夕べ、久しぶりに石田泰尚のヴァイオリンコンサートに行って来た。
石田泰尚氏はブログにも何度か登場しているが、
私の中では『石田様』とお呼びして、ちょっと特別な存在である。
クラシック通でも何でもない私が、そのビジュアルから入り、
その『華麗なる世界』にズルズル引き込まれ、早5~6年にはなるだろう。
年に数回、彼が率いるトリオ・リベルタやらBeeやら、ピアニストとの競演やらと
コンサートに足を運んでは、
その圧倒的なパフォーマンスに酔いしれて帰って来る。
今回はピアニストの中島剛に伴奏をお願いしての演奏で、
印象としてはデュオというより、ソロコンサートといっていいだろう。
選曲がいつもの感じと違って、
前半に民族色の強い、あまり聴きなじみのない曲目が並んだ。
ファリャノ『スペイン民謡組曲』・クライスラー『ジプシー奇想曲』『ジプシーの女』
バルトーク『ルーマニア民族舞曲』・グラナドス『スペイン舞曲第5番』
という具合だ。
日本人のDNAにはあまり組み込まれていない異国臭の強いエキゾチックな曲目に、
会場の反応も遅く、
石田様のノリもじわじわという感じ。
それでも会場中に熱狂的な石田ファンが大勢きている空気は感じられ、
徐々にその石田ワールドが構築され、吸い込まれていく。
後半は石田様のファンなら「よっ、待ってました!」と声をかけたくなるような
選曲で、
最初にイザイ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタop.27より第2番イ短調』で
これでもかと石田ヴァイオリンの真骨頂を見せつけ、陶酔させてくれた。
その後、
あま~いナイジェル・ヘスの映画音楽2曲に続き、
ピアソラの楽曲を3曲たっぷり。
そして、アンコールには3度出入りして、3曲も応える大サービス。
ピアソラものに続き、
最後は『時の流れのように』などという初お目見えの曲まで弾いてくれた。
後半はその細い体とヴァイオリンが一体となり、私には踊っているとしか見えない。
街で会ったら、
ちょっと怖いおじさんだなと思って、思わずよけそうな風体の石田様。
丸刈りにそり込みのはいったヘアスタイル。
とがった顔だちに白黒のメガネフレーム。
細身の体にダボダボの黒いスーツ、エナメルの靴。
書いてみただけで、相当怪しい。
そんな彼が1690年製Tononiなる名器を抱え、
最初の音を奏でた途端に、
「えっ」と思わせ、人を前のめりにさせる魔力を持っているのだ。
コンサートでのMCを最も苦手とする彼が
もそっと「今日はありがとうございました」と挨拶しただけで
会場から拍手喝采がおこる。
何かもっと言うのかと固唾を飲んで見ているのに、
脱力した不思議なポーズを取り、身動きしないというだけで、
また拍手。
本当におかしな人だ。
そして、本当に魅力的なヴァイオリニストなのだ。
その特異な風体だけじゃなく、
実力があるから、熱狂的なファンが追いかけていて、
彼のコンサートには大量のおば様達が詰めかける。
なのに、全国区とは今イチ言い難い。
その「いい人みっけ!」と思わせる感じ。
「彼の魅力は誰にでも彼にでもわからなくていいの」という女心をくすぐる感じ。
そんな感じが、夕べも会場中に充満して、
石田様の一挙手一投足に一喜一憂する客席とで作る空気がたまらない。
今朝、9月8日のみなとみらいホールの『YAMATO』のチケットも取れるならと
チラシを手に電話をし、1枚ゲットした後に
電話口の女性が「何でお知りになりましたか?」と訊いてきたので、
「夕べのコンサートです」と答えたら、
「夕べもよかったですね~」と急にファン同志の会話みたいになった。
そんな風に神奈川県限定かもしれないが、
彼の熱狂的ファンが中心になって、石田泰尚を支えているんだなと感じる。
私は夕べ一緒だった友人ほどではないけど、
時折、熱狂的ファンの末席に座ろうかなと考えている。
ファン心理をくすぐる不思議な男
それが石田泰尚なのである。
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