1月の一大イベント初釜が、一昨日、無事に終わったので、
いよいよ気持ちを切り替え、
版画の摺りに取りかかることにした。
1月から3月にかけて、既に彫り上がっている2点の大きな作品の
試摺り・本摺りをしなければならない。
その作品は絵の部分が82㎝×82㎝、
紙の大きさで言えば92㎝×92㎝になる。
つまり、通常の手漉き和紙の大きさ90㎝×67㎝を超えてしまっているので、
特別の和紙を買いにいかなければならない。
ロール状になっていて短い辺が100㎝ある厚手の楮100%の和紙を、
92㎝ごとにカットして必要な枚数だけ売ってもらえるのは、
東京の文京区千石にある『紙舗直』という紙の専門店しか私は知らない。
我が家からはだいぶ遠いが、
このサイズの作品を創ってしまったときは
ここまで紙を買いにいく。
何年かぶりに行った紙舗直は外観はほとんど変わっていないが、
内装がだいぶリニューアルされ、
前にも増して多様な手漉きの紙が1階2階と所狭しと並んでいる。
玄関入ってすぐのところに、凄くかっこいい銅販の印刷機が2台あったので、
思わず「写真、撮っていいですか」と訊くと
「お断りしています」と間髪を入れずに返って来た。
よく見ると壁にこうある。
「店内の写真撮影はお断りします。
情報の無秩序な拡散に対する当方の挑戦です。店主」
みたいな文面の手書き書道の張り紙が張ってあった。
なるほど。
紙を注文してカットしてもらっている間に2階に行くと、
紙舗直の経営者坂本直昭氏のプロフィールと
和紙に対する考え方やこだわりが書かれたコーナーがあり、
見る者に緊張を強いる感じがある。
その脇にもう1枚張り紙があり、
「10年ぶりに正社員を募集します。
25歳から30歳まで。
27歳で私もここを始めましたが、
27歳というのは人生の重要なターニングポイントだと考えます。
ですので、その年齢の人で、紙舗直で人生を歩んでいきたいと思う方を
募集します」とある。
こだわるなぁ・・・。
雨が降るかもという天気予報にあわせ、
ビニールをかぶせてもらった紙筒を抱え、外へ出た。
千石の駅前から、次はバスで根津駅前まで。
谷根千は谷中・根津・千駄木の略称で、
我が学舎東京芸大のほど近く。
谷根千の千は千駄木の千で、千石の千ではないのだが、
横浜に住む私にとっては
千石の千ではないかと思うほど、
近いし、街の雰囲気も似ている。
なので、今日は個人的には『谷根千千巡り』といった感じ。
さて、バスを降りた根津駅前。
大学時代は根津の「甚八」という飲み屋に時折行った他は、
このエリアには大して興味ももたずに過ごしてしまったので、
昨今の谷根千ブームはビックリだ。
バスの中から見えた白山通りや言問い通りの風景は、
父の車で何度となく通った時のまま、
たぶん店は相当変わっているのだろうけど、
なぜか醸し出す下町の空気感は同じだと感じた。
紙屋さんの次の目的地は、根津の小さなギャラリーで行われている
友人達のグループ展だ。
案内状には今日が初日で始まりが13時からとあるので、
伺う前に腹ごしらえをと思って、入ったおうどん屋さんが大当たり。
「よろこび(慶)」という名前の、外装が真っ黒い小さなお店。
中は1階がカウンター6席だけ、2階にも7~8人は座れるのか?
幸い私は一発で座れたが、
常連さんが次々やってきて、この寒空に外で並んで待っている。
その1階の壁にも
「1本の道を行く。
信じた道を行く」
という書が書かれた額が飾ってある。
今日はどこへ行っても店主のこだわりを強く感じる店ばかり。
しかし、注文した「力うどん」が運ばれてきて、それも納得。
単に温かいおうどんの上に焼き餅がのっているだけみたいなものではなく、
餅は小さく切って天ぷらのように揚げてある。
うどんはコシの強い手打ち麺で、おつゆは関西風。
ネギと三つ葉と柚がたっぷり真ん中に盛られ、
白のすりごまを振りかけて食べるよう、小さな器が別添えだ。
手間暇とこだわりが一杯のおうどんにギュッと詰まっている。
非常に美味。
また、このおうどんを食べに、はるばる根津に来てもいいと思うほど。
もちろん私が学生の頃にこの店はなかった。
若い夫婦がふたりで切り盛りしているらしいが、
またいつか訪れた時も同じように心のこもった一杯を提供して欲しい。
次は肉うどんの肉がとろとろだと隣のお客さんが驚いていたから
それにしよう。
そして、無事、腹ごしらえも済み、
友人達のグループ展を「ギャラリー美の舎」というギャラリーで拝見。
まだ、出来て1年半だという小さなスペースに
銅販を中心にした小品が20数点ほど並んでいた。
感じのいい女性オーナーが話しかけてくれたので、
メンバーとの関係や、
自分の学舎がすぐそばなので懐かしいといった話をした。
初日なのに、友人達がだれも来ていなかったので、
作品だけを観ることになり、
そこはちょっと残念だったが、
なんといってもその前に食べたおうどんがあまりに美味しかったので、
今日はそれで満足だ。
帰りがけ、昔からある「和菓子舗笹屋」ののれんをくぐり、
「花びら餅」と「苺大福」と「谷根千もなか」をふたつずつ買った。
「谷根千もなか」とはひとつの最中の中に
小豆あん・白あん・抹茶あんの三種のあんこが入っている最中らしい。
この店の名物は昔からある「鈴もなか」だと思うが、
これまた、今日は谷根千という流行にのった感じの最中の方にしてみた。
さあ、この最中もこだわりの味か?
さっき食べた苺大福は大粒苺が甘くて美味しかった。
食べログには「季節のフルーツを包んだ大福が絶品」とあったので、
苺大福こそが、この店のこだわりの一品だったのかもしれない。
卒業して、早35年。
下町は下町の面影を残しつつ、
時代と共にゆっくり変化していた。
しかし、下町には確実に「こだわりの店主」が根付いていて、
妥協のない品を生み出し、
信念を貫いていたのが嬉しい。
帰りの京急の中で、空にかかる虹を見た。
2019年の『初虹』だ。
何だか、こいつぁ、縁起がいいわい~!
0 件のコメント:
コメントを投稿