2015年8月18日火曜日

芥川賞の2作を読んで

 
 
又吉直樹の『火花』の単行本発売当初、
芸人の書いた純文学ということで話題になっている頃から気になってはいたが、
本屋で実際に本を買うまでには至らず、日が過ぎていた。
 
そうこうするうちに『火花』は芥川賞まで取ってしまい、
これはやっぱり読もうかなと思いつつも、
単行本の表紙のドロッとした赤い人型のような気持ち悪さが気に入らず、
それを押しとどめ、
これまた日が過ぎていった。
 
そして、1週間ほど前にまた本屋に立ち寄ると
今度は『文藝春秋』がでていて、
それには、芥川賞を取った『火花』と『スクラップ・アンド・ビルド』の両方と共に
選者による選評も載っているとある。
 
これはもう、ここで買うしかないと思い、
分厚い『文藝春秋』を求め、るんるんで家に帰った。
 
早速、『火花』から読み出したが、
それはここのところよくテレビのインタビューや対談番組などに垣間見る
又吉直樹の実直で真面目で控えめながら
オタッキーでねちっこい人柄そのもののような小説だった。
 
想像以上に豊富な語彙を駆使して、
真っ向勝負で、こつこつ書き進めていったという印象だ。
 
面白くて一気に読み終わってしまったが、
逆に彼の持てる力を全部出してしまったんではないかと不安になるぐらい。
 
内容的にも芸人を目指すものの心理や
特殊な世界の先輩後輩のありようが事細かに書かれていて、
いわゆる「楽屋落ち」ともいうような感じだから、
同じ内容で2回目はもうないだろうし、
これから先、何をテーマに書くんだろうと他人事ながら心配だ。
 
それでも、又吉直樹の人の良さと飄々とした感じは憎めないので、
何とか、これを一発屋の打ちあげ花火で終わらせず、頑張って欲しいなと思う。
 
一方、羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』もなかなか面白く読んだ。
すでに何回も芥川賞の候補にノミネートされながらも、
取った時には相手に話題をさらわれ、腐っているのかと思えば、
案外それを「便乗できてラッキー」と捉えるあたり、皮肉やなのか骨太なのか。
 
文中にでてくる主人公と同じく
作家自身も肉体を鍛えることに余念がないらしいから、
今回の2作はどちらも作家自身がモデルなのではないだろうか。
 
どちらかといえば、私は『火花』の方が好きだったが、
芥川賞選考委員9名による選評も掲載されており、
ひとりひとりが実名で候補作について感想や評価を述べており、
そちらも小説そのものと同じぐらい面白かった。
 
なぜかといえば、
『火花』が圧倒的勝利というわけではなかったということが分かったし、
それぞれの人柄・好み・選考委員の中の人間関係みたいなものも
透けて見えるからである。
 
テレビや新聞の取り上げ方を見ていると、又吉直樹だけがちやほやされ、
羽田圭介なんか霞んでいるし、
ましてや他の候補作についてなど知るよしもない。
 
しかし、『文藝春秋』をくまなく読めば、
少なくとも、鼻の差で賞を取ったり逃したりする人生の機微を感じるし、
それが、今後の彼らの人生に微妙に影響することも予想できる。
 
賞取り合戦は何の世界でも同じことが言えるのだろうが、
すんでのところで取れた人と取れなかった人がいて、
その差は大きな差になるかもなどと思った。
 
又吉直樹、小説家として一発屋にだけはなるなよ!
そう、私はエールを送ろう。

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