2021年7月30日金曜日

東京駅に熊を観に行く

 











東京駅のステーションギャラリーに
「藤戸竹喜展」を観に行った。

藤木竹喜なる作家は初めて聴く作家名だった。
友人の義理のお兄さんにあたる人だということで、
招待券が送られてきたのだ。

なんでも北海道の美幌に生まれ、
幼いころから木彫り職人だった父親の下、
生涯、熊やアイヌの人々を彫って、
木彫家として生きた人のようだ。

作家自身は北海道から一度も外に出ることはなく、
阿寒湖畔に移り住んで、
一生を熊彫り職人として終えている。

今回はその代表作80点を
東京のど真ん中、
東京ステーションギャラリーに展示し、
公開するという展覧会だ。

ふだんならわざわざ東京まで
見にいくことはないかもしれないが、
この作家が友人と親戚筋だということに
興味があったので、観に行くことにした。

写真の風貌をみれば分かるとおり、
藤戸竹喜はまるでアイヌだ。

パンフレットにはアイヌとは書かれていないが、
どこかで浅からぬ縁があることは
疑いようもない。

そんなルーツの人物と
友人のお姉さん、もしくはダンナさんのお姉さんは
結婚したのか、
そのあたりはまだ解明されていないが、
私の好奇心を刺激した。

作品はお土産屋さんの熊の彫刻の域を
はるかに超越して、
その迫力と緻密さで迫ってきた。

「熊からすべてを教わった」とタイトルにあるように
土着の人が美術学校など経由せず、
魂の赴くままに木と格闘し、
大木の中に眠る熊を掘り起こしたという印象だ。

私など
東京生まれ東京育ち、
東京の美術大学を卒業し版画を彫っている人間なので、
同じ彫刻刀を握つていても、
作品へのアプローチも表現もまるで違う。

「難しいことはよくわからないけど、
木の中にすでに宿っている熊の形を
掘り起してやるのが私の仕事だ」

そのようなことを
最後のビデオで本人が話していた。

だから、すでに亡くなっているとはいえ、
自分の作品を東京のギャラリーに並べようなどという
気はさらさらなかったに違いない。

東京ステーションギャラリーは
東京駅丸の内北口の有名なドームの一角にある。

数年前に補修工事が完了し新しくよみがえった
昔の東京駅の駅舎のシンボル的存在のドーム。

その脇にあり、
木とレンガを駆使した
少しレトロな造り。

おちついた会場内部には熊や
アイヌの等身大彫像はよく合っているが、
目を転じると、
そこには駅前広場に強い日が差し、
コンクリートに照り返しで白く煙っている。

ここ数日、
東京のコロナの新規感染者数が
爆発的な数字を示し、
医療体制のひっ迫が迫っている。

その悲鳴に似たアナウンスの一方で、
オリンピックの日本選手の活躍が
毎日、各局の放送をにぎわしている。

相反するものがせめぎ合い、
出口を求めて右往左往する。

北海道から一歩も出ることなく、
自分の使命と信じて熊を彫る。

そんな一途な生き方は
都会の右往左往をあざけリ笑っているだろう。

計らずも都会人のひとりとして、
さあ、どんな立ち位置で生きていこうか。

それにしても今日も暑い。
雷鳴さえ遠くにとどろいている。

私に道を教えてくれるのは誰?
熊ではないことだけは確かだ。





















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