今年はピアソラ生誕100年の記念の年。
といっても、
ピアソラって誰?という人にはピンとこないだろうが、
ピアソラはタンゴ界の巨匠、
現代タンゴの革命児と言われた作曲家だ。
そして、トリオ・リベルタという3人組は
2000年の結成当初から、
このピアソラが作曲した曲を中心に演奏して
今日に至っている。
今回はいつもチケットを取ってくれている友人Mさんも
写真に登場。
コンサート会場は
長津田にあるみどりアートパークホール。
初めて行く会場だった。
いつもこのリベルタのコンサートは
ライブのような形式が多いので、
座席が決まっておらず、
Mさんに整理券の調達からお願いしたりしていたが、
昨今のコロナ事情もあり、
今回は指定席制になった。
しかも、Mさんの長年のファンとしての功績か、
前から3列目の6と8番という
ヴァイオリンの石田様にかぶりつきの特等席だった。
いいお席だということは行く前から分かってきたので、
私は着物でめかしこみ、
いそいそと出かけた。
プログラムは当然、
オール・ピアソラ・プログラム。
トリオ・リベルタ『アストル・ピアソラの世界』
と銘打たれた
全曲、ピアソラものというファン待望のプログラムだ。
1曲目は
なんと「リベル・タンゴ」
「リベルタンゴ」はピアソラの代表曲で
そのセンセーショナルなリズムから
リベルタではアンコールの最後に演奏されることが多い。
というか、リベルタを聴きに来て、
リベルタンゴを聴かずに帰るなんてできないと
そう思うほどの〆の1曲なのだ。
ところが、今日は「リベルタンゴ2021ヴァージョン」
という形で
しょっぱながこの曲だった。
「リベルタンゴ」とは自由なタンゴという意味。
いつもの「リベルタンゴ」とは全く違う編曲がなされ、
3人のソロパートから始まった。
まるで、「俺たちはリベルタンゴをこんな風に
演奏してやる」とでもいうように、
既存の自分たちのリベルタンゴをぶち壊し、
コロナで閉塞感漂う今を打破する挑戦的な演奏だった。
今年はピアソラ生誕100年なので、
ピアソラを手掛ける他の楽団がいくつかある中で、
トリオ・リベルタの色を出そうということか。
他の選曲もいつもの感じと違い
初めて聴くピアソラを数多く盛り込み、
3人の意気込みが伝わってきた。
特にピアノの中岡太志さんの
今日の歌はとても良かった。
いつもは彼が歌い出すと
「あ~ぁ、また、歌っちゃったよ」と思うのが常だが、
今日は前から3列目で聴いていたけど、
いつもより声に艶があり、
感情表現が細やかだったというのは
友人と意見が一致したところだ。
プログラム後半は
アルゼンチンのブエノスアイレスという街に漂う
哀愁と退廃的な空気が会場を包んだ。
この会場にいる人で
死ぬまでにアルゼンチンのブエノスアイレスの地を
訪れる人はいるかいないかというほど
かの地は日本から遠く離れている。
しかし、彼らの演奏を聴いていると、
私にはブエノスアイレスの街角が思い浮かぶし、
血の色をした赤いドレスの女が
素足にピンヒールをはいて歩いているのが見える。
そして、女は1軒のバーのドアを押し、
中に入り、
強めのバーボンをロックで飲んでいると、
男がそっと近づいてくるのだ。
「レオノーラの愛のテーマ」あたりで
女はグラスをカウンターに置き、
男と組んで踊り出す。
曲に合わせて、時折、触れる男の腿の温もりと、
背中から伝わる踊りのステップの軽い指示。
男の視線が絡むことはないが、
背中に回された男の手の動きで、
女はすべてを読み解き、会話する。
な~んて、少しかじったタンゴのレッスンを思い出し、
更に妄想が頭を駆け巡る。
真昼間のコンサートなのに、
すっかり、心と体はブエノスアイレスに飛び、
見知らぬ男のリードで踊った気分になった。
トリオ・リベルタは今年の1月早々にも聴いたが、
今日の方が出色の出来。
帰りの電車で
友人と「やっぱり生で聴くのがいいよね」と、
今更ながらに
コロナで失ったこうした時間を憂い、
少し取り戻せた歓びを分かち合った。
今日のコンサートのアンコールは3曲。
3曲目に
いつものリベルタンゴを聴くことができ、
「やっぱり、この3人、好きだな」と思いながら、
岐路に着いたのである。
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