本日は朝からからりと晴れ、
朝の寒さから一転、日中は日差しも温かな好天に恵まれた。
朝の寒さから一転、日中は日差しも温かな好天に恵まれた。
キモノ好きとしては『帯付き』という格好で出歩くのに最適な天候である。
帯付きとはキモノに帯をしめただけの姿のことを指していて
道行コートやショールなどを羽織らないので、本来のキモノ姿で過ごせるということだ。
折しも桜は週末の強風のせいで散り際。
そこで銀ねずの地色に水の流れを金銀で線描きし、そこに桜の花びらが舞うという
正に「いつ着るの、今でしょ!」というべき訪問着に、
同じく水の流れを文様化した袋帯を合わせ、
ポイントカラーに渋めの紫を選び小物に使った組み合わせで着付けることにした。
私のキモノコーディネイトのポリシーはといえば、
キモノは無地場の多いあっさり柄、帯は格調があっても、しゃれて粋なもの、
どちらかというと物足りないぐらいの感じに
どちらかというと物足りないぐらいの感じに
ポイントカラーの小物達が加わり、
最後は口紅の色が画竜点睛でプラスされ完成するという考え方だ。
だから、ひとつひとつは案外地味なので、一般的ではないかもしれない。
今日は写真のその装いで、
大手呉服店が主催する展示会とお食事会に招かれたので
築地の老舗料亭に向かった。
キモノの展示会に出掛けるなんて、そんな危険極まりないと思うのだが
最初から決して新しい何かを買う気はないし、ただキモノ姿で伺うというだけだと
担当の女性には念を押しての訪問である。
とはいえ、何も見ないでご飯だけいただいて帰るなんてことも出来ないので
ひととおり展示会場を見ることにはなるのだが・・・。
滅多に立ち入ることができない老舗料亭の古い建物の中に入り、
正面の階段を上がるとすぐに展示会場になっていた。
まずは京都の老舗呉服店『重兵衞』のコーナーだ。
その最初の一歩目で目に止まったのが、
枯山水の岩と水(砂)が大胆にデザインされた銀地のつづれ帯。
岩の部分が渋い小豆色で銀糸の凝った刺繍で苔のような風合いが差してある。
色が渋い銀とグレー系の小豆色だけしか使っていないので、
一見派手さはないのだが、何とも粋でシックで重厚感もありながら都会的。
そこに八代目の若旦那(40代後半か)が目を輝かせてすり寄ってきた。
「これに目を止めてくださるなんて」と自慢げに帯を衣桁からはずし
「それにしてもなんてきれいにキモノを着付けていらっしゃる」と褒めちぎり、
「ご自分を知っていらっしゃるからこそのコーディネイトですね」とうまいところをついて
危険極まりない空気になってきた。
内心、きたきたきた~!と恐れながらも
キモノのコーディネイトと着付けを褒められて悪い気はしない。
更に会話の拍子に八代目から飛び出た言葉が
「キモノはちょっと物足りないぐらいのものに、こんな感じのすっとした帯をあわせて
後は小物で色を足して、最後は紅の赤でっせ」と。
じぇじぇ、どこかで聞いたような・・・。
つい、さっき、担当の女性が今日のキモノのセンスを褒めてくれた時に
ぶち上げた私のキモノポリシーそっくりの言葉だったものだから
私も担当さんもビックリ。
ですよね、ですよねと、すっかり意気投合して、
あわやその帯を買おうかというような気分になったが
お値段を聞いて、目が覚めた。
何と、368万円だったのである。
「えーっ、さんびゃくろくじゅうはち万円!?
私、車買うわ。それも相当な高級車が買えちゃうわ」
担当さんも「いくらよくても、そりゃないわ」という体で、
そそくさとその場から私を連れ出し、食事処へと案内してくれた。
料亭の松花堂弁当を食べている先にも計算機をもった部長なる男性がやってきて
「これではいかがでしょう」と見せてくれたが
そこにも「1,200,000」という文字が並んでいた。
「これでも軽なら車が買えますね」と笑い飛ばし、
結局、当初の意志を貫き、空ら手で展示会場を抜け出し、
銀座と原宿で開催しているふたりの友人の版画展に向かった。
けっこうイケメンの感じのいい八代目だったし、
キモノの話でツーカーになれ、楽しいひとときだったから
あれがもう少し現実味のあるお値段だったら、清水の舞台から飛び降りていたかも。
そのぐらい気にいった私好みの帯だった上に
息のあったキモノ談義だった。
それにしても、何なんだキモノって。
だれが買うんだ368万円の帯。
その上、おまけして120万って、意味が分からん。
私にとって『呉服屋こそが伏魔殿』
そうしみじみ感じた展示会なのだった。
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