2018年2月13日火曜日

近松心中物語

 
初台にある新国立劇場で上演されている『近松心中物語』を観てきた。
 
初台の駅に降り立ったのは40数年ぶり。
なので、今年20周年を迎えた新国立劇場に入ったのは初めてということになる。
 
新国立劇場の外観はとても立派な箱物で、
アプローチも今まで上演された劇中で使用された衣装が展示されていたりして、
なかなかいい感じだった。
 
会場内はさすがに20年ものという雰囲気で、椅子などに年代を感じるが、
傾斜はかなりついていて、観やすい劇場という印象だった。
 
友人と私の席は1階7列40番と41番だったので、
朝日の先行予約で買ったのに、なんで端の席なのかと憤りを感じていたのだが、
行ってみると前から3番目のど真ん中の席であった。
 
何と、最前列は5列から始まっており、
一番左の席は25番から始まっているので、
40番と41番はど真ん中ということになるらしい。
 
思わぬかぶりつき席にビックリしたが、
いつも歌舞伎座の2列目ど真ん中の席をとってもらっている同行の友人には、
いい席だったので、チケットをとった者としては、ほっと一安心だ。
 
さて、「心中物」といえば、
私にとって一番印象的なのは篠田正浩監督の『心中天網島』だ。
 
まだ高校生ぐらいだったと思うが、その斬新な手法・演出・映像美は鮮烈で、
岩下志麻と、今思えば吉右衛門演ずる道行は、脳裏に焼き付いている。
 
浄瑠璃や歌舞伎の演目として確立しているものを
当時、映画として撮るにあたり、
書き割りのような書による文字の書かれた板を駆使したセットや、
登場する黒子などが、モノトーンの美しい映像を作り上げていた。
 
今回の『近松心中物語』は蜷川幸雄の演出で有名になり、
何度も俳優を変え、上演されてきたらしい。
 
残念なことに私は蜷川幸雄演出の舞台は観ていないのだが、
彼が「いのうえひでのりの演出で近松が観てみたい」と言い残し、
今回、そのいのうえひでのり氏の演出で実現した舞台ということだ。
 
主役の忠兵衛に堤真一、梅川に宮沢りえ、
もうひと組は与兵衛に池田成志、お亀に小池栄子。
 
近松門左衛門作、元禄の世の浄瑠璃や歌舞伎で有名な言わば古典の演目を、
現代劇としてどう表現するのか、
見どころはやはりその演出方法にあるといっていいのだろう。
 
先ず、幕が上がり、目を引いたのが、
格子をうまく用いた簡易なセットに無数に取り付けられた赤い風車。
 
暗い舞台いっぱいに緋色の風車が浮かび上がり、風に回っている。
 
元禄の花街の色香と、
花街で春をひさいで暮らしている女達の儚さを象徴するようだ。
 
物語はふとしたきっかけで花街に入り込んだ忠兵衛が、遊女梅川を見初め、
恋仲になり、やがて、抜き差しならない状況に陥り、
最後は心中することになるのだが、
いのうえひでのり演出では、案外、おもしろおかしく、テンポ良くお話は進むので、
狙っているのは現代歌舞伎というか平成歌舞伎というか・・・。
 
そのあたりを助けていたのが、市川猿弥の役どころで、
うまい役者が脇を固めると、舞台の格が上がるなと感じさせる名演技だった。
 
歌舞伎と違って、舞台装置や衣装などにお金をかけるわけにはいかない分、
斬新な場面転換や、鮮烈な色彩効果などを駆使して、
なかなか楽しい演出、美しい舞台だった。
 
それにしても、現代は女性の身受けのために大金をつむとか、
好いたお人と添えないならば心中するしかないとか、
「ないない、ないわ~」と思いながら、
休憩時間に差し入れのガトーショコラをふたりでほおばったのであった。
 

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