2021年3月29日月曜日

プロフィールと制作風景の撮影

 









花粉症による目の充血で
予定をずらしたプロフィール撮影の日がやってきた。

昨日は最後の仕上げとして、
初めてネイルサロンの予約を取って
ネイルケアをしてもらった。

マニキュアをしてもらうのではなく、
甘皮やささくれの処理をして、
爪を磨き、
トップコートを塗って艶を出すというケアだ。

通常、プロフィール撮影に臨むモデルさんには
フォトグラファーはもちろん、
メイク、ヘアメイク、スタイリストなどのプロが
スタイリングに関して関わり、
ポージングや表情の指示を出す人もいると思うが、
今回のプロフィール撮影に
そんなメンバーはひとりもいない。

いるのはフォトグラファーひとりだけで、
テーマに沿って
背景をどんな風にするのか、
そのためにはどんな機材がいるのかなど、
撮影に関する準備を整え、
はるばるさいたま市から横浜に来てくれる。

モデルの私は
モデルに関することすべてを自分でしなければならず、
ヘアスタイルをどうするか、
指先がたくさん写るからネイルサロンで
基本のケアをしてもらわなければ、
コスチュームは2パターンにしよう、
メイクは少し濃いめで…など、
あれこれ考えた。

今回は自分でテーマを決めて、
あらかじめフォトグラファーにメールしたので、
そのテーマに沿ったポーズはどんな感じか、
表情はどうするか、
小物になにか使って手の動きをつけようとか、
自分の手が美しく見える角度はなどなど、
ここ数日、
レポート用紙に図を描いて
イメージを膨らませてきた。

今日までにこのプロフィール撮影のことを知っている
何人かはとても楽しみにしてくれているし、
昨日、会った日本画家のグループのメンバーも、
「その写真集を楽しみに個展に行くわ」と
言ってくれているので、
ここはひとつ、いいものを作らねば。

11時、約束通りにH氏の車が
家の前に止まった。

車からよくそんなに大量の機材が積まれていたと
驚くほどのバッグやらシートやら、
ジュラルミンケースやらがおろされた。

午後には本摺りの制作風景を撮る予定なので、
和室の半分はすでに絵具や版木が広がっている。

2日前から、本摺りは始まっており、
工程の半分ぐらいは摺り終わっている。

画室の奥半分には場所がないので、
手前半分にスペースを作り、
ポールを立て
濃いブルーグレイの背景用シートが張られた。

大きな傘を広げ、ライティングの位置を決める。

瞬く間に画室は写真スタジオに変貌し、
カメラテストが行われ、
プロフィール撮影が始まった。

自分なりのポーズをとり、
表情を作ると、
「そんな感じでいきましょう」とOKが出たので、
いよいよ撮影開始。

黒いワンピースの深いVネックに沿うように
大粒のバロックパールのネックレスが垂れている。
パールが洋服の布にうまく沿っているか、
今、このポーズに対して
どんな表情をするかなどを確かめるために、
フォトグラファーの後ろに姿見を立てた。

背景の前に立ちながら、
自分が見える位置に姿見を置くことで、
モデルが自分で考え、ポーズをとることが出来る。

時折、フォトグラファーからは
「目線をもう少し、こちらにください」とか
「元の位置からゆっくり首を振ってみて」とか
「もう少し強い目をください」とか
「それ、いいですね」「美しい」などと、声がかかる。

そして、カメラから目を上げ、H氏は笑った。
「すごく練習したんじゃないですか」
「ばっちり決まってます」
「モデルさんは出来上がってますよ」と
お褒めの言葉をいただいた。

ポーズの参考にしていた高級女性誌の表紙を指して、
「この表紙でいけますよ」と言われ、
すっかり気をよくした。

かつて、小林幸子だけじゃなく、
マイケル・ジャクソンのプロフィール写真も撮った
H氏にそこまで言ってもらえれば、
今日までいろいろやってきた甲斐があるというものだ。

午後は上下黒のTシャツとパンツに着替え、
バレッタで髪をくくり上げ、
制作風景の撮影に臨んだ。

本摺りは、H氏が想像していたより、
よほどガテン系の作業だったらしく、
這いつくばり、バレンで和紙をこする姿を
覗き込むようにして、
カメラのシャッターが何枚も何枚も切られた。

H氏は畳に倒れこんで、
私と50㎝ぐらいしか離れていないところで
カメラを構えている。
カシャカシャとシャッター音が鳴り、
大きなカメラが前からも背後からも追いかけてくる。

うつむいた顔は力仕事に上気し、
耳まで赤く染まり、
額の血管が浮き上がっている。

終始、目は下を向いているし、
口は食いしばっているので、
何枚撮っても、どこから撮っても、
さっきのモデルと同一人物とはいえない写真ばかり。

これが版画家の真実なので
仕方あるまい。

本日、撮った何百枚かの写真の中から、
最終的にはプロフィール写真数枚と、
制作風景の人物入り数枚を選び、
自分の撮り溜めた彫りと本摺りの写真とを
組み合わせ、
1冊のアルバムにすることになった。

これからH氏の選んだ中から、
私が引き伸ばしたい好みの写真を選び、
プリントアウトしてアルバムにする。

まだ、H氏とは何回かのやり取りが必要だが、
4月12日までには間に合わせなければならない。

それを目当てに来てくださる方にも
納得していただけるような
いいアルバムになりますように。

今日は、個展直前、
最後の大仕事が終わったような安堵感と
疲労が押し寄せている。

ちなみに
本気で摺った「天使のくちづけ」も
2枚、無事に摺りあがっている。







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