7月21日金曜日、
友人に誘われ、
四ツ谷の「すし匠」というお寿司屋さんと
表参道の太田記念美術館で開催中の
「ポール・ジャクレー展」に行ってきた。
「すし匠」は場所が四ツ谷という遠方でもあり、
ふたりとも初めてのお寿司屋さん。
江戸前寿司の名店とかで、
夜に正面きって行ってしまうと
目が飛び出るようなお値段だとか。
しかし、お昼の「江戸前ちらし」なら
月水金の限定で、しかも40分間の時間厳守で
3000円だというので、
いったいどんなものなのか一度食べてみようと
いうことになった。
きっと敷居の高いお店だろうから
遅刻するわけにはいかないので早めにと
12時10分(こまか!)の予約に対し、
11時45分に集合し、お店を目指した。
意外やお店は四ツ谷から5分ほどで
すぐに見つかった。
通り過ぎてしまいそうな小さな店構えだ。
「ちょっと早すぎたからまだ無理ね」と
話していると、
お店の裏の戸口からいかにも寿司職人らしき
若い男性が出てきた。
「予約している者ですが…」と声をかけると
中の様子を見に行ってくれた。
「ご予約のお席はまだ空いていないんですが
小上がりのお席でしたら今すぐに
ご案内できますが…」といわれた。
とにかく小さなお店で
お客さんはカウンター席が8つ、
小上がりの小さなテーブルには2名しか
入らない。
「では、そこで」とお願いし、引き戸を開けると
玄関先にスールケースがいくつもあって
どうやら地方からこのお寿司屋さんめがけて
やってきたご一行様のようだ。
男女半々ぐらいでワイワイおしゃべりが
弾んでいる。
私達がそんな雰囲気のカウンターに通されても
居心地が悪いので、
小上がりが空いててラッキー!だ。
なんと言っても「こあがり」という響きが粋でいい。
カウンター席の面々は景気よく握りを注文し、
カウンターの向こうの若い寿司職人さんと
なんやかやと盛り上がっているので、
「こあがりが空いててよかったわね」と
私達は小声でささやいた。
しばらくして、予約しておいた
「江戸前ちらし」が運ばれてきた。
思わず「海鮮の宝石箱や~!!」と
彦摩呂さながらに叫びそうになった。
色とりどりのネタがキラキラと輝き、
中央にドーンとウニがのっている。
お汁は「シジミとあおさのお吸い物」で
通常、みそ仕立てにしそうなものだが、
素材の旨味とだしだけで味付けしたそうな。
それに各種お漬物とガリ。
「お味はついていますので、そのまま
お召し上がりください」とのこと。
たしかに江戸前寿司なだけあって
マグロ系は漬けになっているし、
白身は軽く塩がしてあるし、
タコととこぶしは柔らかく煮てある。
錦糸卵と海苔の海の上に
更にイクラがこぼれんばかりに盛ってあり
てっぺんにウニが鎮座している。
つい先ごろまで2000円だったランチが
いきなり3000円に値上がりしたと聞いていたが
まあ、これならしかたないかなと思える
豪華で手の込んだちらしだった。
私達は1時間ほどかけてゆっくりいただいた。
カウンター席から少し引っ込んでいたお陰で
寿司屋のカウンター特有の社交場のような
少し緊張感のあるおしゃべりからのがれ、
静かなひとときを過ごすことができた。
敷居が高いかもとかまえていたが
店の職人さんは予想外に若く、
老舗特有のつっけんどんな感じもなく
店を出る時も張りのある声が
いくつも追いかけて、見送ってくれた。
そこから、次はJRで原宿まで行き、
駅から徒歩5分ほどの太田記念美術館に
移動した。
表参道は強い日差しの中を多くの人が行き交い
四ツ谷駅周辺にいた人々とは
平均年齢が20ぐらい若いような気がした。
賑やかな大通りから脇の小道にはずれ、
ひっそり建っている小さな美術館。
版画中心の展示が行われているというのに
私は人生でこれが2度目のような気がする。
ポール・ジャクレーは3歳から亡くなる64歳まで
日本に住んでいて、
日本文化に精通し、日本画や歌舞伎などに
親しんでいたという。
新版画と呼ばれる木版画を始めたのは38歳ごろ。
自分は原画を描くだけで、
後は彫り師と摺り師に指示を出し
思い描く作品になるよう一緒に制作したらしい。
要は浮世絵と同じで
名前が残っているのは「絵師」だけで
後の「彫り師」と「摺り師」と「版元」の名前は
歴史上は残っていない。
しかし、浮世絵は版元が売れ筋の絵の注文を出し
絵師もそれに応える形で原画を描いていたので、
ジャクレーは版元の言いなりに創ったわけではないと
いうことが言いたいらしい。
しっかし、言わせていただければ、
私も木版画家の端くれだが、
私は絵師は元より、彫り師も摺り師も
自らが兼ねている。
版元がついているわけではないので
何を描こうが彫ろうが自由だ。
そのかわり、売ることに奔走してくれる人も
いない。
ジャクレーは今でいえば、
イラストレーターか。
ジャクレーはフランス人だけど、
日本文化に心酔しつつ、
東洋の南の島やジャワやセレベスなどの人々を
独特の感性で描写した。
メソッドが木版画という日本独自のもので
おフランスという異国のお人が
日本人とは違う目の付けどころで
アジア人の絵を描いたら
あら、なんてエキゾチック。
なんかずるいな~。
私は今日は朝から彫り台の前に座り込んで
新作の彫りをやっている。
ぼりぼりぼりぼり。ぽりぽりり。
彫っても彫っても終わらない。
いい加減、肩も凝ったし、
目もショボショボする。
どうも愚痴っぽくなっていけねえや。
ここらで一服しようじゃないか。
今日は昨日とはだいぶ趣の違う1日だ。
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