刺身がのることがほとんどだ。
お醤油皿のような小皿はつかず、
こぶ〆にした鯛をさっと醤油だれにくぐらせ、
わさびと木の芽をあしらったりして饗される。
基本、懐石に出されたものは
お汁ひとしずくも残さずいただいて、
懐紙で器を清めてお返しするという作法なので、
懐紙で拭き清められないほどの
お醤油など、出されることはない。
白身の魚が映える器ということで
向付は松葉をデザインした。
とはいえ、既視感は満載で、
ご存じ歌舞伎や能舞台の背景に描かれた
あの松のイメージである。
制作途中は大きさといい形といい
膿盆にしか見えなかった器も
黄瀬戸と織部の釉薬がかかると
あら不思議、
松にしか見えてこないから
あらかじめの既視感はとても大事だ。
しかし、向付としての出番を待っていても、
家庭では懐石料理なんて食すはずもなく、
8枚も造ったはいいが、
家人は口うるさいおじさんひとりしかいない。
番町皿屋敷じゃあるまいし、
一家の家宝にするほどのものでもないので、
割る前にさっさと使ってみることにした。
とはいえ、
小鉢よろしく和え物や煮物から
のせてしまってはちょっともったいないので、
まずはお刺身をのせてみた。
買い出しで魚河岸という名の個人店を覗くと
けっこうな厚みに切ったマグロとかんぱちの
盛り合わせがあったので、求めてきた。
脂ののった切り身は
その辺のスーパーより厚めのせいか、
5切れで満員御礼になってしまった。
それでも刺身の薄い赤とつまの白、
しその鮮やかなグリーンと
器の渋いグリーンが
なかなかいい色合わせになった気がする。
これにあとで
わさびとカイワレなど添えれば
もっと華やかになるであろう。
他には
砂肝とささみとカイワレの中華風和えもの、
海苔を巻き込んだ卵焼き、
菜の花のわさび醤油和え、
三つ葉と麩のかきたま汁なんかどうだろう。
今年は
一向に温かくならない寒い冬だと思っていたが、
今日あたりから
少し春めいてくるらしい。
ひな人形ひとつ飾らずに
がさつに暮らしているが、
ちょっとひな祭りっぽい夕餉になりそうだ。
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