2021年5月23日日曜日

映画鑑賞『茜色に焼かれる』

 







久しぶりに映画鑑賞に行ってきた。

尾野真千子主演
『茜色に焼かれる』

どういう意味だろうと思うようなタイトルだ。
映画評では尾野真千子の演技が絶賛されており、
尾野真千子自身も「命がけで演技した」と
いいながら涙していたので、
とにかく観に行こうと思った。

場所はTOHOシネマズ川崎。
近所のTOHOシネマズでは上映されておらず、
わざわざ川崎まで出かけていった。

チネチッタとも違うビルの7階と9階を使った
不思議な造り。
不思議といえば、トイレが青緑色一色に染まっていて、
アミューズメントパークの「宇宙への旅」みたいだった。

さて。
話は7年前、自動車事故である日突然
夫を亡くした女性の話。

映画の題材は
正に『日本の現代』を扱っている。

元社会的地位の高かったおじいさんが
ブレーキとアクセルを踏み間違えて突っ込み、
人をはね、
30代の女性と小さな女の子が亡くなった事件。

元社会的地位が高かったというだけで
大して罪にも問われずうやむやになりそうだったが、
夫が裁判を起こしたあの事件を
完全に想起させる映画の内容だ。

映画では
社会的地位が高かった人は認知症が始まっていたというだけで
罪にも問われず、
その後ものうのうと生きて
7年後、92歳の天寿を全うした。

しかし、事故で夫を失った方の妻は
シングルマザーとしてどんな生活になっているか。
「汚いお金は受け取れない」と賠償金を固辞したため
生活に困窮している。

交通遺児になった13歳の息子は
学校で先輩から言われなき中傷を受け、
傷つく。

女性は生活のために
昼は家庭用品の量販店でバイトし、
夜は風俗店で男の欲望を満たす風俗嬢をしている。

映画はR15指定で
子どもは観られないのだが、
かなりきわどいシーンが
平然と毎日の営みかのように流れる。

そこで吐かれる男尊女卑そのもののセリフ。
今だに日本の男はこんな意識レベルなのかと
吐き気がする。

その底辺ともいえる状況にいる女性たちの
心の叫び。

「まあ頑張りましょう」というのが
ヒロインの口癖なのだが、
怒りを押し殺し、
何かを自分に言い聞かせ、
気丈に振る舞うその心の底に宿るものは何か。

現代の日本の抱える問題をいくつも提示し、
コロナ禍において
こうした人たちが被るとばっちりにも似た
不幸な出来事の数々。

正に「今ここで」
何が起きているのか、
だいぶいろいろなものが私にも刺さってきた。

尾野真千子の演技力の高さは
以前から定評があるが、
監督曰くの「怪物級」はその通りだった。

石井裕也監督が
2020年2021年の日本に住んでいたからこそ
監督として創らなければと駆り立てられ、
社会の膿を出したかのような作品だ。

「茜色に焼かれる」の「茜色」の意味は
想像していたように
夕焼けの茜色だった。

「焼かれる」も想像通りだったのだが、
それは会場で直に確かめてほしい。

生きることの辛さを
「まあ頑張りましょう」の言葉で
乗り越えようと必死に生きる女性の物語とだけ
申し上げておく。












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