6月11日に退院した娘が孫を連れて実家に里帰りしてからは、
私のアトリエである和室は乳児室として乗っ取られていた。
その間、版画を彫ることも摺ることも、
スケッチブックを広げてアイデアを練ることさえ出来ずにいる。
我が家に和室はひとつしかないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、
20日も親子の布団が広がった状況が続いて、仕事ができなかったことは無いので、
ちょっと版画をしたい禁断症状が出てきている。
ただ単にそろそろ彫りたいなと思うだけでなく、
秋に予定されているいくつかの展覧会に提出する作品データも
撮らないと支障をきたす時期になった。
そこで、新生児には申し訳ないが、一時2階の次女の部屋に避難してもらって、
フォトグラファーのH氏に来てもらって、作品の写真撮影をすることにした。
午後1時の約束に向け、部屋中に広がった布団や衣類や
おむつ関連やミルク関連のアイテムをせっせせっせと2階へ運んだ。
何もなくなった和室は思いの外広く、清々した。
そこへH氏の持ち込んだ各種機材が所狭しと配置され、
この1年間に制作した大小合わせて6点の作品の撮影が行われた。
先程までの乳児室はあっという間にスタジオと化し、
手際のよいプロの技で、
的確かつスピーディに仕事が進められ、
部屋そのものの空気が新生児のいるゆるゆるとしたものから
ピリリとしたものに変わった。
自分のアトリエがいつもとは違う用途に使われることで、
こんなにも雰囲気が変わるんだと驚き、
新鮮な気持ちになった。
何十年と版画家として、家事や育児と両立させながら、制作してきたけど、
新生児はそれを許してはくれない頻度で母親を欲して泣いている。
自分もそんな風にふたりの娘を育てた日があったのだが、
そんなことはとっくに忘れているので、
子どもを産んだばかりの母親の様子を目の当たりにして、
人が人を育てる大変さを追体験しているところだ。
今日のスタジオ仕様は午後の2時間で終わってしまって、
何とか提出しなければならないデータも無事間に合いそうだ。
ここからはまた、もう少ししばらく、姫様のご意向に沿うよう、
乳児室の番をすることになるだろう。
人生にこんな体験もそう何回もあることではないので、
せいぜい娘の力になりつつ、
姫から何かインスパイアーされるイメージで、次作を創ろうと目論んでいる。
と書いている側から、
「ママ~、沐浴手伝って~」の声。
姫のまったり顔に癒されに、
いざ出動!
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