土曜日から月曜日まで、
1歩も家から出ず、アトリエに籠って、
木版の試摺りと本摺りを決行した。
試摺りは1度はとっていて、
大体のイメージは掴めていたのだが、
金曜日に舟越桂の展覧会を観て、
大変刺激を受け、
もう一度、試摺りをとらなければという気持ちになった。
舟越桂の木彫の美しさ、
自分の作品も今回は彫り跡を生かした部分がたくさんある。
そこを大切にして、
画面で生きるように摺りたいのだ。
第3土曜日は陶芸の作陶日だったが、
1週間ずらしてもらい、
丸々3日間の時間を確保した。
買い出しも済ませてあるので、
完全に摺り師・季満野の態勢は整った。
土曜日に朝から今一度、1からの試摺りをして、
微妙に迷っていた部分の修正を加え、
イメージを固めていく。
土曜日の午後3時過ぎ、
本摺り用の和紙を湿し、
本摺り用の絵具を調合した。
本摺りの日は
そこで絵具をチューブから出して、他の色と混ぜたり、
水で溶いたりはしない。
本摺りの日はひたすら摺ることだけに集中する。
日曜日、朝5時半に目が覚めたので、
そのまま起きて、
朝飯前の摺りを始めることにした。
自然に目が覚めることが肝心で、
目覚まし時計は使わない。
普通の日は起きたら、
まず、朝食を作って食べるわけだから、
朝飯前の作業はノーカウントというか、
自分の中では「お得な作業」という位置づけだ。
(よく意味が解らないが、気分的にそんな感じ)
2時間、摺りをしてから
7時半に朝ご飯を作り、食べたので、
2時間で進んだ摺りは、
今日の予定の中で、お得に済ませられたというわけだ。
朝食で気分をリセットし、
午前中の作業開始。
(いよいよここから始まるという気分)
1日目は平摺りといって、1版目のたいらな摺りが
延々と続く。
木版は想像以上に力仕事だ。
作業は畳に置いた版木に向かって、前かがみになり、
ばれんを持つ手に全体重をかけ、
腕全体を使って摺る。
1度ではつぶせないので、
2度ずつ、絵具をのせては摺る、
絵具をのせては摺るを繰り返し、
均一な画面を作り出す。
その作業の果てに
腕は肩甲骨からずり落ち、前にズレるせいで、
手が後ろに回らなくなる。
トイレに行ってもウ〇チはしてはいけない。
なぜなら、手がお尻に届かないので、
拭くことができないからだ。
腰は90度とは言わないが、
75度ぐらいに曲げた状態で力を入れ続けるので、
気が付けば、ギックリ腰かと思うような痛みを伴う。
ダンナが最近、医者でもらってきた
ギックリ腰用のロキソニンテープを分けてもらい、
腰と肘に貼るも、痛みが引くわけではない。
そんな満身創痍はいつものことなので、
半ば、快感と諦観の内に、
作業は粛々と進められる。
なにしろ本摺りは慎重さと集中力が勝負。
時間をかけ、イージーミスだけはしないように
全神経を摺りに捧げる。
日曜日に予定以上のところまで、
本摺りは進んだのだが、
ここで色気を出して、もう少しで終わるとかと考え、
先を急ぐとろくなことはない。
頭と体が限界を超えて、
凡ミスを誘発するからだ。
終盤のデリケートな作業は次の日に見送り、
一度は筆を置くことが
大人のかしこい判断というものだ。
こんな風に1日目の本摺りは
8割がた、摺り終えたところで手を止め、
乾燥を防ぐ作業を施した。
その後、夕飯の準備とお風呂、
そして、始まった「天国と地獄」の初回を観た。
綾瀬はるかも高橋一生も渾身の演技で、
「麒麟が来る」なんかより全然面白かった。
(つまり3時間ぶっ通しでテレビっ子)
月曜日、今日はさすがに朝飯前の作業はなく、
いつものように起きて、朝食作りから始まった。
体はバキバキで、手もしびれているが、
少し、手は後ろに回る。
よく寝たので、頭も回るはず…。
残りの作業は
前回の作品で失敗した細いラインと、
細かい葉っぱ、
背景の大きな2版目の摺りだ。
背景の2版目は
1版目の絵具が十分紙に浸透していないと
艶びけを起こし、思った彩度が得られない。
つまり、黒に近い濃紺をのせたのに、
下の色と混ぜたような鈍い色になってしまう。
そうしたことも防ぐために
1日寝かすということが必要なのだ。
全部、摺り終え、
多少、リタッチを加える。
あまりリタッチを加えるとせっかくの彫り跡の
意味がなくなるので、
隙間ができて紙の白がうるさいところだけ、
ほんの少し、絵具をのせる程度にする。
そして、無事、摺り上がった4枚を
板に水張りし、乾くのを待つ。
和紙は乾くときに縮むので、
テープで止めてあるので引っ張られ、ピンと張り、
摺りの時にできたヨレヨレがシャンとする。
その時、絵具の特性で
乾くと色が明るく白っぽくなるが、
それは想定内の出来事として、
摺る時の色は調合されている。
こうして4枚の本摺りが完成した。
今回はイージーミスをすることもなく、
落ち着いて摺り上げることができた。
コロナ禍に2人目の孫が生まれたことに創意を得て、
創ったばぁば作品。
1人目の時だけ創って、
2人目はパスではかわいそうなので、
こんな風に作品に残せてよかった。
明日は気を取り直して、
ばぁばご飯を作りにいこう。
毎日、何かを作っているような気がするが、
何かを作れることの喜びと
だれかに喜んでもらうことは幸せだと感じる。
この腰の痛みと腕のしびれは
その勲章ということなんだと甘んじて受けようと思う。
「ばぁば頑張ったで賞」進呈!
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