あと数日で、東日本大震災から丸5年という月日が経つ。
その日が近づいた頃にだけ、思い出す我が身を反省しつつ、
自分にできるほんの少しのことというつもりで、
時折、ヒラルディージョという団体が主催するチャリティコンサートに足を運んでいる。
この団体は元はフラメンコキャラバンという名称で、
フラメンコの力で現地の方達を元気づけようというところから始まっている。
だから、コンサートもフラメンコやタンゴ、ジャズなど比較的カジュアルなものが多く、
生の演奏を2000円で楽しめて、
更に収益金の一部が復興支援に当てられるということで、
月1~2度の割りで聴きに行っている。
演奏が行われるコンサートホールは、
横浜市の行政区がそれぞれ持っている300名規模のホールで、
神奈川区なら「かなっくホール」だし、
栄区なら「リリスホール」だし、
港南区なら「ひまわりの郷ホール」という具合だ。
今日は地元港南区のひまわりの郷ホール。
演目は「クラシック・タンゴ&フラメンコ チャリティコンサート」という題名が示すように
通常、同じ舞台で演奏することはなかなかないと思われる
畑違いの人ばかり4名。
クラシックギターの建孝三。
フラメンコギターの宮川明。
バンドネオンの小川紀美代。
ヴァイオリンの上原千陽子。
クラシックギターの人を除けば、この復興支援コンサートのいずれかで演奏を
聴いたことのある面々だが、
そこがジョイントするという内容ではなかったので、楽しみに出掛けた。
このヒラルディージョのコンサートは超有名人がでるわけではないので、
席は自由。
開演の30分前に開場になるので、好きな席に陣取ることになる。
私はいつもライブ感を楽しみにしているので、
前から2列目中央あたりを目指して、開場時間ぐらいに到着することが多い。
今日も幸い狙っていた席はまだ空席だったので、
通路に接している端の席のおじさんひとりをまたいで中央寄りに陣取った。
会場は案外にぎわっていて、8~9割は埋まったかなと思った開演3分前、
2本の杖をついた大柄な女性とお付きのおばさんという感じの小柄な女性が
ずんずん階段を下りてきた。
「あら、まだこんないい席が空いてるわよ。ここにしましょ」といって、
端のおじさんを一旦立たせて、ごそごそと私の隣にやってきた。
本人も嵩高いが荷物も多く、、その上、杖も2本ある。
私は思わず左にひと席除け、中央横並び8列の内の左から4番目に移った。
まもなく、トップバッターのコラシックギターのソロが始まった
3曲ソロで弾いたが、クラシックギターなので生音が小さく、曲も割と難解だ。
そして、まもなく恐れていたことが起こった。
隣(正確にはひと席あけて隣)の小柄な方のおばさんの鼻息が荒い。
吸うときも吐くときもスースー大きな音がする。
前列の人が振り返って見るぐらいだ。
前列の人が振り返って見るぐらいだ。
クラシックギターによるヴェルディの「リゴレット」による幻想曲の合いの手に
全部その鼻息が入り込んでくる。
『もしも~し、おばちゃーん、その鼻息、何とかして!』
これみよがしに横をチラ見するが、一向に気づく気配はない。
気づいたところで鼻息がどうにかなるということでもないのだが・・・。
気づいたところで鼻息がどうにかなるということでもないのだが・・・。
しかも、クラシックなので、退屈したのか、入り口でもらった10枚ほどのチラシを
暗くて読めないはずなのに、カシャカシャめくっている。
『ふざけんな!息止めろ!チラシいじるな!』
1部の演奏はクラシックギターのソロ3曲、
クラシックギターとフラメンコギターとのジョイント1曲、
フラメンコギターのソロ3曲、
フラメンコギターとバンドネオンとのジョイント2曲という構成。
おばさんはクラシックギターよりフラメンコギターの方が気に入ったらしく、
フラメンコギターの曲が終わると
「あら~、じょうず!」と拍手に混じって叫んでいる。
『いいから、お黙り!』と心の中で叫ぶも、届かない。
このあたりから、けったいさは増すばかり。
ここで休憩が10分入り、
2部はバンドネオンのソロ1曲、
バンドネオンとヴァイオリンのジョイント5曲、
最後の3曲は4人全員で演奏するという贅沢な構成だ。
休憩時間、聴くともなくふたりの会話を聴いていると
「バンドネオンって何?アコーデオンとは違うの?」などと話している。
ちょっと嫌な予感がする。
そして、2部。
先ず、バンドネオンの女性奏者がバンドネオンを抱いて、ひとり舞台に入ってきた。
彼女が今日の出演者の中で一番フレンドリィな印象だ。
一部の堅苦しい感じを払拭するように、マイクを手に取り、
「こんにちは。今日はお越しいただき、ありがとうございます」と言ったその時、
遂に隣のおばちゃんが大胆な行動に出た。
「あの、バンドネオンて、アコーデオンとどこが違うの?」と
舞台に向かって声をかけた。
舞台に向かって声をかけた。
いきなり話しかけられた舞台の上の小川紀美代さんが
ちょっとひきつった笑顔で、こう答えた。
「アコーデオンは肩にかけるベルトがあって、それを持って、立って弾きますでしょ。
でも、バンドネオンは7㌔ぐらいあるんですけど、
両脇に70数個のボタンがついていて、
両脇に70数個のボタンがついていて、
座って膝の上でこうやって伸ばしたり縮めたりして弾くんですよ」
「珍しい楽器だから、日本人で弾いている人はいないんでしょ?」
「そんなことないですけど、重いので女性はとても少ないですね」
その時、間髪を入れず、おばちゃんの前の1列目のおばあさんがこう言った。
「珍しい楽器なのに、譜面台があると見えないのよね」と。
小川紀美代のひきつり笑いも、観念したようであきらめの微笑みに変わっていた。
もはやこれは老人ホームの慰問団なのかと錯覚する。
譜面台を横に避けると、あんたには見えるかもしれないが、別の人が見えなくなる。
な~んてことは、一向に意に介さない。
まあ、お陰様でちょっと硬かった1部の空気は、急に打ち解け、
2部は最後までなごやか、かつ、ノリノリの演奏が続いた。
今頃、異業種格闘技を無事終えた面々は、
楽屋で今日のハプニングについて笑いながら話しているだろう。
帰りがけ、ヒラルディージョの復興支援の募金箱に千円札を入れた。
「ちょっと、変なおばさんがいて、ごめんね」という気持ちもあったと思う。
これがヨリによって地元上大岡のホールだったことも、可笑しさを倍増させている。
これがヨリによって地元上大岡のホールだったことも、可笑しさを倍増させている。
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