遂に本摺りを決行する日がやってきた。
日曜と月曜の2日間、
アトリエに籠って
5枚の和紙に摺ることにした。
和紙の湿しは前日の夜、
絵具の調合はその前の日には済ませてあるので、
後は起きたらすぐに摺りに取り掛かる。
毎回、本摺りの時は
目覚ましをかけずに、
自分の体が自然に目覚めた時に
起き上がることにしている。
出来れば「朝飯前」に一仕事できるといいが…。
朝食は7時半から作り始めて
8時に食べるというのが
いつものパターンなので、
つまり、それより早く起きた場合は
「朝飯前」に摺り始められるというわけだ。
幸い、日曜日の朝は
自然に5時20分に目が覚めたので、
むっくり起き上がっても5時半から2時間、
朝飯前の摺りができたということになる。
ここで、厄介な雨のパートを
やっつけることにした。
立ち上がりがうまくいくと気分がいいので、
ミスのないように作業を進める。
そして、7時半になったら、
キッチンに立ち、
朝食を作って食べて、
計1時間の休憩を取った。
普段の1日はここから始まるので、
その前に済ませた2時間の摺りは
ノーカウントになったつもりで、
新たな気持ちで次の版に移ることが出来る。
本当は疲れていても
こんな風にあの手この手で脳をだましながら
この過酷な摺りを乗り越えるのだ。
1日目は大体ここまでと
摺りの段取りを決め、
全体の摺り工程の7割を目指して
摺り重ねていく。
途中、ここでやめた方がいいんじゃないかと
思うようないい感じになることがある。
和紙の白は美しいので、
今回も雨と紫陽花を摺ったあたりで
辞めたくなったが、そうもいかないのが版画だ。
今回は「雨にけぶる街」がタイトルの
夕暮れの風景と紫陽花なので、
色調は暗く重いので、
紙の白に紫陽花の花と雨では終わらない。
しかし、こんな手ぬぐいとかあったら
素敵かもなどと
独り言ちながら、作業は黙々と進む。
1日目が終わるころには
腰が悲鳴をあげ、腕が前にずり落ちて
背中と首がバキバキだ。
ここで彫刻刀を首に刺したい気分だと
ブログに書くと整体の先生を
脅すことになるので、
夕方、奇声を上げて腕をぐるぐる回すにとどめた。
早めにお風呂を沸かし、
ゆっくり湯船に浸かり、
シャンプーなどして気分転換を図った。
2日目の朝は6時20分に目覚めたので、
朝飯前は1時間。
2日目は一番心配していた版のズレがないか、
いよいよ本摺りで確かめるパートの摺りからだ。
今回の作品には太さ4mmの雨が
作品全体に降っている。
雨の作品は今までにも何点か創ってきたが、
今回の
作品が最大の大きさなので、
雨と背景とがズレるリスクも最大だ。
紙は余白の一部をカットした
見当と呼ばれる2か所を
版に彫った見当と合わせて置く。
ただ置くだけなので、
ちょっとしたことでズレ放題になる。
大きな作品なら尚のこと。
試し摺りの時は
きちんと和紙の湿しをしていないので、
ズレるのを承知で色を決めることに
集中している。
だから、本当に正確に版が彫れているか、
もっと言えば、
トレースの段階できちんとトレースされているか、
本番でズレないように
和紙を版に置くことが出来るか、
すべてがこの本摺りの瞬間に分かる。
結果は
惚れ惚れするほど、
正確に版はトレースされ、彫れていた。
5枚の内、1枚だけ、
微妙にズレたが、
4枚は雨と背景はピタッと一致。
何のリタッチも必要のない
完璧な版が出来ていた。
この部分だけは
この作品で大いに自分を褒めたいと思う。
作品の出来不出来は
本人はまだ、熱くなりすぎていて
よく分からないので、
鑑賞者の感想を待つことにしよう。
とにかく、やるだけのことはやった。
あとの評価は
「天命を待つ」気持ち。
彫り師・季満野は完璧だった。
摺り師・季満野はそこそこ頑張ったと思う。
絵師・季満野の評価はいかに。
2月半ばまでには仕上げるという
ミッションは無事にクリアしたので、
今夜はビールがさぞかし旨いだろう。
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