今日は銀座の画廊に個展の広報用資料を届けるついでに
東劇でシネマ歌舞伎を鑑賞してきた。
シネマ歌舞伎とは歌舞伎の公演を映像に撮って映画に仕立てたもの。
歌舞伎を生で観ようと思ったら、S席は18000円もするが
2100円で全編+舞台裏の役者の様子なども見られてお得である。
今回は『二人藤娘』と『日本振袖始』という舞踏歌舞伎の2本立て。
主役はいずれも板東玉三郞だ。
玉三郞はご存じ人間国宝になってしまった日本の宝物的女形だが、
ここ数年の相次ぐ歌舞伎界の不幸のせいか、
本来なら一人で踊る藤娘や道成寺を若手の女形と共に踊るというスタイルで
公演することが多くなっている。
聞けば、玉三郞としては
若手を本当はもっと稽古場で稽古をしてから舞台に上げたいところだけど、
若手を本当はもっと稽古場で稽古をしてから舞台に上げたいところだけど、
その時間がないから、一緒に出ることで実地で稽古をつけようということらしい。
一昨年観た『二人京鹿の子娘道成寺』は菊之助と一緒だったし、
昨年は『二人藤娘』を七之助と踊り、それが今回、映像化されたというわけだ。
七之助は以前狐憑きみたいな顔で好きになれなかったが、
今は少しふっくらして、背丈もあるので、玉三郞と並んでもバランスよく、
美しい二人藤娘だった。
しかし、それより何より、もうひとつの『日本振袖始』という踊りが圧巻であった。
題名の意味がよく分からないので、何の期待もしていなかったのだが、
古事記に記された出雲のやまたのおろち伝説をベースに
近松門左衛門が書き上げた演目だそうで・・・。
玉三郞扮する岩長姫が恋の恨みから大蛇に変貌し、
生け贄として捧げられた稲田姫を救うため、
大蛇退治にやってきたすさのうの尊と戦うというお話。
稲田姫は今注目の若手女形米吉で、すさのうの尊は勘九郎。
その演目の何が凄いといって、玉三郞の大蛇への変貌ぶりが本当に凄い。
今までにも玉三郞が幽霊になったとか、狂女になったとかは観たことがある。
しかし、あんなに凄みのある恐い形相の大蛇になった顔は見たことがない。
映像では舞台裏で姫のメイクから大蛇のメイクに自分で変えていくところも
映し出されている。
しかも、やまたのおろちは八つの頭がある蛇なので
他に同じ衣装で同じ大蛇メイクの演者がもう7人出てくる。
その華やかさとおどろおどろしさといったら、これぞ正に歌舞伎。
エンターテイメントの極みといった感じだ。
その8人の大蛇が金と黒のウロコ模様の衣装に身を包み、
すさのうの尊相手に大立ち回り。
とてもこれが玉三郞が演っているとは思えない大男の大蛇の体だが、
勘九郎より背が高いので迫力十分、意外な一面に脱帽だった。
玉三郞の追っかけ歴約45年、
つまり、玉三郞が舞台に立つようになって以来のファンとしては、
「この世のものとも思えない」と三島由紀夫に言わしめた美貌は美貌として、
今はとにかく若手に藝を継承しようという使命に燃えているといっていいだろう。
そのためには大蛇だろうが、狂女だろうがやるし、
若手を伴って舞台で一緒に踊って、身をもって示しもする。
日本の伝統芸能の行く末を本気で心配し、牽引するその姿に
単なる美しい女形をはるかに越えた歌舞伎役者の魂を見た思いがする。
それにして、東劇という古い古い映画館のたたずまいはどうだ。
何十年ぶりかに入ったが、想像以上にゆったりとした座席と大きな会場に
たぶん10人ぐらいの観客。
それでひとり2100円では元をとるどころの話ではない。
ここでも「若い人をどう呼び込むか」というのが大テーマなことは間違いない。
昨日、成人式だというのに
花魁スタイルに派手に着付けをした女性達がニュースになっていたが、
いやはや日本の文化継承問題は、思いっ切り、岐路に立っている気がする。
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