2017年7月26日水曜日

脱皮した海老さま

 
 
 
 
思いがけず、仕事で行けなくなってしまった友人から連絡を受け、
急遽、7月大歌舞伎の昼の部に行ってきた。
 
ここのところ歌舞伎にご一緒していた友人なので、
チケットは「蛇の道は蛇チケット」。
つまり、とあるルートを使って取った前から2列目のど真ん中21番という席だ。
 
6月7月は娘の出産後の里帰りで、孫に翻弄されると覚悟していたのに、
先週末、娘達が自宅に帰ったことで、体が空き、突然、行けることになった。
 
これで、ベイビーロスを癒そうと、私は心ウキウキ出掛けた。
 
7月の歌舞伎座は知ってのとおり、直前に麻央さんが亡くなってしまったため、
初日からニュースで大きく取りあげられていた。
 
海老さまこと、市川海老蔵が昼の部は連獅子、
夜の部は息子の勧玄君と宙乗りするとあって、
ファンはひと目親子の宙乗りを見ようと会場に詰めかけた。
 
私もニュースを見ながら、これ以上悲しい舞台姿はないだろうと、
その場にいられる人を不謹慎ながら羨ましく思ってみていた。
 
友人の持っていたチケットは昼の部なので、宙乗りはないが、
巳之助さんとの連獅子に期待がかかる。
何年か前に奈良の藥師寺の奉納歌舞伎で見た海老さまの鏡獅子の時と
どんな風に変わっているか・・・。
 
昼の演目は『矢の根』『加賀鳶』『連獅子』の3題で、
『矢の根』と『連獅子』はお正月でもいいような華やかな演目。
 
衣装もかつらも身につけているものすべてが豪華絢爛で、
内容も勇壮だし、豪快だし、歌舞伎らしい演目だ。
 
しかし、その2題より何より、世話物の『加賀鳶』という世話物の海老さまが
出色の出来。
 
海老さまは俺さまキャラなので、何をやっても謙虚さがなく、
渋い演技も嘘臭いと思っていたのだが、
今回の小悪党道玄は力が抜けて、道玄のいやらしさとかずるさを
白目の見せ方やわざとしている活舌の悪さでうまく表現。
 
何か1枚皮がむけたというか、真の悲しみを経験して、人間が大きくなったというか。
 
今までの海老さまとはちょっと違うと感じた人は多いのではないだろうか。
 
一方、父親の板東三津五郎亡き後、家元を継いだ板東巳之助の方は、
一生懸命なのは分かるが、抜けがないというか、溜がないというか、
硬くてストレートの剛速球という印象。
 
友人曰くの「ぶんぶん丸」だけど、一生懸命さだけはぶんぶん伝わってきた。
 
友人は三津五郎門下で踊りをしていたので、巳之助の行く末が心配なんだと
思うが、まだ若いから、これから経験をたくさん積んでよくなるだろう。
 
今日はひとり2列目のど真ん中21番の席で観劇だったが、
周囲のメンバーが濃かった。
 
1列21番、私の真ん前は最前列で「よっ」とか「いよーっ」とか
声をかけ続ける70ぐらいの女性だった。
 
大体、歌舞伎のかけ声は3階席の大向こうと呼ばれるところから、
「成駒屋!」とか「澤瀉屋!」とか男の人の声でかかるのが普通なので、ビックリ。
 
3列21番、私の真後ろの席は太った50ぐらいの女性だったが、
この人は決めポーズにさしかかるや否や拍手する人で、
とにかく会場で1番に拍手することに命をかけている感じ。
 
背後で首筋のあたりに拍手の圧がかかり、音と風が来たので、ビックリ。
 
左横、2列19番と20番は80近い老夫婦で、歌舞伎は何度も夫婦で観ている様子。
ただし、ダンナさんの方は歌舞伎にとても詳しく、しっかりしているが、
奥さんの方は少し認知症の気配。
 
幕間の話声によると・・・
妻「加賀鳶なんて知らないねえ」、夫「去年、観てるよ。観てないのは矢の根だけだよ」
妻「ん?加賀鳶なんて観たことないよね」、夫「・・・」
 
妻「あらら、暗闇の立ち回りは大変だ~」、夫「それがお決まりなの」
妻「あら、これは暗闇っていうことなの?」、夫「・・・」
 
妻「私、トイレに行っておいた方がいいかしら」、夫「そんなこと自分で決めなさいよ」
妻「やっぱりトイレは行った方がいいかしらね」、夫「さっさと行きなさいよ」
と、こんな感じ。
 
キャラの濃いメンバーに囲まれ、
ひとり「海老さま、よくなったわぁ」「巳之助、頑張ってるわぁ」とひとりごちながら、
大好きな歌舞伎の世界に戻って、浸れる幸せな時間を過ごしてきた。
 
 

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