ペースメーカー植え込み術が
他の手術と一番ちがうところは
通常、手術は身体の中から悪いところを取り出す
のに対して、
割合大きなものを身体に足すというところにある。
その新しい相棒ともいえるペースメーカーを
身体が受け入れ、
拒否反応を起こさず、
正確に作動するのかどうかが
術後の見守りの目的だ。
そのせいで、入院日数がかなり長くなり、
術後丸1週間は経過観察に充てられる。
私の場合、手術後に3連休があり、
そこは医者でさえ3連休をとるご時世で
病院は外来や会計も停止するので
すこぶる静かな3日間だった。
開けて21日の火曜日には
驚くほどの医療スタッフが出勤し、
通常業務が再開した。
担当の執刀医A先生もあさイチに回診してくれ
傷の様子や体調、ペースメーカーの作動状況を
確認してくれた。
そこで、入院中に出来る大きな検査は
してしまいましょうということになり、
退院予定日の1日前に
カテーテル検査を行うことになった。
手術前日にはMRI検査もしている。
どちらも造影剤を投与しながらの検査なので
外来で必要が生じても
入院して受けるような大掛かりな検査だ。
MRIでは心臓そのものの機能や形状
筋肉の厚みや動作に問題がないか調べる。
カテーテルでは心臓を取り巻く冠動脈に
くびれや詰まりがないか調べる。
要は心筋梗塞や狭心症がないかを診る検査だ。
MRIの検査結果では問題なしであることが
分かり、
「まずは良かったですね」とA先生。
「最後にカテーテル検査をして、その際に
もし詰まりやくびれが見つかったら
そのまま治療に移ることもあります。
その場合は、
ステントを入れる手術になります。
カテーテルは月に20件くらいしていますので
安心してください」と
私の不安を見透かしたように言った。
カテーテル検査は局所麻酔をかけ、
それなりに危険も伴う手技なので、
同意書もいるし、
家族が来て見守る人もいる。
それを知らされたのは連休明けだったので、
家族はさほど重く受け止めなかった。
22日水曜日午後の2番手として
私はひとりカテーテル室の手術台に上った。
22日午後2時40分。
病棟の看護師さんに付き添われて
車いすで南病棟を出た。
病棟を抜けると長い渡り廊下がある。
夏の日差しが容赦なく廊下を照り付け
窓の外には大きな青い空と濃い緑が見えた。
その向こうに白い医療棟がある。
ここからは関係者以外立ち入り禁止だ。
医療棟に入ると
カテーテル室、通称カテ室があり、
医療スタッフは全員レントゲン照射に耐えうる
ガウンを装着し、その上に手術着を着ている。
医師たちは医療用メガネもかけている。
カテ室は20畳ほどもある大きな部屋で
まるで医療ドラマに出てくるような
最新鋭の医療機器が揃っていた。
その真ん中に青いシートにくるまれた
手術台がある。
カテ室に入ると
朝、回診に来た時に拳を合わせて
「頑張りましょう」と言ってくれたA医師が
中央に立っていて
「ハギワラさん、宜しくお願いします」と
朗々とした声で言って、一礼した。
とても凛とした立ち姿だった。
周囲にいた7~8名のスタッフも一礼したので
「宜しくお願いします」と私も一礼した。
そこからは速やかに手術台に乗せられ
右手を固定され、胸にシートがかけられた。
カテーテル検査は部分麻酔をかけ
手首の動脈から針を刺し
造影剤を冠動脈に行き渡らせて行われる。
針はちょうどジュースのパックについている
ストローほどの太さがあり、
麻酔がかかっていないと耐えられないし
大量出血の可能性もある。
「しっかり麻酔を効かせてくださいね」
「分かりました。1本多く打っておきますね」
この頃にはペースメーカー埋め込みの時より
A先生とは仲良くなっていたので
軽口を叩きながら進めることができた。
手術の機材には何本ものアームがあり
ひとつは私の胸すれすれの位置に迫り
体内の様子を撮っている。
手術台の向こうには大きな画面があり、
いくつもの角度から撮った
心臓や血管のLIVE映像が映し出されている。
テレビの医療ドラマや報道番組に
よく出てくるやつだ。
A先生ともうひとりの医師がその映像を見ながら
ふたりで意見交換し
さまざまな角度からもれなく
血流の様子や血管の状態を観ている。
「狭窄なし」というA先生の声が手術室に響き、
安堵の空気が室内に流れた。
A先生の声は別人かと思うほど
自信に満ち溢れていた。
病棟に戻ってしばらくして
A先生が病室に来てくれた。
手には4枚の画像写真。
「これがハギワラさんの冠動脈です」と
朱いペンで3本の冠動脈の幹の部分をなぞり、
説明してくれた。
私がこういうものに興味があるタイプと知って
お土産に撮ってくれたものだ。
自分の体の臓器なんて
普通、人は一生見ることはない。
あのカテ室の大きな画面に写し出された
脈打つ心臓や血の流れる血管は
何よりここに今、私は生きていると思えた。
それを切り取り画像にしたものが
ここにある。
ペースメーカーを埋め込んで今日で12日。
私のペースメーカーはドイツ製。
正式には「BIOTRONIK」社のペースメーカーだ。
これで今はママチャリから電動アシスト自転車に
乗り換えた気分。
ドイツ製なので
ベンツ社の電動アシストエンジン搭載と
いうことにしておこう。
これがこの先ずっと一緒の私のバディだ。
ドイツ製なのでニックネームは
『ミヒャエル』
ペースメーカー埋設を宣告されたあの日、
午後、私は映画「マイケル」を予約していた。
こんな時に映画なんて観ている場合じゃないと
思ったけど
入院手術の決意を決めてなお
時間には間に合ったので「マイケル」を観た。
マイケルの
類まれなる才能と神がかった存在感は
圧倒的で感動した。
とてもいい映画だった。
「マイケル」は
ドイツ語発音だと「ミヒャエル」
私の相棒にふさわしいニックネームだと思う。
「ミヒャエル」
死ぬまで宜しくね!!





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