2023年7月8日土曜日

「プライド」について考えながら

 








目下、いつになく木版画の制作意欲が湧いている。

版画家を標榜している以上、
1年中、そうであって欲しいとは思うのだが、
何十年もやっていると
どうしても制作意欲にも波がある。

コンセプトが明確にあって形にしたい時もあれば、
最終の絵柄が思い浮かんでいて、
早く原画を起こしたい時もある。

一方で、これといったコンセプトもなく、
こんな作品を創ってみたいという情熱もなく、
「次の作品、どうすっかな~」と
テンションが上がってこない時もある。

大体、毎年の紫陽花展の出品作品が
出揃うと、
その後に安堵感と共に
何も次が思い浮かばないという状態に陥る。

今年もそんな空虚な2か月余りを過ごしていたが
紫陽花展での皆様の感想にヒントを得て、
今は新作の原画も2点分起こし、
トレぺに写してトレぺ原画もできたので、
一刻も早く
それを彫り始められるようにしたいと
思っているところだ。

そのためにはトレッシングペーパーの原画を
版木に分割して写す
「版木転写」という作業が必要だ。

私の場合「多版多色」を常としているので、
通常、1点の作品に10~12版ぐらい準備する。
両面彫りの版木(60×90センチ)を
1作品につき2枚半(3面)ぐらい
使って創っていた。

つまり今までは、中型作品2点だと、
2枚半×2で5枚の版木がいることになる。

しかし、今回は
版数を大幅に減らし、色数も減らし、
紙の白も生かした作品を創ろうと考えているので
版木は2点分で5枚を3枚で
済ませられるようにしたいと思っている。

とはいえ、版数は1点7~8版にはなるので、
それをいかに効率よく採りまわすのか。
版木上の場所取り合戦は熾烈を極め、
無い知恵を絞り、集中力の限りを絞り出した。

その結果、2日と少しかかってしまったが
何とか、3枚の版木の両面をくまなく使って
2点分の作品の版を転写し終えることができた。

この3日の間にも
カウンセリングやパティシエ学校の講義はあり、
考えることは多々あったのだが、
実はずっと頭に去来するキーワードがあった。

それは「プライド」という言葉である。

目下、6月から学校に行けなくなってしまった
12歳の女子のカウンセリングをしているのだが、
その女の子の口から飛び出した
不登校の理由が「プライド」だった。

中学1年生の女の子は
プライドが高いと自分でいうのだが、
中学に入って初めての中間テストの結果が
自分のプライドが許せないほど悪かったらしい。

受験戦争を勝ち抜いて
意気揚々と入学した私立中学だったが、
何かそこまで彼女のぴライドを傷つけ、
そこまで追い詰めたのか。

今は朝、学校に行こうと思っても
怖くて手が震え、体が動かないという。

人は「プライド」を盾に生きている動物だ。

そのプライドが傷つくようなことがあれば、
凹むだろうし、嘆くだろうし、
自分に怒りすら感じるかもしれない。

大人は「成績が悪かったなら、もっと勉強すれば
いいじゃない」と簡単にいうが、
勉強方法そのものが間違っていたとしたら
どうだろう。

定年を迎えた男性のうつの罹患率は高い。
定年後に直面する
自分の立場や現実が、男の沽券に関わるレベル
つまり「プライド」が許さないことが
原因になることが多いと言われている。

人の「プライド」とは何か。

版画家の名に懸けて
新作を創り続けることも私のプライドか?
やりくりして、3枚の版木に2点分の作品を
転写しきることもプライドを懸けているのか?

確かに版画家であることのこだわりも
プライドもなくしたら、
すぐにでもこんなめんどくさいことは
辞めにしてしまえるだろう。

12歳のプライドをどうやって取り戻すのか。
人はひとりで自分の人生をやりくりするしかない。
それは1歳だろうと80歳だろうと同じだ。

ただ、ついこの間まで「児童」だったから
親が相当、助けてくれていたにすぎない。

中学生は「学生」だ。
親がかりでまだまだ金銭面では助けが必要だけど
自分らしく生きていくこと
好きなことや得意なことを見つけて
生き生きと生きること、
それはみんなひとりでやっていかなければ。

あなたの「プライド」は何ですか?
私の「プライド」は?

そんな問いかけを受けて、
心理カウンセラーとして彼女に何ができるか。
考えつつ
版木と向かい合っている版画家である。













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