数日前から、いよいよ彫りの作業を開始。
絵師の仕事から、彫り師の仕事へ移行した。
浮世絵で言えば、
「絵師」「彫り師」「摺り師」「版元」の
4つのパートに分かれているのだが、
現代版画はひとりの人間が4つのパートすべてを
行っていることになる。
そのうちの「絵師」の部分は
まず、作品イメージを思い描いて
モチーフがある場合は取材したり
そのものを手に入れデッサンしたりして
作品のイメージを構築する。
それを鉛筆による原画として作成し、
一本線で描く。
更にトレッシングペーパーに写し取り、
トレぺ原画なるものを作る。
ここまでが「絵師」の仕事で
そのトレぺ原画を版木に転写する作業は
絵師の範疇でもあり、
彫り師の範疇でもある気がしている。
版木転写は神経を使う
案外、時間のかかる作業なのだが、
どう分割して、
どう効率よく版木に転写するか、
何版で何色ぐらいになるか考えている間に
「絵師」から「彫り師」へと
気持ちも移行していると言える。
そして、「彫り師」として
彫り台の前に座った瞬間から
気持ちは職人になり、
いかに正確にきれいに彫り進めるかに集中し、
心静かに版木と対峙することになる。
心は静かなのだが、
手と目は版木に転写されたカーボンの線に
忠実に動いて
彫刻刀の刃先を選び、
作業は進んでいく。
ただ、頭の中は意外と空っぽで
もう、何十年も続けている作業なので、
何も考えなくても彫り進めることはできる。
そんな時、頭の中では
カウンセリングにいらしている
クライエントさんのことを考えていたり、
娘のところに行った時の孫との会話や
お稽古事で友人と話したことや
所作の順番などを思い出している。
性格的にはくよくよするタイプではないので
思い出して後悔するとかではなく、
この時間はものごとを整理する時間で
次の行動をどうとるのがいいのか
決める時間にもなっている。
案外、深いことを考えていても
手元が狂うことはほとんどない。
BGMにクラシックのCDや
気に入っているJ-POPのCDなどかけて
背中を押してもらうこともしばしば。
この彫り始めのBGMに選んだのは
亀井聖矢君のピアノリサイタルのCDで
若き才能の感情の揺らぎに身を任せ
気持ちよく彫り進めることができた。
今月の版画のミッションは小作品2点の
「彫りをスタートさせる」とあるので、
彫り上げられないまでも
彫り進めて半分ぐらい彫れれば良しとする
つもりだ。
しかし、実をいうと、
昔から、決めた予定をクリアし
更にその先までいけた時の歓びは
望外のものがあるので、
今月のミッションも
2点分彫り上げたりしたら
テンションは上がるだろうなと思っている。
こんな風に自分の性格を理解した上で
上げたり下げたり、くすぐりながら、
予定を遂行する
それが私のやり方である。
0 件のコメント:
コメントを投稿