数日前、2か月近く待たされた
手漉きの和紙が届いた。
ひとりでは持てないぐらいに重い。
木版画の制作に欠かせないもののひとつに
手漉きの和紙がある。
私の作品は
木版画の中でもとりわけ色数が多いので
その多色摺りに耐えられるような厚手の和紙が
必要だ。
学生時代はいろいろな画材を扱っている店で
「鳥の子」と称される和紙を買っていた。
しかし、それは100%楮(こうぞ)で
出来ているわけではなく
多分50%以上はパルプが混入されている。
プロとして作品に価格を載せるようになって
からは福井県の紙漉き業者の所に
1枚16匁の「楮100%生漉きの白」という銘柄で
注文し漉いてもらっている。
お米で言えば、
「新潟県魚沼産のこしひかり」みたいな感じで
生産地を特定し
その商品の特徴に惚れ込んで作ってもらうと
いうイメージだろうか。
その「山喜製紙所」には30年くらい
お世話になっているが、
和紙の値段はじわじわじわじわ
確実に値上がりしている。
私は4~5年に1度しかその和紙は注文しない。
最初は和紙1枚800ぐらいだったと思う。
(十分それでも高価ではあるが…)
四六版という大きさは
94×67㎝ぐらいだが
それは皆さんもよく知る手漉き和紙を流し込む
木枠の大きさである。
そこに汚れを何度も何度も取り除き
ある濃度に溶かした紙の材料を流し込み、
木枠をゆっさゆっさ揺さぶって均一にし
水を切る。
和紙は重さ、つまり、厚さで値段が変わるので
同じ量流し込んで同じ重さになるように漉く。
もちろん含有する楮や三俣など
日本固有の和紙の材料の含有率でも
値段は変わる。
100%楮のものが
一番高価な和紙なのは言うまでもない。
それが1枚800円が1000円になり
1000円が1200円になり、
遂には1400円になった。
しかもそれは生産者直売の値段なのだ。
税抜きなので厳密には1540円。
いつも100枚注文しているので154,000円也。
紙100枚の値段にこの価格を
皆さまはどうのように感じるだろうか。
今回は
これに試し摺り用の和紙10枚もお願いしたので
全部で162,000円ほどになった。
しかも、明日、発送するという日に
製紙所のおじいちゃんから電話があり、
「最近、楮の値段がまた値上がりしたけど
前の値段のまま出すから、
着いたらなるべく早く入金してほしい」と
言われてしまった。
そんなに自転車操業なのかと心配になり
「分かりました。すぐにお振込みします」と
答えた。
2か月前の嫌な予感は的中し
楮も値上がり、石油も値上がり、
運送費も値上がりで、しかも
紙漉き職人の後継者はいないのかもしれない。
値上がりしていないのは
福井の里の水ぐらいだろう。
日本の伝統工芸を支えているものは
現在、ことごとく値上がりしている。
例えば、抹茶は外国人が買い占めるせいで
以前の2倍以上。
着物の産地でも材料の絹糸、
染料その他の値上がり。
そして、職人さんの後継者不足の問題は
本当に由々しき問題だ。
昨日の午後、きものの襟洗いをお願いしようと
ひょいと覗いた呉服屋さんで
蜘蛛の巣にかかった虫のように
きもの沼に引きずり込まれてしまい、
予定にない「紋紗」のきものと
「麻の長じゅばん」を買う羽目になった。
これまた、
「もうこの技術で作れる人がいない」
「材料費の高騰でもうこの値段では出せない」
「新作の1点物だからこれしかない」みたいな
もの凄い攻勢に会い
やむなく撃沈。
結果、
ここには恐ろしくて書けないような値段で
買うことになってしまった。
それも、日本の伝統工芸を守るためという
後付けの理由で
自分を説得した結果だ。
そのきものは地震のあった石川県の能登が
生産地だったためだ。
誰しも自然の驚異には抗えない。
何百年と続く日本の伝統は守らなければ。
そんな思いが
襟洗いだけのつもりの私を揺さぶった。
よく考えたら、私が制作している木版画も
日本の冠たる伝統文化の一翼だ。
そして、
木版画作家である私はその片棒担ぎだから
れっきとした日本の希少な固有種。
絶滅危惧種といってもいい。
その割にはこの邪険な扱われよう。
やれやれ、誰か私を守っておくれ~。
もっと大事にしておくれ~。
そんなことを思っても
お茶一杯出てきゃしない。
自分を守るのは自分しかない。
そう思い知った母の日の次の日だった。


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