昨日、次女と一緒に
みなとみらいの映画館で
『PERFECT DAYS』を観た。
主役の役所広司が
昨年のカンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞し
話題になった映画だ。
日本とドイツの合作映画で、
監督はヴィム・ベンダースだが
俳優陣はすべて日本人だし、
舞台も東京だ。
物語は渋谷区の公共トイレの清掃員・平山の
日常を淡々と描いていて
セリフもほとんどないし、劇的展開もない
観る人によっては
「いったいどこがおもしろいんだ」と思うような
静かで抑揚のない作品。
清掃員の平山は、押上とおぼしき
築50年以上経っているようなぼろアパートに
住んでいて、
早朝、向かいのおばあさんが
竹ぼうきで落ち葉を掃く音で目覚める。
いつものようにせんべい布団をたたみ、
いつものように歯を磨き、ひげを整え、
いつものように清掃員の作業着に着替え、
いつものようにカメラと鍵と小銭を持ち、
ドアを開けると必ず、空を見上げる。
アパートの脇の自動販売機で
缶コーヒーを買って軽トラックに乗り込み、
缶コーヒーを一口飲み、車を出す。
走り出して少ししたら
東京スカイツリーが見えてきて、
それを合図にカセットテープをかける。
1960~1970年代のアメリカン・ポップスが
流れだし、
平山の表情がわずかに曲に合わせて和む。
『TOKYO TOILET PROJECT』で作られた
渋谷区の公園に点在する
オシャレなトイレを巡回し、
車を脇に止め、掃除道具を下ろし
手際よく丁寧にトイレを掃除する。
シフトによっては
若い清掃員と一緒の時もあるが
ほとんど何も話さず、黙々と清掃していく。
途中、どこかの神社の境内の木陰で
サンドイッチの昼食をとり、
その際、フィルムカメラで木漏れ日を撮る。
家にはそこの境内でみつけた樹木の若芽が
いくつもあり、
毎日、霧を吹いて大事に育てている。
仕事が終わって帰宅すると
自転車で銭湯の一番風呂に入りに行き、
夕飯は「おかえり」と声をかけてくれる
いつもの居酒屋で済ます。
就寝前には古本屋で買った本を読むのが常だ。
月に1回、フィルムを現像に出し
出来あがったものを引き取り、
いいものだけより分けて、
日付を書いて缶に保存している。
被写体は木の木漏れ日の様子ばかりだ。
毎日毎日、ルーティンのように
同じことが繰り返されているが、
時折、いつもとは違う人物が関わったり、
心が波立つような出来事がある。
まったく目立たない地味な繰り返し。
そこに『PERFECT DAYS』と題される
意味を見出せるか、
観る者に問いかけてくる。
それにしても、出演陣に
浮浪者のパフォーマーに田中泯
バーのママに石川さゆり
ママの元夫に三浦友和など
大物役者が出演していて
劇中で石川さゆりが歌ったりもしている。
若手俳優陣も秀逸で
イマドキを切り取った演技が
平山の人生に彩りを与えている。
また、カセットテープから流れる音楽が
私達の年代にはドはまりする曲ばかりで
英語の歌詞はよく解らなくても
曲自体は耳なじみのあるもので
時代の空気を運んで、
平山が過ごしたであろう若き日を
ほうふつとさせる。
映画館は割合、日曜日ということもあり、
若い人が多かったが
多分、若い人より
60~70代の人の方がいろいろな意味で
分かるのではないかと思った。
我が家のダンナのように
「トイレの清掃員の話のどこがおもしろいんだ」
と、観もしないで言っている70代もいるが
私はすごく染みるいい映画だと思った。
映画のエンドロールに
「木漏れ日」とはどういう現象かという
説明文が流れてきた。
映画のタイトルを
『木漏れ日』にするという手もあったと思うが
『PERFECT DAYS』にして
人生とは、生きるとはなど、
静かに考えてもらいたかったんだと思う。
0 件のコメント:
コメントを投稿