今日は朝からそわそわある品物が届くのを
楽しみに待っていた。
それは見ての通りの着物と帯である。
「明石ちぢみ」の夏の着物と
「涼 赤城」の夏の帯
5月の中頃、
思いがけない出会いをして
つい、清水の舞台から飛び降りてしまった。
それは最寄り駅のデパートの
「大新潟展」と銘打たれた催事であった。
新潟の物産が数多く並ぶこの催しは
毎年、同じころに行われていることは
知っていた。
その日は午前中にカウンセリングが入っており、
終わってから帰りがけに
笹団子かへぎそばでも買おうと思って
デパートの7階に立ち寄った。
近づくと、いい匂いを立ち上らせ、
人が大勢集まっていた。
初めて気づいたのだが、
催事場の右壁の列は新潟の工芸品などの
コーナーになっている。
その中の1軒に呉服屋さんも入っていて、
陳列台と壁に涼し気な夏の着物地と帯が
所狭しと並んでいた。
「え、呉服もあったんだ」と
気になる縞柄の1点を手に取り、
しげしげ眺めていたら、
後ろから声がかかった。
「それは私が織ったものです」
「あら、織元さんだったんですか」と訊くと
そこは呉服屋さんではなく
織元さんが直接、品物を出品しているという。
そのせいか、
確かにお値段が呉服屋さんより
だいぶお安いような気がする。
とはいえ、時には3桁になるような
小地谷縮が2桁だというだけだが…。
私が気に入った黒と白の太い縞柄の着物は
正確には「明石ちぢみ」というらしいが、
その声をかけてきた店主さんは
自慢の新作に目を止められて嬉しかったのか、
一生懸命、品物についての解説が始まった。
実直が作務衣を着て眼鏡をかけたような人で、
話はいつのまにか
インドにイカットの勉強に留学していた時に、
同じく新潟出身の女性が、自分より前から
バティックとイカットを勉強しに来ていて、
「それが今の奥さんです」などという
プライベートな話になった。
現在41歳だという。
因みにこのコーナーで1番好きなのは
この帯だと
正面の衣桁にかかっていた帯を指さすと
「それは妻の作品です」という。
もはや妻対夫の戦いか。
若い織と染めのふたりの作家が紡ぎ出した
それぞれの作品は甲乙つけがたいし、
何と言ってもその真面目で誠実そうな彼を
同じ作家業として、
どうしても応援したくなった。
となると、
1番好きな奥様作の帯だけ求めると
奥様の勝ちみたいになる。
それは彼を応援したいと思っている
私の本意ではない。
じゃあ両方に軍配を上げるためには
両方求めるのか、
そうなると一体おいくら万円になるのか。
恐る恐る「2点共いただくと、
少しはお安くなりますか」と訊くと
「もちろん、奥さんに怒られない程度に
お勉強させていただきます」という。
結局、仕立ては奥様が自らなさるというし、
ガード加工もしてくれても、
2点合わせて予想以上にお安くしてくれたので、
笹団子のつもりが
うっかり帯と着物を買ってしまうことになった。
うっかり買うには高すぎるが…。
そして、待つこと約2か月。
遂に仕立てあがった着物と帯が
今夜、こうして手元に届いたのである。
夏の着物はとにかく汗になるので、
洗える着物か、リサイクルと決めていたのに、
なんとあこがれの十日町の織元さんから
本物の絹の夏着物と帯を
おあつらえで手に入れることが出来た。
着物好きにとっての贅沢の極み。
さて、まずは手持ちの帯と
この黒白の大胆な着物をどう合わせれば、
上品かつ私らしく着こなせるか。
また、リバーシブルの帯の方は
ブルーと紫のグラデーションの面と
細い縞柄の面で
いかに違う雰囲気を出すか。
明日、タンスをひっくり返して
コーディネイトするのが
本当に楽しみだ。
若き織物作家のNさんからは
丁寧な手書きのお手紙も添えられていたので、
早速、LINEで返信を送り、
(LINEも交換したんかい!?)
無事に着いたことをお知らせした。
私は新潟十日町の織元さんと
こうして繋がり、
作り手さんの顔のわかる着物と帯に
手を通すことができる喜びを知った。
コーディネイトが決まって、
おでかけの機会がきたら、
今度は着姿を
写真に撮って送ろうかなと思っている。
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