2026年7月11日土曜日

急転直下 入院手術へ

 







その日、私は自分の「お楽しみ」の準備のために
朝から忙しくしていた。

朝イチ、徒歩30分のところにある区役所に
戸籍謄本を取りにいった。
12月、友人に誘われた初クルーズに参加するには
期限切れになっているパスポートの申請が
必要だからだ。

区役所につく手前にある証明写真のボックスで
パスポート用とビザ用の組み合わせの
証明写真も撮った。

10時半、デリバリーの出来るスーパーへ。
3日後に迫った別の友人との
国内旅行のためのお菓子や飲み物、
留守宅の食材などを大量に買って
デリバリーを頼むことにした。

予定ではその次は、カーブスでひと汗かく。
どこかのタイミングでランチをとる。
1時5分からは次女ご推奨の映画「マイケル」を
ひとりで観るため、チケットを予約した。

映画が終わるのは3時半なので、
その後、内科でいつもの薬を処方してもらい
薬局で受け取る。

というような流れで
その日の予定はびっしり組まれていた。

証明写真を撮り、区役所で戸籍謄本を取り、
スーパーでカートいっぱい買い物をする。
そこまでは順調に進んでいた。

しかし、レジで会計をpay payでしようと
スマホを取り出した時、
いきなり手に持っていたスマホの電話が鳴った。

思わず、電話に出ると
電話口は男性の声で
先日行った県立循環器呼吸器センターの
F先生だった。

一瞬、何事かと思った。
「先日のPhilipsの心電図の解析センターから
緊急で連絡があって、
先日のデータの中で、7月3日の夜11時ごろ
心臓が3~4秒止まっていることが判ったんです。
何かフワフワするなというような自覚症状は
なかったですか」と言われた。

その時、レジには11,024円の数字が出ていたけど、
電話を使っているので、
pay payが使えない。
しかたなく、リュックをもぞもぞ探して
財布からお札を出した。

その間も電話口の話は続いていて
「それで、なるべく早く心臓のペースメーカーを
つけた方がいいと思うので
来週の月曜日に入院して手術しませんか」

「心臓のペースメーカー???」
思わず素っ頓狂な声が出る。

予想だにしない単語が飛び出しているのに
スーパーの店内には元気な音楽が流れていて
話が全く入ってこない。

先生から
「脅しているわけじゃありませんけど、
今までにも何回か意識消失しているし
去年にはそれが原因で硬膜下血腫の大ケガも
しているとしたら、
いつまた意識消失して倒れるかわかりませんよ」
と、脅された。

3日後に旅行なのに、それはキャンセルなのか?
丁度、去年の脳外の手術から丸1年経ったところで
また、手術?
心臓のペースメーカー、胸に埋め込むの?
入院っていったい何日位?
仕事は何件キャンセルしなければならない?

いろいろなことが目まぐるしく
頭を駆け巡る。

「ペースメーカーさえ、つけちゃえば
今までどおりの生活できますから、
早いうちにつけちゃった方がいいですよ」と
循環器センターの先生は
軽い感じで話してくる。

レジのおばさんは、
私の様子がただならないとみて、
めいっぱい品物が入っている2つのカゴを
仕分け台まで運んでくれ
無言のうちにあれこれ支払いを済ませて
レシートをくれ
レジを離れられるようにしてくれた。

相変わらず店内の音楽は景気よく流れているので
カウンターでデリバリーの手配をお願いして
とにかく静かに考えられるところを探した。

今日の予定は、この後、どうするか。
何を一番先にすべきか。
映画なんか観ている場合じゃないかも。

午後4時に行く予定だったかかり付け医に
まず、このことを報告し、意見を仰ごう。
そう決めて、午前中の診療時間に滑り込んだ。

かかり付け医も一瞬驚いたようだったが
「見つかってよかったね。
それは早くに手術した方がいいよ。
つけっ放しの心電図検査、やってよかったね」と
案外、軽い感じで話すので、
もうこれはやるしかないという
決心が固まった。

ちょうど前日、お茶のお稽古で
友人の旦那様がペースメーカーをつけている話
になり、「本人、何でも食べるし飲むしで
最近、太ってきて困っているのよ」

「ペースメーカーつけてると
障害者手帳もらえて新幹線半額だし、
スーパーとか車を簡単に止められていいわよ」
「ペースメーカーって延々と動き続けるから
死ぬときどうするんだろ」
みたいな話が出たばかりだった。

その時は全く他人事だと思っていたけど
にわかに我が身にふりかかり、
とやかく言う間もなく私も障害者になりそうだ。

かかり付け医の意見を聴いた後、
循環器センターに電話して、
一度ちゃんと対面で詳しい話を聴こうとしたが、
電話口の先生は「今日は外来の日ではないので、
来て頂いてもこの電話でお話したことと同じことを
お話しするだけです」と言われ、
あっけなく月曜日に入院、
水曜日に手術という段取りになった。

また、硬膜下血腫の時と同じく
自分ひとりで大きな手術を決断したことになる。

その後はファミリーLINEで
家族に事の経緯を説明し、
1時5分に間に合ってしまったので
予定通り「マイケル」を観ることにした。

当初、なんちゃってマイケルでしょと
バカにしていたが
映画のマイケルの歌とダンスはすごくうまく
映画の内容もとても胸に迫るものがあった。

四半世紀前、本物のマイケルジャクソンの
コンサートをシンガポールで観たのだが
あの時の感動が蘇ってきた。

退院してもなお、映画館でやっているなら
もう一度観に行ってもいいとさえ思った。

硬膜下血腫の脳外の手術の時
心に決めたことがある。

これからは
行きたい所には行く
食べたいものは食べる
会いたい人には会う
会いたくない人に会わない

3年も前から、時折、失神したり
立ち眩みになっていた。
もしかして、
その度に、心臓が止まっていたとしたら
よくぞ今まで何ごともなく生きてこられたものだ。

昨日の夜、
9月からの個展の案内状の印刷が出来あがり
宅急便が家に届いた。

案内状の校正の段階で、画廊のオーナーに
「個展のタイトルはどうしますか」と訊かれ
にわかに思い立ち
ー待ちわびた日々ー に決め
原稿に付け加えてもらったのだが、
今となっては、なんだか重たい意味に思える。

来週、覚悟を決めて手術に臨み、
私は止まらない心臓を手に入れて、
個展開催までには完全復活しようと思う。












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