先週の土曜日から1週間だけ上映されている
月イチ歌舞伎シネマ『籠釣甁花街酔醒』を観に、東銀座の東劇に行って来た。
いつもはこの月イチ歌舞伎、まばらなお客さんのことも多いのだが、
この演目はやっぱりというかさすがというか
ほぼ満席の大盛況だった。
歌舞伎といっても映画館で行われる歌舞伎なのに、
なぜかキモノ姿の人がとても多い。
私も歌舞伎座に行って観劇するときはなるべくキモノでと思うのだが、
映画館で歌舞伎を観るのにキモノでいこうとは考えたこともなかったが、
さすが銀座というか、この演目だからなのか、凄いとしかいいようがない。
さて、何が凄いのか。
それはもう、今は亡き中村勘三郎の演技だろう。
美しさの極みである玉三郞分する花魁八つ橋の花魁道中を観て、
一目惚れする地方都市に住む大商人・佐野次郎左衛門を勘三郎が演じている。
顔はあばただらけの醜い男ながら、お金の遣いぷりといい、気の遣いようといい、
申し分のない上客で、
八つ橋の元に通い詰め、やがて身請けの話になった時・・・。
歌舞伎の見所は
吉原の花魁といった豪華絢爛で、
現代では見ることも出来ない華やかな世界であったり、
今も昔も変わらない男女の機微や身分・立場の違いによる心理描写など、
役者の表現力の素晴らしさだったりするのだが、
その点、この演目、歌舞伎らしい歌舞伎の代表格といえよう。
最初の見初めのシーンの勘三郎のあっけにとられる表情、
自分の美しさを十分分かっていて、
相手が自分に惚れたことを見下すように微笑む玉三郞の艶然とした顔つき。
舞台だと席によっては遠くでよく見えないこのあたりの表情も
映画だと大アップで捉えているので、本当に楽しめる。
結構、ふたりの顔の表情に頼って、時が止まったような長いシーンが多いので
その度に映画館中がしーんと静まりかえって
見初められたり、別れを切り出されたりの場面に食い入るような
空気が流れた。
あばたを顔中に描いた勘三郎の顔に
歓びの表情、困惑の表情、驚きの表情と絶妙な顔つきが表れる。
平成22年2月に歌舞伎座で興行された作品なので、
もしかしたらのどに癌があったのか、
声が少しかすれている。
しかし、その眉の動き、口の開け具合、何かを悟った様子など、
わずかな動きで演じ分ける巧みさは、もう独壇場である。
勘三郎扮する大商人次郎左衛門の丁稚役で長男勘九郎が出ているのだが、
5年前にして、やっぱりカエルの子はカエルの演技を見せている。
今日観た勘三郎は役者として凄いのは凄いのだが、
もしかしたら、既に病の兆候を感じていて、病との戦いが始まっていたのかもと
思わせる節がある。
人の運命は変えられない。
でも、知ったとしても受け入れるには時間がかかる。
そんな時期だったのではないかと勘ぐりたくなる
鬼気迫る勘三郎・勘九郎の演技であった。
そして、玉三郞はやっぱりこの世のものとは思えないぐらい美しい。
プロフェッショナルな女性であり、役者である。
これが映画とはいえ、同時代に生きて観られた幸せを感じた
『籠釣甁花街酔醒』(かごつるべはなのえいざめ)
これが映画とはいえ、同時代に生きて観られた幸せを感じた
『籠釣甁花街酔醒』(かごつるべはなのえいざめ)
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