2025年9月10日水曜日

亀井聖矢 エリザベート凱旋コンサート

 














9月9日、夜、
桜木町のみなとみらい大ホールに
亀井聖矢君のピアノリサイタルを
聴きに行ってきた。

開演は19時で、開場が18時だったので、
私は桜木町に18時少し前に着く電車で向かい、
そこからゆっくり歩きながらホールへ。

少し陽が暮れるのが早くなっているので、
ちょうど今から暮れなずんでいくところ。
私は桜木町駅から海側に奥へ奥へと進んだが、
みなとみらい地区で働いていた人の帰宅時間で
たくさんの人が駅に向かうのと交差した。

今日のチケットは友人のTさんがとってくれたけど
ピアノ講師をしているTさんは夕方まで仕事なので
落ち合うのは会場の椅子席でということに
なっていた。

なので、私は直前までひとりで
今日のリサイタルの周囲の雰囲気を楽しんだ。
席は1階の後方左寄りなので
全体を見渡せる位置で、
聖矢君の体全体の動きと特に手がよく見える。

亀井聖矢君は今年の5月、
『エリザベート王妃国際コンクール』に出場し
第5位を受賞した。

『エリザベート』はビデオ審査・一次予選・
セミファイナル・ファイナルとあって
最終の順位が決まる。
5位だということは知っていたが
このコンサートのプログラムが
セミファイナルで弾いた曲だとは
この時、会場で初めて知った。

会場に入ってきた聖矢君はまずマイクを手にした。
セミファイナルでは2パターンの
30分間のソロプログラムを用意し、
セミファイナル直前の10日間はすべての外部との
接触を絶った状態で、2パターンと課題曲を練習し
1日前にどちらを本番で弾くか知らされるという。

つまり、本番では弾くことのできなかった曲が
あるということだ。

「そこで、今回は第一部で課題曲と
弾くことができなかった3曲。
第2部では弾くことができた3曲をお届けします」と
生の聖矢君の語りでコンサートは始まった。
(生の声をここまで長く聴くのは初めてだ)

私達は『エリザベート』の結果は知っていたけど
遠く異国の地で
どんな戦いが行われていたのかまでは知らない。

甘いマスクで人気急上昇中の聖矢君が
どれだけの過酷な状況の中
コンクールに臨んだのかを知ることになり、
胸が熱くなる思いだった。

『ショパンコンクール』は
文字通りショパンの曲を演奏するので、
クラシック曲だが、
『エリザベート』は
作曲家が限定されているわけではない。

プログラムは想像以上に現代音楽を交えた構成で
かなり不穏な感じのする難曲ばかり。

そもそもセミファイナルの課題曲は
アナ・ソコロヴィッチ作曲
ピアノのための2つの練習曲
第1曲 霧  第2曲 ダンス

1曲目は「霧」というタイトルなだけあって
主旋律など何もなく、これがメロディかなと思うと
同じ音の連弾が覆いかぶさり、正に霧の中へ。

2曲目は「ダンス」なので、リズミカルにはなるが
要所要所でピアノの鍵盤の底を右手で叩くという
指示があるようで、何度も聖矢君はかかんで
ピアノの裏を叩いている。

こうした曲はどこをどんな風に評価するのか。
コンクールの課題曲だから
セミファイナルに残った数名はすべて弾いている
はずだが、一般人には理解に苦しむ。

第1部の方はこの曲に続いて
コンクールでは弾くことのできなかった3曲。

ラヴェルの「夜のバスパール」
ミュライユの「別離の鐘」
リストの「ラ・カンパネラ」

これらは持っている1枚目のCDにも収められていて
聴いたことのある曲だったが、
それでもただただ心静かに堪能できたのは
「ラ・カンパネラ」だけ。

最初の2曲は解釈が難しい難曲で
決してメロディアスというわけではない。

しかし「ラ・カンパネラ」は誰もが知る名曲で
ピアニストそれぞれの個性が際立つ曲。
聖矢君の「ラ・カンパネラ」も極上の一曲だ。

フジコ・ヘミングの「ラ・カンパネラ」もいいが
聖矢君の「ラ・カンパネラ」は若くて清々しくて
素直な彼の性格そのものだと思った。

きっと歳と共に成熟していくのだろう。

第2部の3曲は実際にコンクールで弾いた3曲。
ベルクの「ピアノ・ソナタ」
細川敏夫の「俳句」
ベッリーニの「ノルマの回想」

今回の選曲はもちろん聖矢君自身が選んでいるが、
前半2曲と後半の「俳句」は鐘の音がモチーフだ。
ピアノで表現するいろいろな鐘の音。

最も前衛的に不協和音を打ち鳴らし
その余韻があった後に、また不協和音…。
そんな不穏で摩訶不思議な曲が「俳句」だった。

まだまだ可愛いとさえ思える25歳の青年が
ひとりホテルの部屋に籠って
この不気味とも思える現代曲に立ち向かう様子を
想像しただけでメンタルは大丈夫かと
心配になった。

最後の「ノルマの回想」は持っているCDにあるので
全編、ハミングできるぐらいだったけど、
CDのピアノの語り口に比べ、
コンクールの時は、数段、力強く戦っているという
弾き様だったに違いないと思った。

第1部第2部を弾き終えた聖矢君は
精魂尽き果てたという感じで
会場の多くの人が立って温かな拍手を贈った。

前回、オーチャード・ホールのコンサートの時は
アンコールも何もなく終わったので、
今回もあれだけ弾けば無理かなと思っていたが、
再び開場に出てきた聖矢君はマイクを手にとった。

「1次予選ではベートーベンや自由曲の他に
エチュードを4曲用意し、練習して、
弾く1時間前に決まるそのうちの2曲を演奏します。
つまり、ここでも実際には弾けなかった曲が
ありますので、アンコールでお聴きください」

「この曲はタイトルが『めまい』といって
本当に主旋律も何もなく、終わるとめまいや
頭痛がするほどで、本当に直前まで練習してたのに
弾くことのなかった曲です」

何とも表現する言葉が見つからない不思議な曲で
3分間の演奏が終わると
聖矢君もめまいで倒れるようなしぐさを見せた。

会場からは笑いが起こったが、
聖矢君のユーモアや優しさと強さに触れ、
「よく頑張ったね」と
母親のような気持ちになった。

2曲目のアンコール曲も難解さは
1曲目の『めまい』と勝るとも劣らず。

最後にあいさつに出てくる聖矢君の顔には
安堵の表情が浮かび、
会場は総立ちになって称えた。

もうこれ以上弾けないよという感じで
聖矢君は後ろ手にピアノの鍵盤のふたを閉めた。

数々のコンクールの挑戦し、
輝かしい賞を総なめにしてきた彼だが
「もうコンクールはこれで終わり」と宣言した。

そこには何年もかけてひとつのコンクールに準備し
燃焼しつくした若者の姿があった。

これからは自分の音楽に真摯に向かい合い、
その美しくて力強いピアノで
世界を魅了していくことだろう。

コンクールの実際を垣間見せてくれて
本当にありがとう!!
本当にお疲れ様でした!!

心を込めてハグを贈ります!!



























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