2017年5月23日火曜日

菊五郎の真骨頂 『魚屋宗五郎』

 
 
 
 
5月3日から行われている団菊祭を観に、歌舞伎座まで行ってきた。
いつもの歌舞伎フレンドと一緒だ。
 
今日は珍しくふたりともお洋服。
急に夏みたいに暑くなったのと、友人が最近、お引っ越ししたため、
まだ、キモノモードになっていないからというのが理由。
 
私はスペインで調達したワンピースを着用したのだが、
なぜか、友人と似たテイストの恰好に・・・。
 
以前、よくご一緒したおばあさまは最近めっきり外に出るのが億劫になってしまわれ、
その上、おばあさまを介して歌舞伎のチケットを入手してもらっていたのだが、
そのとある役者さんの番頭さんが、最近、
脳梗塞で倒れられたとかで、チケット入手の道も断たれてしまった。
 
人生、それぞれ齢を重ね、
いつまでも元気というわけにはいかないと実感。
 
つい先日の陶芸工房のおじさんの話と相まって、
ちょっとしみじみしてしまう。
 
一方で、長女の出産はもう間もなくだから、
生まれる命もあるということで、仕方ないのかもしれないが・・・。
 
さて、今月の歌舞伎座は5月の団菊祭。
 
板東楽膳さん・彦三郎さん・亀蔵さんの襲名興行として
『梶原平三誉石切』
 
他に義経千本桜の内の『吉野山』
『魚屋宗五郎』の三本。
 
一番楽しみにしていたのは、菊五郎の十八番『魚屋宗五郎』だ。
 
一緒に行った歌舞伎通の友人曰く、
菊五郎が得意とする演目の中でも「宗五郎」は一番のはまり役で、
菊五郎一座のチームワークとフットワークの良さがなければ成立しない演目で、
あ・うんの呼吸で練り上げられた芸は数ある世話物の中でもピカ一とのこと。
 
お話は魚屋の宗五郎の妹お蔦が濡れ衣を着せられ殺されたと知り、
妹思いの宗五郎が酒の力を借りて旗本の屋敷に乗り込み
悪態の限りをつくして悔しい胸の内を訴えるというもの。
 
江戸時代の庶民の生活の様子なので、歌舞伎ならではの豪華絢爛な衣装も
美しい家屋敷や風景などの大道具もない。
 
しかも、妹を不義の罪で手討ちにされたと知った悲しみの場面なので、
弔問に訪れた人も迎えた宗五郎夫婦もトーンは暗い。
 
そこへ今回の話題の新人、初お目見得の寺嶋眞秀君が酒屋の丁稚姿で
酒樽を持って花道から歩いてくる。
弱冠4歳ながら、さすが寺島しのぶの息子だからか、しっかり大きな声で
セリフ回しも流暢に、きれいなお女中さんからだと言ってお酒を届けにくる。
 
そのお酒の送り主おなぎが弔問に来て、
妹お蔦は不義の罪ではなく、実は濡れ衣を着せられたと知った宗五郎が、
悔しさのあまり、禁酒を破って酒を飲み、酔った勢いで屋敷に乗り込むのだが、
そこまでのやりとりや酒のあおる様がおもしろおかしく描かれる。
 
豪放磊落な江戸っ子気質の宗五郎の性格と菊五郎本人の性格がかなり似ているせいか、
役作りというより、地でやっているという感じ。
 
舞台上にはいないので、客席からは見えないのだが、
宗五郎が酒を飲む度、三味線の効果音が入り、ぐびぐび飲み干す様に、
観ている私達も「おいおい、その辺で辞めとかないと・・・」と心配になる。
 
酔っ払いが旗本の屋敷に転がり込んできたら、
即刻、切られてもおかしくない時代だが、
左團次演じる家老の浦戸十左衛門の計らいで、ことは丸く収まる。
 
女房おはま役の時蔵は相変わらず芸達者なので、
菊五郎との絶妙なやりとりで楽しませてくれる。
 
今回は2階席の1番前中央寄りという席だったので、
いつもの前から2列目のかぶりつきで観る歌舞伎とは違って全体像を堪能出来た。
 
ただし、さすがに顔の表情の細かいところまでは見えないので、
オペラグラスも持ってくればよかったとちょっと後悔した。
 
自分ではチケットを取るため何時間も電話をかけまくるという労を執っていないので、
文句の言える立場ではないのだが、
全体も観たいし、顔の表情も観たいと思うのが正直なところ。
 
でもって、何より、
本日の収穫は、人間国宝・尾上菊五郎の真骨頂に触れられたことであろう。

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