2015年7月18日土曜日

二度見の楽しみ 七月歌舞伎夜の部

 
 
 
ひょんなことから七月大歌舞伎夜の部を2回観ることになった。
夕べはその2回目だった。
 
1回目はちょうど雨ばかりの毎日が終わり、まだ、30度には届かない程度だったし、
何といっても前から6番目中央から少し右といういいお席が確保できていたので、
勢い込んでキモノで出かけた。
 
会場もキモノ姿のお客さんが大勢いて、
さながら夏のキモノのファッションショーのようで、そちらの目も楽しめた。
 
しかし、昨日は台風11号の影響で東京もいきなり激しい雨が降ったかと思えば、
ピタリと止んで、でも風が強くて蒸し暑いといったキモノを着るのは
ちょっとためらわれるお天気。
 
しかたなくワンピースを着て出かけたが、案の定
歌舞伎座にキモノ姿は数えるほど。
みんな同じように考えたんだなと思った。
 
さて、今回の席は2階の1番前の中央からかなり右寄り。
自力で電話をかけまくり、夕方ようやくつながった時に取れた最善の席だ。
 
歌舞伎座立て替え後の2階最前列はとても観やすく、
以前のように目の前を手すりがさえぎることもないし、
最前列だから前の列の人の頭が邪魔になることもない。
 
しかも、かなり右寄りなので、
花道も身を乗り出さずとも、見得を切る場所はそのままよく見える。
 
1回目の感激の時は前から6列目だったので、
さすがにオペラグラスで舞台を観るわけにもいかず、
そのまま肉眼で鑑賞してきた(もちろんよ~く見えている)
 
しかし、2階席となるといくら最前列でも
さすがに1階の前から6番目に比べたら、舞台は遠い。
 
そこで、今回はオペラグラスを片手にじっくり役者の表情を追いかけることにした。
 
1回目は筋立てや全体の演出、話の運び方を初めて見たから、
初見の驚きもあったけど、基本、話を一生懸命追いかけている感は否めない。
 
しかし、今回は話の筋も分かっているし、
どこで誰が出てきて何を言うかも大体覚えている訳だから、
もっと的を絞って楽しむことが出来る。
 
贔屓の役者の玉三郞・猿之助・海老蔵の表情や所作、
前回との違いなどに着目して観ることにした。
 
新聞で酷評されていた
海老蔵の「型にはめて表現しすぎて心が伝わらない」件は、
幾分、大げさな見得が抑えられ、
我が子の首を差し出さざるを得なかった父親の心情に
海老蔵自身が感情移入できていた気がする。
 
また、長丁場の『牡丹灯籠』における玉三郞と中車の掛け合いは
寸分たがわずセリフが決まっているが、多少のアドリブもあるようで、
さすが相手の出方に合わせてよどみなくやりとりされていて感心感心。
 
1回目に玉三郞が3度ほどセリフを噛みそうになっていたが、
今回は1回言い換えただけ。
女形の声の出し方で、あの膨大な早口のセリフはとても大変だと思うので、
やっぱり凄いなと感心しきり。
 
それからオペラグラスでじっくり表情を観察したところ、
特に中車がしゃべり倒している時に作る玉三郞の演じるお峯のすねた顔や
怒った顔、甘えた顔など、
自分はしゃべっていない時でも気を抜かないところはさすが。
 
もちろん中車は日々歌舞伎の領域で、
香川照之の役者魂がさく裂している感じで、
ノリに乗って、小悪党で小心者の伴蔵を楽しんで演じている。
 
中車のいとこにあたる猿之助は
7月大歌舞伎の昼の部で6変化の大役をしているから、
夜の部はストーリーテラーの落語家役しか演っていない。
 
しかし、その一見地味で暗い落語家は
三遊亭円朝というモデルがあるせいか、
幽霊話を得意とするちょっと湿った不気味さを身にまとい、
高座に上がって、ちょいと脇の鉄瓶に触れるしぐさ、
湯呑みの蓋を取り、しずくをきり、ひとくちだけお茶を飲むなどの所作が、
いかにも研究されている感じで面白かった。
 
顔立ちと役作りの凝り性なところが中車と猿之助でとてもよく似ているのが、
全く違うフィールドで役者をしていたふたりなのに、血は争えないと思った。
 
1回18000円もの大枚を2度もはたいて同じものを観て、
「なんだ同じか」と損した気分にならないといいがと案じていたが、
それは杞憂だった。
 
観る場所が変われば視点が変わるし、
テーマを見つけて入り込めば、別の楽しみを見つけられる。
 
同じ映画を何度も何度も観る人の気持ちが少し理解できた。
 
歌舞伎は高額なので、今回のような行き違いでもない限り、
今後、同じ舞台を2度観ることはないとは思うが、
なかなかおもしろい体験ができ、よかったよかった。
 
さて、21日の火曜日、今度は昼の部である。
暗い語り部の猿之助は八面六臂の活躍を見せる蜘蛛の役だし、
玉三郞はお歯黒ではすっぱな女将さんから、粋なお富姐さんになる。
 
さてさて、こちらもお楽しみ。
私の7月歌舞伎ウィークはまだまだ続く。

0 件のコメント:

コメントを投稿