先週の木曜日にフォトグラファーのH氏に撮影してもらった作品データが、
超特急で現像・トリミングなどを終え、手元に届いた。
これで、自分が考えた本の装丁アイデアスケッチと合わせてギャラリーに提出し、
そこからはギャラリー側のデザイナーさんと印刷屋さんとで、
本の表紙へと作り上げてくれる段取りだ。
この『文学と版画』展は銀座のギャラリー志門で2年前から始まった企画展で、
昨年から私もそのメンバーに加えてもらっている。
初回にも声はかけてもらったが、展覧会の会期間際だったので、
本の選定や作品制作が間に合わないと判断し、やむなくお断りした。
その時から、面白い企画だ思っていたので、
以来、次の装丁はどの本を使おうかとひそかに考えながら本を読んでいる。
実は以前にも紹介した恩田陸の『蜜蜂と遠雷』が気に入って、
是非、ブックカバーを作ってみたいと思ったのだが、
そう思ったのが5月では、実現にはちと時間が足りず、
6月に娘が出産へと突入したため、版木の途中まで掘り進めたところで頓挫した。
結果、来年の装丁の出し物はもう決まったことになり、
気が楽になったといえば、そうかもしれない。
今回の小池真理子の『沈黙のひと』は
実の父親がパーキンソン病にかかって、手足の自由や言葉を失っていく様を
作家の目で間近で見ながら、
父親の男性として人としての人生を想像するといった内容の私小説だ。
『沈黙のひと』というタイトルの本に対して、
私が使った作品は『ふたり静かに』である。
この本の装丁に使うためだけに作ったわけではないが、
もちろん本の装丁にした時の文字の配置などは意識して作られている。
横位置の作品を真ん中で切って、
本の表の表紙と裏の表紙に分割して使用するデザインだ。
本の中で父親と女性の『ふたり』は病気の性質上、
なかなか気軽には遭えない状況になり、
『ひとりひとり』にならざるを得ない。
そこに流れる想いが、作家の目を通して描かれているので、
作品を切り離して、咲いている時計草が離れ離れになるよう使ってみたのだが、
そんなことは装丁デザイナーとしてのお遊びだから、
ぱっと見には分からなくてもいい。
本の装丁を考える面白みはこういうところにあると感じている。
本当なら6月末が提出期限だったので、
明日、自ら銀座に出向き、
ギャラリーオーナーにあいさつ方々手差しで届けようと思っている。
人にゆだね、自分の作品が1冊の本の表紙になるのを見るのは
とても楽しみだ。
現実には書店に並ぶわけではないけど・・・。
他の作家たちがどんな本を選ぶのかも気になるところだが、
まずはいい感じに出来上がってくることを心待ちにしたい。
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