2015年7月1日水曜日

摺り日和


 
横浜は夕べからずっと雨が降っている。
こういう日こそ、木版画の摺りにはもってこいである。
 
木版画は和紙に水性の絵の具を使用して摺られる。
和紙はもっとも上等なものは100%楮(こうぞ)という植物繊維で作られていて、
粉状のパルプでできている洋紙とちがって、長い繊維質の構造をしている。
(だから和紙は腰が強く、耐久性にもすぐれている)
 
その和紙を前日から刷毛で水を打って湿し、絵の具の吸着をよくした状態で
木版は摺っていく。
 
和紙は湿すと少し伸びる。
(大きな作品だと5~7ミリぐらい大きくなる)
その和紙が
伸びきった状態で重しをかけ、均一に水分を紙に吸わせ、
表面に水気がないしっとりした紙になるまで時間をおき、
その状態をキープしながら作品を仕上げなければならない。
 
だから、私の場合、摺っている間中、アトリエは加湿器で加湿している。
乾燥を呼ぶクーラーと暖房器具は使わない。
暑さと寒さは堪え忍ぶのだ。
 
途中で紙が乾燥してしまうと、和紙の周囲から縮んでしまい、
結局、紙の寸法が縮むことで、ちゃんと摺っても版がズレることになる。
 
というわけで、今日みたいに夕べからずっと雨が降っているなんていう日は
ワクワクするぐらいの摺りに適した日ということになる。
 
月曜日に摺り増しの第1弾として、赤い作品『華』を8枚摺った。
その日は雨は降りそうで降らなかったので、
せめて太陽が出ていない夜中の方がいいと思い、
久しぶりに徹夜をして無事、摺りおおせた。
 
そして、今日、まだ、2日しか経っていないのに、
再び本摺りをするのは体力的に心配な面もあったが、
他の予定と天気予報とを考え合わせると、
ここで第2弾の本摺りを決行するのが一番と判断した。
 
幸い痛めた左腕のしびれはほとんどなく、
気にしなくても作業に支障はなさそうだし、
何より外が雨なのに手をこまねいている場合じゃない。
 
昨日の午後イチに紙を湿し、絵の具を作り、
ワクワクしながらその時を待った。
 
昨日、夕方ぐらいから外気の匂いが雨臭くなってきた。
すぐそこまで雨がきていることがわかる。
本当は今日一日摺りのために空けてあるけれど、待ちきれない。
 
結局、夕飯もそこそこに午後7時から摺り始めてしまった。
ちょっと湿し時間が十分ではなく、多少、表面に水気が残っているが、
絵の具の濃度やばれんの力加減でトラブルにならないよう摺り続けた。
 
このまま摺り進めては明日やることがなくなっちゃうからと、
夜中の2時過ぎに一度はばれんを置き、布団にもぐり込んだが、
1時間ぐらいで目覚めてしまって、もう眠れない。
 
夜明け方、ゆっくり最後の飾り彫りのパートを摺り、
水張りテープでベニヤ板に貼り、8枚の作品が摺り上がった。
 
10時間ぐらい畳に座り込んで作業をしていたので
膝がまずまっすぐにならないし、
腰もギシギシする。
もちろん肩も凝っているけど、「やっぱり私、木版が好き」
 
ダンナが自転車のレースに出るため、北海道に行っていてくれるこの時期、
夜中にモゾモゾ起きだして摺ったり、
変な時間にご飯食べたり、お昼寝したり・・・。
 
きままな版画家稼業ができることは何よりだ。
 
これで摺り増しの『華』と『凛』、それぞれ8枚を摺り終えた。
 
どうだ、いつでもかかってこい!
オリジナルフレームをつけたら、嫁に出すばかり。
千客万来。
お待ち申し上げておりまする。
 

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