11月22日の夜
「熱狂の夜」石田泰尚スペシャルと題された
6回連続公演の最終公演を聴きに行ってきた。
1回目は6月3日「無伴奏」
2回目は7月2日で「デュオ」
3回目は8月30日で「トリオ」
4回目は9月24日で「カルテット」
5回目は10月17日で「アンサンブル」
6回目は11月22日で「コンチェルト」
音楽に精通している方なら分かる通り
回を追うごとに演奏家の人数が増えていく。
そして、中央にはいつも石田様が立ち
ヴァイオリンのソロを弾く。
そんな石田泰尚スペシャル
最終回は自身がコンサートマスターを
長く続けてきた神奈川フィルハーモニー管弦楽団
総勢約50名を率いて
全編、ソリストとして舞台中央に立ち、
演奏していた。
つまり、これがこの6回公演の集大成とでも
いうべき、エンディングであった。
曲目は
前半が、エルネスト・ブロッホ作曲
ヴァイオリン協奏曲
後半が、フィリップ・グラス作曲
ヴァイオリン協奏曲第2番
「アメリカの四季」
そこで、「へ~っ」といえる人はほとんどいない
全くポピュラリティのない選曲。
ひとえに石田様の好みで
この2曲を演奏すると決まったらしい。
指揮者の中田延亮さんでさえ、
今回、初めて譜面を見、
初めて指揮をした曲と語っていたほどだ。
当然、私はもちろん、一緒に6回聴いてきた
石田様フリークの友人でさえ、
全く知らないコンチェルトだった。
しかし、
熟睡必至と思われたが、
演奏が始まるとすぐに映像が
私の脳裏に拡がった。
2曲とも映画音楽のような曲調で
違うタイプの映像ではあるが
かなり鮮明に動画が脳裏を駆け巡った。
これよりは私の妄想劇場になるが
お許しいただきたい。
1曲目のヴァイオリン協奏曲は
最初のシンバルの音と共に
大きな重厚な扉が「ギギーッ」と開かれ、
中には淡いピンクの薄衣を身にまとった
美しい女性が立っている。
どうやら場所は中国。
時代は現在より200~300年は遡る。
カメラが部屋の奥の引きの映像になると、
皇太后が座るような椅子にその女性は座り
その前に長く伸びたテーブルには
あまたの料理が並べられ
兵士と思われる男性たちが酒盛りをしている。
曲調が変わると
今後は場面も転換し、
広い中庭で女性達が薄衣の裾をなびかせ
優雅に踊る場面になった。
栄華を極めた頃の中国の宮廷なのか、
大河ドラマのような壮大なスケールで
豪華で重厚な映像が延々と流れた。
これが1曲目の妄想劇場である。
2曲目は「アメリカの四季」と題され、
一定の音型を反復する
いわゆるミニマル・ミュージック。
解説には
ヴィヴァルディの「四季」に対抗して
作られた曲とあるが、
どのパートがどの季節なのか
作曲家からは明かされていないとかで、
実際に聴いても、
第1楽章が春なのか夏なのか
第2楽章が夏なのか秋なのかなど
全く分からなかった。
ただ、こちらの曲も映像は鮮明に出てきた。
ここからは2曲目の妄想劇場。
白い木製の窓枠に白いレースのカーテンが
かけられているが
結露による水滴がびっしりついていて
窓ガラスが白く曇っている。
外は冷たい雨。
部屋の中央のテーブルの前に女性が座っていて
タロット・カードで占いをしている。
女性の少し骨ばった白い手が
最後の1枚をめくった。
思ったカードが出たのに逆さまだったせいで
意味合いが逆になる。
女性は小さくため息をつき、
画面が女性の顔のアップになると
一滴の涙が頬を伝った。
曲調が変わると
女性は傘を差し、表に出て歩き出した。
雨と共に真冬の冷気がしんしんと女性の体を
包んでいる。
あるアパルトマンの前で止まり、
玄関のチャイムを鳴らすと
ドアの向こうに細身の男性が現れた。
彼女の恋人のようである。
男性はヴァイオリニストで
ちょうど今も次の公演のための曲を
練習していたところらしい。
ドアの向こうに女性を見つけた男性は
ちょっと驚いたような表情をした。
それでも、すぐに柔和な笑みを浮かべ、
手を差し出して、女性の手を取り
部屋の中に招き入れた。
彼は「手が冷たいね」と言ったけど、
そう言った男性の手もとても冷たかった。
ここからラブシーンでも始まるのかなと
私は密かに期待したけど、
次のシーンはなぜか
男性は隣の部屋に行ってしまい
ヴァイオリンの音が聴こえてくるばかり。
女性はひとり部屋に残され、
しかたなくキッチンに向かい
シチューでも作ろうかなと思っている。
そんなフランス映画のような映像が
次から次へと流れていった。
ヴァイオリニストの男性は石田様に違いない。
思いを寄せる女性がいたとしても
彼のような自分の世界がありすぎる男性は
結婚という型にははまり切らないし
たとえ、一緒に暮らすことになっても
女性は孤独だろう。
ひとりでいる孤独より
ふたりでいるのに孤独な方が
より孤独感は強い。
そんな美しくて寒々しい
ペールトーンの映像が流れていたので
「アメリカの四季」というタイトルとはかけ離れ
題するなら「フランスの冬」という感じだった。
ミューザの2000人近い聴衆の中に
同じような映像が浮かんでいる人はいないと思うが
いつもながらの私の勝手な妄想劇場は
今回は中国とフランスを舞台にして
旅に連れ出してくれた。
演奏が終わってみれば、
6回続きの公演も最終日。
やり切った感満載の石田様が
観客に向かって何度も何度もお辞儀し
声援に応えていた。
また、再来年あたりに
この「熱狂の夜 第3弾」があるかもしれない。
その時はまたチケットを買わなければと
友人と約束した。
石田泰尚というヴァイオリニスト
今、一番脂ののった50代初め。
私達は時代を共にし、
その世界に浸る歓びを感じた夜だった。
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