2021年1月20日水曜日

オーママの味

 















3日間の版画の摺りの後、
次の日の火曜日は「シポリンワーク」の日であった。

カレンダーと相談しながら、
もし、摺りが終わらなかったら、
娘のところに行くのは1日ずらしてもらおうかとも
思っていたが、
何とか、月曜日中に摺り作業は後片付けまでできたので、
予定通り、火曜日に娘宅のご飯作りに向かった。

いつもなら、娘からは日曜日に希望するメニューと
揃えた材料が
長いLINEメールで送られてきて、
私は足りない材料やもう何品か考えたメニューの分を持って、
娘の家に向かう。

しかし、今回は摺りのせいで、体も頭もクタクタで、
新しい1品を考えたりする余裕はなく、
にんじん1本だけ、家の冷蔵庫から持ち出し、
朝イチで美容室に行き、ランチを済ませ、
娘の家へと電車に乗った。

というわけで、なんとか10品作ったのだが、
新味は全くなく、
既視感のある写真ばかりになっているが、
これがどっこい、シポリンにとっては
「おふくろの味」ならぬ「オーママの味」に
なっていたようだ。

今回のメニューは
「とんかつ」
「キャロットラペ」
「レンコンとサツマイモと豚肉の甘辛煮」
「サーモンのバターモンテ」
「ポテトのチーズ焼き」
「きのことピーマン、山芋のガーリック炒め」
「レンコンのきんぴら」
「真鱈の甘みそ焼き」
「ほうれん草とえのきのお浸し」
「ミネストローネ」
以上10品

要は和物と洋物をうまく織り交ぜ、
肉と魚が両方入ること、
野菜の種類も豊富に緑黄色野菜と根菜の両方入ること、
彩がいいこと。

特徴はこんな感じだ。
インスタ映えするとか何とかより、
彩のいい取り合わせは
栄養のバランスもいいはずだからである。

基本的には現在3歳半の志帆が美味しく食べられることが
第一条件なので、
大人しか食べられない味付けにはしないし、
生野菜はほとんどまだ食べさせていないので、
サラダがない。
例外はミニトマトで、
これだけは毎食、かなりの粒数食べているので欠かせない。

夕方、ママがベイビーを置いて
志帆の迎えに行く。
その間は料理の手を止め、ベビーシッターになるわけだが…。

戻ってくると、手洗いと着替えをし、
早々に「ごはん食べたい」と言ってくるので、
それまでにテーブルに10品揃え、
写真撮影も終わらせる。

大人にとっては早い時間だが、6時前から食卓に着き、
昨日も女ばかり4人(ベイビーも含む)で、
夕飯が始まった。

志帆はテーブルをぐるりと見渡してから
食べたいものを指定して、
お皿に取り分けてもらう。

必ず入るのが、
「ポテトのチーズ焼き」
「キャロットラペ」
「とんかつ」
「レンコンとサツマイモと豚肉の甘辛煮」
「レンコンのきんぴら」
あたりか。

かなりの量がすでにプレートに乗っているが、
娘としてはミネストローネも食べさせたいところ。

「それは明日の朝でもいいんじゃない」と私がいうと、
ママの「どうする?ミネストローネもいる?」
と訊く言葉に対し、
「それは明日の朝でいいんじゃない」と志帆は答える。

すぐに大人の言葉をオウム返しに使うので
怖い怖い!

順調にポテトのチーズ焼きととんかつを
上手にお箸で挟んで食べだす。

「お箸、上手になったわね」と褒めると
即座に脇に置いてあった子供用スプーンを私によこし、
「これはもういらないの」という。

そして、キャロットラぺもお箸で器用につかんで
食べだした。

キャロットラペに関しては
事前に娘からおもしろいエピソードを聞いていた。
「志帆ったら、私が作ったキャロットラペを一口食べて
吐き出したのよ。失礼しちゃうわ!」と。

すると、私のキャロットラペを食べながら、
「ママの作ったキャロットラペ、
この前、お口から出しちゃったのよ~」と、
ニコニコして言う。

「え~、そうなの。なんで出しちゃったの?」と訊くと
「お味がないからなのよ。
ママ、ちゃんとお味つけてくださ~い」ときた。

どうやら、最初の下処理の塩が足りず、
人参臭さと硬さが残っていたようで、
私の作ったものとは違うと感じたらしい。

私の作るキャロットラペは
手で切った千切りの人参に塩をして
水気が上がってきたら、水気は捨て、人参を軽く絞る。
オリーブオイルと野菜ジュースとレモン汁を乳化するまで
よく混ぜて、人参と和える。

ドレッシングに塩は入っていない。

干しブドウは水で膨潤させ、人参と混ぜ、
あれば、上にローストしたスライスアーモンドを散らす。

自宅で作るときは
干しブドウはラム酒で膨潤させている。

訊けば、娘はスライサーで人参を千切りにし、
塩はほんのひとつまみ、
干しブドウはそのまま和えたらしい。

きっと、人参の食感、塩味、人参臭さ、
干しブドウと人参とのなじみ具合など、
いくつかの要素が私のものとは違ったのだろう。

それを敏感に舌で察知し、
一口食べて吐き出すとは…。
恐るべし3歳児。

こうして、とんかつも気に入り、
ポテトのチーズ焼きもお替りし、
レンコンもシャリシャリといくつも食べた。

3歳児の知能と味覚が
こんな風に日々、形成されていくんだなと実感し、
笑えるエピソードの中に
大人の責任を感じた。

好きなものなら、
3歳でも「キャロットラペ」と発音し、
数々の料理の名前も覚えていく。

食べたい一心がお箸もあやつり、
取り分けた分をきれいに食べることを覚える。

食育が生活の基本とか言われているが、
オーママの味が数値では表せない大切な何かを
育んでいるんだと思い、
孫を育てる一端を担う面白さと共に
責任を感じた夕ご飯だった。
















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