2014年6月16日月曜日

美輪明宏という存在

 
 
 
 
昨日、KAAT神奈川芸術劇場に美輪明宏の『愛の賛歌』を観に行って来た。
 
一度、美輪明宏の生の舞台を観てみたいと思いつつ、
なかなか機会がないままに月日が流れていたが、
そうこうする内にお歳もお歳なので観はぐってはいけないと
数ヶ月前にようやく手配したチケットだった。
 
この公演は東京の舞台が延々と続いていて
神奈川では行ったこともないKAAT劇場でたった2日だか3日だけの公演である。
それでも長い公演期間の最後なので力がこもっているのではという期待も込め
友人とふたり劇場に向かった。
 
初めて訪れたKAAT神奈川芸術劇場は外観より中が大きい建物で
中に入ると4階分のエレベーターを乗り継いで、ようやく劇場入り口にたどり着く。
 
そして、劇場の中に入って、本当にビックリ。
内装すべてが血のような赤と黒との情熱的な色使いといい、
4階席まであるオペラ座のような作りといい、
完全に予想を覆すドラマチックなイメージのステキな劇場だった。
 
私は日本にもこんな劇場があったのかと
おのぼりさんのようにぐるぐる見渡し、4階席の方を見あげてしまった。
 
私たちの予約した席は前から11列目のど真ん中で
こんなに真正面で観やすい席だったとは
とった自分自身でさえ想像しなかったほど、いい席だった。
 
そして、会場のあちらこちらにそのドラマチックな会場に合わせたかのように
衣装のようなドレスや個性の際立つ出で立ちをした人が何人も見受けられた。
私も期せずして白黒の洋服だったので、会場にマッチしていて一安心。
 
舞台の内容は『愛の賛歌』であるから
エディット・ピアフの一生を美輪明宏がシャンソンを数曲交えて演じるというものだが
脇を固める俳優は
妹役のYOUを除いては、まったくといっていいほど無名の役者ばかり。
 
まるでエディット・ピアフが後年、無名の役者や歌手を育てて世に送りだしたのと同じ
美輪明宏お肝入りの共演陣ということなのだろう。
 
それにしても、美輪明宏。
本物を間近に観る前から、ただ者じゃないとは思っていたが
やはり『ばけもの』であった。
 
男にしか出せない地鳴りのような低い声から
男には出せないこびを売る娼婦のような甲高い声まで自在にあやつり
若くてはできない臈長けた表現と
年寄りとは到底思えないど迫力の声量と表現力で
ぐいぐい観客を引き込んでいく。
 
どのカテゴリーにも収まりきらない唯一無二の存在
それが美輪明宏なんだと納得した。
 
血の色をした真っ赤なビロードの緞帳があくと
そこはまごうかたなき美輪明宏の世界。
座ってみている私たちは
いつのまにか三輪の演じるエディットが歌うオペラ座の観客にされて
エディットに向け手拍子をし、拍手を送っている。
 
公演が始まる前には
「咳をするときは他のお客の迷惑になるから、口をハンカチかタオルで押さえるように」と
アナウンスが入り、びっくりしたが
そんなしわぶきひとつ許さない徹底した空間作りがあって初めて
心置きなく夢の世界に旅立てるのだと実感した。
 
とにかく美輪明宏が個人の好みで作ったのかと思わせる赤と黒の劇場と
観客も演者として引っ張り込む演出。
そこをわきまえて劇場に集った、それ相応のいで立ちのおおぜいの観客。
 
不思議の国のお化け屋敷・美輪明宏ワールドは
行ったら最後、引っ張り込まれて、酔ってしまった者勝ちの
魅惑的な非現実空間だった。


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