2022年12月11日日曜日

「舟」本摺り

 

























土曜と日曜の2日間で
本摺りを決行した。

12月はそれでなくとも気ぜわしいが、
10月に彫っていた作品の摺りを
来年に持ち越すと
何だかしめしがつかないというか
自分の性格に合わないというか、
とにかく年内に決着したかった。

12月に入ってすぐに試し摺りをとり、
版の調整などして、
何とか本摺りがいけそうなイメージができ、
2日間は体を摺りに空けようと思った。

しかし、何かと用事や仕事が入っていて
丸々2日間の空きは取れず、
土曜日の午後にはカウンセリングが入っていたが、
何とかこの2日間で摺ることにした。

それ以上、遅くなると
年賀状を作ったり、
年末の大掃除その他をやらざるを得ないからだ。

本摺り前日の金曜日には
エアコンクリーニングの業者さんがきて
3台お願いすることになっていたが、
業者さんがいては出かけるわけにもいかない。
これ幸いとこの時間で絵具の調合や
和紙の湿しを行うことにした。

初めて来てもらった業者さんだったが、
和室で背中を丸めて絵具を作っていたら
邪魔してはいけないと思ったらしく、
「今から少し音が出ます」とか
「ちょっと障子を開けますので、
直射日光が一時的に当たりますが大丈夫ですか」
などと気を遣ってくれた。

結局、2時間半で3台のエアコンクリーニングをして、
同じ時間、絵具の調合と和紙の湿しに
時間を要したので、
あてどもなくテレビやスマホを見ながら
作業が終わるのを待つより、
ずっと有意義に時間を使うことができた。

そして、あくる土曜日。
朝から11時まで、
とにかくいけるところまでいく。

雨のシリーズは背景より何より
雨の細い線から摺り出す。

木版画は白っぽい色から摺る
それが鉄則だ。

11時にいったん筆を置き、
メイクをしてご飯を食べて
カウンセリングへ。

土曜日のクライエントさんは
スキーマ療法といって
生育歴まで遡り、
非適応的なスキーマ(価値観)を特定し、
手放すという難しいセッションの1回目。

これから年単位で診なければならない
重症度の高いクライエントさんなので、
神経を使う。

最近、こうした重い悩みを抱えた
クライエントさんが多く、
ちょっとお悩み相談的な軽い感じは
まったくないので、
こちらも真剣に取り組まないと、だ。

ちょっと頭を使って疲れたが、
2時半から午後の摺りをスタート。
あんがい全く違うことをしてきた後だし、
かなり歩いたせいか、
切り替えができ作業ははかどった。

以前なら恐怖の12時間摺りみたいに
自分に負荷をかけることを良しとしていたが、
近年は2日でも3日でも長丁場にして
丁寧確実をモットーとしている。

1日目の土曜日は5時過ぎにおしまいにし、
いつものように夕飯を作るため
キッチンに立った。

その後、BSで「阿修羅のごとく」を
やっていたので、
あまりの懐かしさに4時間も観てしまった。

四姉妹を加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ
風吹ジュンが演じているのだが、
いずれもすごくはまり役で
つい4話とも観てしまい、
なんと0時を少しまわってしまった。

日曜日は6時50分起床。
さあ、気合を入れて
今日中にすべてを終えねば。

この作品の山場、背景の石垣から。
長いこと制作してきたが
石垣を版画で創るのは初めてなので、
どんな風に摺りあがるのか
とても心配だ。

試し摺りで大体の様子はわかっているけど、
本摺りはより慎重に色を重ねていく。

今回は6枚の和紙を湿したので、
全ての工程を12回ずつ行い、
ジグソーパズルのように
少しずつ摺り上げていく。
(6枚の一部分ごとに出来ていく)

1色につき2回ずつ摺らないとビシッと
パートの濃い色に摺れないので
描いた方がよっぽど楽だが仕方ない。

特に背景のように摺る分量が多いと
体力的にもしんどいので、
午前中に1回目の背景の摺りを終え、
摺り重ねる2回目の背景は
午後の作業最終盤にもってくる予定にした。

1回目の背景に3色使い、
淡いグレー、空色、群青のグラデーションにした。
2回目は中間のグレー、アイスブルー+黒、
藍群青+黒をその上に重ねる。

そうすることで、
雨の量が増え、池に拡がる波紋が
浮かび上がるしかけだ。

結局、2日目も夕方4時までかかった。
しかし、それで終わりではない。
その後、水張りといって
ベニヤ板に作品をテープで貼ることで
乾燥後にピンとしわなく仕上げることができる。

ベニヤに2枚ずつ貼ろうと思ったら、
紙の余白の分量が大きすぎ、
少しカットしないと入りきらないことが
わかった。

まだ少し湿気っている摺りたての和紙に
1mのスケールをあて、体重をかけ、
カッターを手前にひいた。

右手にカッターを持ち、左手はスケールを押さえ、
何も考えずにカッターを手前に引いた。
スケールからほんの少し左手の人差し指が出ている
ことには全く気付かなかったのだが、
切れ味鋭くカッターの切っ先が
私の左の人差し指の右側をかすめた。

瞬間、
「あ~、やっちゃった」とは思ったが、
痛さは何も感じず、
傷口からみるみる血が膨れ上がり、
指先からしたたり落ちた。

作品を汚しそうになったので
慌てて左の指を右手で押さえた。

疲れていると痛みも感じなくなるのかと
半ば呆れ、半ば感心しながら、
バンドエイドを取りに重い腰をあげた。

気が付けば、腰がバキバキで
うまく立ち上がれない。
版画の作業は畳の上で、長時間、
正座かペタンコ座りで行うため、
にわかには動けないのだ。

あとからキッチンで水がやけに染みることが
わかった。
あんがい景気よく皮を剥いでしまったのかも。

それでも、6枚の新作が
無事に摺りあがった。
いずれも納得の摺りあがりだ。

今の自分のベストを尽くせた歓びが
ひたひたと湧いてきた。
今夜は初めて買ったシルクビールで乾杯。
クラフトビールの豊かな香りが美味しい。

最後にドジッたけど、
血を見たのが自分でよかった。
これで摺りを最後の最後に失敗でもしたら
泣いても泣ききれないし、
死んでも死にきれない。

そんな風に思ってしまう
版画家の業とはおかしなものなのだ。











































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