急に寒の戻りで真冬の寒さの中、『三月大歌舞伎』夜の部を観にいってきた。
いつもなら着物で出掛けるところだが、一日中、雨との予報に戦意喪失、
桜の柄の着物を諦め、洋服で行くことにした。
今月は若い頃から贔屓にしている「坂東玉三郞」さんと「片岡仁左衛門」さんが
主役なので、外すわけにはいかない。
例によって歌舞伎フレンドが前から2番目ど真ん中の席を用意してくれた。
なんという幸せ!
演目は
『於染久松色読販』(おそめひさまつうきなのよみうり)
『神田祭』
『滝の白糸』
まったく毛色の違う3本で、面白かった。
『於染久松・・・』は鶴屋南北の心中ものを下敷きにして、
7部まであるお話の3部を取りあげ、
煙草屋を営むお六(玉さま」と亭主の鬼門の喜兵衛(仁左衛門)のやさぐれっぷりに
フォーカスした世話物だ。
友人曰く、「中身をはしょっているので、なぜ、二人がゆすりを働くことになったのか、
理由がよく分からないし、怪我を負わされた男が、なぜ、怪我を負ったのかも
その場面は出てこないから、ちょっとリアリティがね・・・」ということだった。
確かに、話の全編の筋書きを分かっている人には分かるのだろうが、
一部を抜き取られると、そういう物足りなさは出るのかもしれない。
まあ、しかし、玉さまと仁左衛門さんのファンとしては、
粋でいなせでシュッとした仁左衛門さんの凄みのある役どころと、
はすっぱな役で啖呵をきりまくる玉さまを観ているだけでうっとりする。
その次の『神田祭』では、その二人が鳶頭と芸者姿になって、
まるで一服の絵のように美しくしっとり踊るので、
その差を楽しめただけで、来た甲斐があったというものだ。
ただ、ちょっと気になるのは、友人とも話していたのだが、
仁左衛門さんの痩せたこと。
何だか踊っていて苦しそうで、
体力的にしんどくなってきているのかもいうことが案じられた。
ここ数年で歌舞伎界の担い手が何人も亡くなっているので、
そんなことにだけはならないよう気をつけて欲しいものだ。
「玉孝コンビ」という名で二人が務める舞台は、はや50年近くになるだろう。
「玉三郞と孝夫(仁左衛門さんの若い時の名前)」の略だが、
当時、もう一方の「海老玉コンビ」という海老蔵(亡くなった団十郎さん)とのペアより
私は断然、「玉孝」贔屓だった。
その息のあった踊りの間合い、視線の合わせ方そらせ方など、
色っぽさと粋な空気感がたまらない。
脇を固めるトンボをきる若者達の威勢の良さと相まって、
江戸の祭りの活気が伝わって来る。
歌舞伎の様式美、ここに極まれりというところ。
同じ空気を吸いながら、目の前でこの舞台を観られてほんとによかった。
最後の演目「滝の白糸」は泉鏡花の名作だが、そもそも新派の作品なので、
これが歌舞伎座にかかっていることにちょっと違和感を覚えた。
玉三郞が演出で大いに関わっているらしいが、役者としては出てこず、
滝の白糸という水芸の役者には中村壱太郎、
その想い人・村瀬欣弥には尾上松也という若手を配している。
しかし、肝心の主役・壱太郎は声が鼻にかかっていて聴き苦しく、
鉄火肌で気っ風のいい役なのだが、語尾の言い回しがくせっぽくて一本調子。
膨大な量のセリフな上に、
最後の場面では、後ろ姿で心情を表さなければいけない難しい役だが、
頑張っているけど、まだまだかなという感じだった。
玉さまが何度となくやってきたこの役を若手に譲って、
次世代を育てようというしているのだと思うが、
いくら壱太郎がいい血筋に生まれていても、
顔形や声質まで上等というわけにはいかないのが辛いところだ。
しかも、場面転換がやたらと多く、何度となく幕が引かれ、
芝居が細切れになったことも、ちょっといただけない感じで、
あれは回り舞台を使ったり、説明っぽい場面をカットするなりして、
お客さんの集中力をとぎらせない工夫が必要だったかもしれない。
(と、すっかり評論家気取り)
とはいえ、前から2番目、ど真ん中の至福の時は
私の心の栄養注入になって、
明日からのエネルギーはたっぷりいただけた。
「よ~し、頑張るぞ~」
って、外は雪!?
どうなってるんだ、春分の日。
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